いにしえより歩かれてきた大師道と山田道を縦走し、六甲山地の南北を結ぶ

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近世以降、神戸の中心部は六甲山の南側に当たる神戸市中央区付近だが、中世の頃には六甲山の北側にあった山田村界隈の方が都と直結するルート上にあり、栄えていたという。その頃から人々が多く往来した道の一つが、山田村から海側へ続く山田道。神戸でも屈指の古刹、再度山大龍寺の参道である大師道とともに、六甲山の南麓と北麓をつなぐ重要な道であった。よく整備されていて歩きやすく、見どころも多いこのコースを紹介しよう。

写真・文=根岸真理

沢沿いのなだらかな大師道。緑豊かな森の中を行く(11月下旬)

沢沿いのなだらかな大師道。緑豊かな森の中を行く(11月下旬)

起点となる諏訪山公園の最寄りは神戸市営地下鉄県庁前駅。神戸市バスの諏訪山公園下バス停からなら登山口に直結する。JRか阪神本線なら元町駅、阪急線なら神戸三宮駅か花隈駅となる。

登山口である諏訪山公園西側、関西国際大学山手キャンパス前の丁石

登山口である諏訪山公園西側、
関西国際大学山手キャンパス前の丁石


大師道は、毎日登山のメジャーコースでもあり、稲荷茶屋や燈籠茶屋、ジャズが流れる喫茶・はなれ家など一服できる茶店もあって、多くの人が日々の散歩道として利用している。登山道というよりは、街の延長のような散策路だ。東側に並行して、諏訪山稲荷の境内を通って山腹をトラバースする登山道もあるので、好みの方をチョイスしよう。

今年創立100周年を迎えた「神戸ヒヨコ登山会」が建立した地蔵尊

今年創立100周年を迎えた「神戸ヒヨコ登山会」が建立した地蔵尊


毎日登山の署名所にもなっている燈籠茶屋は、六甲山に多く点在する茶屋の中でも古い歴史を秘めた老舗だ。トーストとコーヒー、だし巻き卵や味噌汁、中華そばなどのメニューはどれも美味しい。日曜・祝日限定の「関東炊き」も懐かしい味。私はこのコースを歩く時、行動食はあまり持たず、ここでカロリー補給をすることが多い。

レトロなたたずまいの燈籠茶屋

レトロなたたずまいの燈籠茶屋

七輪の炭火でこんがり焼き上げるトースト。左の「アベック」は、ジャムとバターが半々

七輪の炭火でこんがり焼き上げるトースト。
左の「アベック」は、ジャムとバターが半々


猩々(しょうじょう)池を過ぎて大龍寺手前で東側の尾根道へ上がると、善助茶屋跡に「毎日登山発祥の地」の碑がある。かつて、神戸へ移住してきた外国人たちが、毎朝出勤前にここまでウォーキングをし、サインブックに名前を書いて帰ったのが毎日登山の発祥と言われている。そこから日本人の間にも毎日登山の習慣が広まり、現在も多くの人が実践している。

善助茶屋跡にある「毎日登山発祥の地」の碑

善助茶屋跡にある「毎日登山発祥の地」の碑


再度山(ふたたびさん)の頂上直下に建つのが、再度山大龍寺。弘法大師が遣唐使として唐の国へ渡る前に祈願に訪れ、無事帰国を果たしたのちに再度訪れたことから「再度山」の名がついたと言われている。境内西側を通る六甲全山縦走路に合流して再度越から再度公園へ下ってもよし、奥の院を経て山頂経由で行くもよし。近年、眺望伐採が行なわれて山頂からの眺めがよくなったので、時間があるなら山頂経由がおすすめだ。

和気清麻呂が創建したと伝わる、神戸でも屈指の古刹・再度山大龍寺

和気清麻呂が創建したと伝わる、
神戸でも屈指の古刹・再度山大龍寺


コースのほぼ中央付近に位置する再度公園は、休憩適地。広々とした園内にはベンチやあずまやもあり、トイレも完備。土日祝日にはカフェや売店も営業する。ここから仙人谷を下って洞川湖の東側を通り、学習の森を通り抜けて森林植物園西門へ。

修法ヶ原池のある再度公園。市民にとっては遠足でおなじみの憩いの場

修法ヶ原池のある再度公園。
市民にとっては遠足でおなじみの憩いの場


神戸市立森林植物園の園内は非常に広く、季節によって見どころがいろいろ。西門から青葉トンネルをくぐって長谷池を通るコースがベーシックだが、時間に余裕があれば、ブリスベーンの森や天津の森方面もめぐってみよう。天津の森や香りの道ではロウバイがあって、1月中旬頃からは一面よい香りを漂わせる。また、展示館近くのロックガーデンでは、早春から可憐なスプリングエフェメラルが開花する。サザンカ、ツバキ、ウメなども多く植えられており、冬枯れの季節も意外と見どころが多い。

森林植物園の長谷池

森林植物園の長谷池


山田道から谷上へ向かうには、森林展示館前の正門を出て西へ。車道を50mほど進むと、道路の向かい側に「山田道」の道標が見える。新興住宅地の縁を通って沢沿いを下っていく。ソーラー発電所を過ぎると、左手に弓削牧場への分岐。そこから先は、森の中の心地よい小径になる。沢沿いを下って、渡渉ポイントを過ぎるとほどなく谷上の市街地へ。

古道とはいえ、緑美しい本来の姿だけではなく、土地の造成が行われていたり、新興住宅地に変身していたり、ソーラーパネルに覆われていたり。六甲山がたどってきた歴史の縮図を見るようなルートになっている。悪天時は、森林植物園から送迎バスの利用がおすすめ。

県庁前駅~諏訪山公園~猩々池~大龍寺~再度公園~森林植物園~谷上駅

コースタイム:約4時間20分

⇒ヤマタイムで地図を見る

プロフィール

根岸真理(ねぎし・まり)

六甲山西端の神戸市須磨区生まれ。現在は六甲山東端の宝塚市在住。アウトドア系を得意とするフリーライター。親に連れられ、歩き始めると同時に須磨の山に登っていたため六甲登山歴60年。アルパイン歴は約30年。 神戸新聞「青空主義」欄で月に1回六甲山の情報(六甲山大学)を発信中。主な著書に『六甲山を歩こう!』『六甲山シーズンガイド春夏』『六甲山シーズンガイド秋冬』など。兵庫県立六甲山ガイドハウスで「山の案内人」ボランティア活動中。

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