登山靴の紐の結び方で山の歩き方は劇的に変わる! 動画を見ながら、正しい靴紐の結び方を学ぶ

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登山中に適切な重心移動を行うには、足首が重要な役割を果たしている。その足首をシチュエーションに合わせて柔軟に動かすために、意外と忘れられがちなのが「靴紐」だ。今回は、登山靴の正しい靴紐の結び方に焦点を当てる。


前回の記事では、登り斜面で足首を前に倒して歩くことの重要性について解説しました。靴紐の締め具合一つで、姿勢が変わってくるということは私も知識として理解していましたが、前回の記事で自分自身の歩行姿勢を動画撮影してみて、「これほど違いが出るのか!」と驚いたほどでした。

★前回記事:重心移動を生かした歩き方をするために重要な役割を果たす「足首の動き」

登山歴20年を超え、山の歩き方を指導する立場にある私であっても、靴紐の締め具合でこれだけ姿勢が崩れます。登りと下りで靴紐を調整して歩くことは、それだけ重要な登山技術だと言えるでしょう。そこで、今回は靴紐の結び方について、動画を交えて解説していきたいと思います。

登りと下りで靴紐を調整する

ハイカットの登山靴を履いて登山を行う場合、登りと下りで靴紐を調整して歩くというのは、昔から言われていて、何となく聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。私自身は20代の頃に登山を始めて3年ほどは靴紐の調整の仕方を知りませんでしたが、初めて登りと下りでの靴紐の調整方法を先輩から具体的に教わった時のことは、今でもハッキリと覚えています。

では早速、どのような方法で、どの程度紐を調整したらいいのかを見ていきましょう。写真では分かりにくいので、まずは動画をご覧ください。

■登り・下り共通のポイント
足の甲からくるぶし付近まではゆるみがないように紐を締める

■登りのポイント
①くるぶしから上部は緩めるため、途中で紐を固定する
②固定部より上は足首を曲げ(脛を前に倒し)やすいように、緩めに紐を締める

■下りのポイント
足首を固定するために、くるぶしよりも上部(登りで緩めていた部分)もしっかり締める


山では登りよりも下りの方が足に強い負担が掛かり、足首の捻挫やバランスを崩しての転倒が起こると危険であるため、下山での安定性を考慮して、一般的にはハイカットの登山靴を履くことが適しています。ただし、こうしたハイカット登山靴の足首の固定力は、下山時に必要な機能ということです。下山時は靴紐を上までしっかり締めて固定しますが、ここで注意したいのは足首を動かなくさせるために紐を締めているのではないということです。

登りでは抵抗なくスムーズに足首を動かせる状態を作る。一方、下りでは足首を動かす際に靴紐が締まっていることにより、足首を動かす時にやや抵抗が起こり、ゆっくり動く状態を作り出したいのです。

下りの靴紐調整の目安、足首上部の紐に指一本がギリギリ入る程度

そのため、紐をきつく締めすぎて足首が全く曲がらなくなってしまったり、足首を曲げると痛くなるようでは紐の締めすぎになってしまったりしますので、締め加減には注意が必要です。

登りでは足首の可動域を発揮しやすいように、靴紐を緩めにして結ぶ必要がありますが、1本の靴紐を使いながら、足首部分だけを緩めるためには工夫が必要です。そこで、途中で靴紐を固定するのです。

最近の登山靴は滑りの良い丸紐が主流になってきているため、固定部では靴紐を3回巻き付けて横に引いて固定する方法が確実です。平紐の場合は2回巻き付けるだけでも靴紐を固定できる場合があります。

くるぶしよりも上を緩める時は、くるぶし付近で紐を3回巻きつけて固定する

紐を固定した後は足首が倒しやすいゆとりを持たせて緩めに靴紐を結びます。これは私の経験則ですが、靴紐の結び目の下に指が3本入る程度が、ちょうど足首が動かしやすい状態です。

登りの靴紐調整の目安、足首上部の紐に指3本が入る程度

登りの締め具合も、下りの締め具合も、履いている靴の生地の剛性によっても差が出てきますので、最終的には、今回の方法を参考にしつつ、ご自身がちょうど歩きやすくなる締め具合を探るようにしてみて下さい。

登り下りが連続する場所はどうすればいいか?

アップダウンが連続するルートの場合、判断が難しいです。

どちらかと言えば登りが多いのであれば、緩めにしておくのが良さそうですし、ご自身が登り・下りのどちらが苦手かで判断しても良いのかもしれません。

ミドルカット、ローカットの靴の場合は?

ミドルカットは足首の固定力が弱く、ローカットの靴では足首は全く固定されません。そのため、登りと下りで靴紐の調整は原則的には不要です。

こうした足首の固定力がない靴は、足首の固定力のあるハイカットの登山靴と比べると、登山時は大きな差が生まれませんが、下山時の安定性に差が出てきます。

ミドルカット・ローカットの場合、自分自身の筋力で足首の動きを制御しなければなりません。そのため、登山初心者の方や下山が苦手な方ほど、ハイカットの靴を履く方が向いていると言えます。

登りでは足首を素早く動かす、下りでは足首をゆっくり動す

こうした登りと下りの微妙な歩き方の違いに適応しやすくするためにも、靴紐を調整して歩きやすい状態を作り出せるようにしていきましょう。

さて次回は、下山時の重心移動について解説していきます。なお、こうした歩き方やバテない歩行技術をお伝えする講習会を定期的に開催しています。詳しくはホームページをご覧ください。

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方の密接に結びついている。 あるき方を頭で理解して見つめ直せば、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術に近づいていく。本連載では、写真・動画と一緒に、歩き方を論理的に解説。

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