登山の中にある危険を、安全なものに変えてみませんか? そのヒントをロープの達人が紹介します
バリエーションルートや難易度の高い登山では、高い水準のロープ技術が求められる場合がある。危険がつきものの上級者向けの登山を、少しでも安全に行うことはできないか。ロープワークのプロフェッショナル「特殊高所技術」山口氏から、安全登山のヒントを紹介していただこうと思う。今回は第1回目ということで、まずは「特殊高所技術」がどんな仕事をしているのかを教えてもらった。
特殊高所技術とは
私たち「特殊高所技術」は日々、橋梁・水力発電設備・風力発電設備・自然斜面(岩壁)などの高所へ、ロープでぶら下がって近接し、構造物の点検、調査、補修といった業務をしています。
「ロッククライミングみたいなことをしているんですよね?」とよく聞かれますが、違います。自分自身は登山・クライミングの経験があるからよく分かるのですが、特殊高所技術とクライミングは、まったく別物。ハーネスを付けて、ロープ・カラビナ・スリングを使っているという点では装備と見た目は似ていますが、何が違うのか? 端的に表現すると、
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クライミング=自分の手足で岩場などに登る + 墜落したときに地面まで落ちないようにロープで確保する
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特殊高所技術=高所へロープ等にぶら下がって移動する + その場にとどまって両手両足を自由に使い作業をする
という違いがあります。
一般的なクライミングでロープにぶら下がって移動する方法は、ほとんどダブルロープの懸垂下降でしか使いません。そうです、終了点にロープをダブルで掛けて、ルベルソやATCなどのビレイデバイスやエイト環といった下降器で下降するあれです。
こういったシンプルな懸垂下降技術では、複雑な形状をした構造物を自由に動き回り、必要に応じて両手両足を自由に使って作業をするということは難しいのです。つまり、クライミングで使われているロープワークは、短時間で岩場を下降して通過・移動するためのものです。
一方、私たち特殊高所技術の現場では、複雑な形状をした構造物に対して安全に近接し、その場にとどまって、自分の手足を自由に使える状態で調査・点検・補修といった作業を実施することを要求されます。
よって、クライミングで行われる懸垂下降のように、
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ロープを握っている手を離すと墜落の危険がある
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岩肌でロープが擦れて切断する可能性がある
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錆びたハーケンと日(紫外線)で褪せた残置スリングを支点にとらなければならない
といったような様々なリスク要因を、理論と技術で排除し、安全な高所作業を実現しているのが特色です。
これからの連載の中で、特殊高所技術の中にある高所での安全技術を紹介しつつ、皆さんの登山をより安全なものにする一助になればと考えています。
プロフィール
特殊高所技術 山口宇玄(やまぐち たかはる)
北海道中札内村出身。高校時代では札幌中央勤労者山岳会、大学時代に群馬山岳連盟桐生山岳会に在籍。就職後、川崎勤労者山岳会を経て、現在は京都の株式会社特殊高所技術にて技術部長を務める。一方で、一般社団法人 特殊高所技術協会の監事・講師として、技術者へのロープを使った高所作業の講習を実施している。
■株式会社 特殊高所技術
http://www.tokusyu-kousyo.co.jp/
■一般社団法人 特殊高所技術協会
http://www.tkgs.or.jp/
■ブログ:特殊高所技術の広場
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/
安全登山のヒントをロープの達人がご紹介!
バリエーションルートや難易度の高い登山では、高い水準のロープ技術が求められる場合がある。危険がつきものの上級者向けの登山を、少しでも安全に行うことはできないか。ロープワークのプロフェッショナル「特殊高所技術」山口氏から、安全登山のヒントを紹介していただこうと思う。