六甲山地で一番早い春を訪ねて。ひねもすのたり 瀬戸内の海を眺める須磨の山歩き
六甲山地の西端は、平安の昔から和歌に詠まれ、物語の舞台となってきた風光明媚な須磨の浦。江戸時代の俳人・与謝蕪村が詠んだ「春の海 終日(ひねもす)のたり のたりかな」の句でも知られるように、山上からは波の穏やかな瀬戸内の海が目の前に広がり、標高は低くても、絶景が楽しめるエリアだ。いくつかの登山道があるが、今回は六甲全山縦走路の最初のパートから、須磨アルプス馬の背を目指すコースをご紹介。
写真・文=根岸真理
六甲全山縦走路は、東西に長い六甲山地の主稜線を端から端までつないだ長いルートで、実測すると約45km。毎年秋に行われる六甲全山縦走大会では、スタート地点が山陽電鉄須磨浦公園駅の近くとなっているが、本来の全山縦走路は塩屋が起点となる。JR/山陽電鉄塩屋駅北側の商店街を通り抜けて、山王神社、毘沙門天前を通って登山道へ。登山口までは、分岐ごとに建てられている毘沙門天への石標が頼りになる。
句碑を見るなら山陽電鉄須磨浦公園駅を起点に
塩屋駅から小一時間で須磨浦山上遊園へ。ふんすいランドを通って山上部を西側へ進むと、梅林がある。明石海峡と播磨灘、播州平野を一望する眺めのいい場所で、温暖なため比較的早くに梅が開花する。
色とりどりの梅が植えられている
縦走路で最初のピークが旗振山(※須磨浦公園駅から山上を目指すと、鉢伏山が最初のピークとなる)。かつて、大坂の米相場の変動などを各地に伝える旗振り通信が行われていたところで、大坂から岡山まで7分程度で伝達していたという。
またここは摂津と播磨の旧国境にあたり、松尾芭蕉が「蝸牛(かたつむり) 角ふり分けよ 須磨明石」と詠んだ風景が眺められるところ。
須磨浦公園駅からの道はここで合流する
東へ進むと、次のピークが鉄拐山。ほぼ水平の巻き道もあるが、何年か前の景観伐採で山頂部の眺望がよくなっているので、余裕があれば立ち寄りたい。
おらが茶屋を過ぎるとコンクリート階段の下りとなり、高倉台の住宅街へと続く。バス道を陸橋で越えると再び長いコンクリート階段の登りに。「400段階段」と呼ばれているが、縦走路で登るのはそのうちの350段ほど。
歩いてきた山と明石海峡、淡路島が見える
階段を登りきると再び山道となり、次のピークが栂尾山。山頂に小さな木製展望台があり、ここも絶景スポットだ。須磨エリアの最高峰とされる横尾山(312m)を過ぎるといよいよ須磨アルプスの核心部、馬の背。花崗岩がむきだしになったやせ尾根で、なかなか迫力のある景観。写真映えするため、SNSの人気スポットでもある。
もあるので、譲り合って安全に
馬の背を過ぎると東山の山頂へ。全山縦走路は北へ下って横尾団地へと向かう。板宿方面へ下山するには、右側の道へ。枝道は多いが、主要な登山道はしっかり整備されている。ゴールとなる板宿の商店街は活気があって飲食店も多く、下山後のお楽しみにも事欠かない。
MAP
コースタイム:塩屋駅~須磨山上遊園~旗振山~鉄拐山~栂尾山~横尾山~馬の背~東山~板宿駅:約3時間
プロフィール
根岸真理(ねぎし・まり)
六甲山西端の神戸市須磨区生まれ。現在は六甲山東端の宝塚市在住。アウトドア系を得意とするフリーライター。親に連れられ、歩き始めると同時に須磨の山に登っていたため六甲登山歴60年。アルパイン歴は約30年。 神戸新聞「青空主義」欄で月に1回六甲山の情報(六甲山大学)を発信中。主な著書に『六甲山を歩こう!』『六甲山シーズンガイド春夏』『六甲山シーズンガイド秋冬』など。兵庫県立六甲山ガイドハウスで「山の案内人」ボランティア活動中。
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