潮風と登山が楽しめる 海が見える名低山5選

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山の上から海を眺めると、極上の開放感に浸ることができる。
今回は、関東近郊で、山から海が眺められる低山を5つ紹介しよう。

 

山から眺める海の風景......至高の非日常体験

鋸山にて、東京湾を望む展望台から見た南側の海岸線

推薦人:木元康晴
1966年、秋田県出身。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

日常生活から抜け出して、自然のなかを歩くのが登山の楽しみだが、それに海の展望が加わると、非日常感がアップする。波が打ち寄せる海岸線や行き交う船、どこまでも広がる海原を見渡しながら歩くのは、普段の山歩きにはない爽快感がある。

関東地方と近県で、海の間近に山があるのは神奈川県、千葉県、静岡県。ここではその中でも人気の高い、定番の山を選んだ。東京都も海はあるが、海岸は港湾地帯だ。しかし伊豆諸島の島々には山がある。今回は前夜発日帰りで登れる伊豆大島の山を選んだ。さらに登山ではないが、自然の残る海岸線には、ハイキングコース的な歩道がある区間も多い。その中から、古くから歩かれているコースも1つ選んでみた。

 

海辺の奇岩から花咲く丘の海を見渡す展望台へ

大楠山(おおぐすやま)

神奈川県/241m
立石バス停~前田川遊歩道~大楠山~大畑橋~衣笠城跡~衣笠山公園~JR横須賀線衣笠駅/日帰り 4時間35分

大楠山の展望塔から見た富士山。右には江ノ島も見える

三浦半島のほぼ中央に位置する大楠山は、半島中の最高峰。西側から登る登山口は海の間近で、山頂の展望台からも、周囲の海を見渡せる。スタート地点としておすすめなのが立石バス停。そこから海岸に下りたところには、奇岩の「立石」突き出ている。そこから本来の登山口である、前田橋まで歩いても15分だ。

渓流沿いの前田川遊歩道を過ぎて、樹林の中の登山道を登っていくと、春には一面に菜の花が咲く大楠平に到着。さらにその先の、左へ向かう階段を登ると広い大楠山の頂上だ。螺旋階段で登る展望台に立てば、三浦半島を囲む東京湾や相模湾の海原が広がっている。

東へ下って横浜横須賀道路を、衣笠城跡を経て衣笠山公園へ。ここに立つ展望台からは、東京湾が見渡せる。

奇岩・立石から相模湾を隔てて見た富士山

菜の花が咲く大楠平とレーダー雨量観測所

MAP

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おすすめ展望スポット

スタート地点の立石は、江戸時代の絵師・安藤広重(あんどうひろしげ)も描いた絶景スポット。もっとも展望が良いのは、大楠山頂上に立つ展望塔だが、強風時には閉鎖されるので要注意。大楠平のレーダー雨量観測所の隣の展望台も、駿河湾や房総の山々を見渡せる。さらに衣笠山公園の展望台では、東京湾と行き交う船の様子を一望できる。

山麓情報

衣笠駅には、昭和の趣きを感じさせる『衣笠大通り商店街』と『衣笠仲通り商店街』の、全長約250mのアーケードが隣接している。食料品や日用雑貨の店が目立つが、定食屋や中華料理店のほか、カフェや居酒屋などの飲食店も充実している。

 

石切場跡を巡りながら見渡す東京湾の眺望

鋸山(のこぎりやま)

千葉県/329m
JR内房線浜金谷駅~車力道入口~鋸山~東京湾を望む展望台~ラピュタの壁~浜金谷駅/日帰り 2時間55分

ラピュタの壁から東京湾を隔てて見た富士山

観光地としても人気が高い鋸山だが、登山としておもしろいのは、北面の石切り場を巡るコース。青い東京湾の海原を見渡せるスポットが多い。

浜金谷(はまかなや)駅から車力(しゃりき)道入口へ向かい、石を人力で運んだ道を登れば、間もなく絶壁に続く急な階段となる。登り切って左へ進めば、鋸山の頂上だ。視界は限られるが、南西側が開けて東京湾を望める。引き返し、階段の手前を左に登ると360度を見渡す東京湾を望む展望台。たくさんの船が行き交う様子を一望できる。

階段を下って石切場伝いに左へ進み、岩舞台の先の急な階段を登った右側が、圧倒的な高度感の壁面に突き出たラピュタの広場。ここから望む東京湾も雄大だ。階段を引き返して分岐を直進すると観月(かんげつ)台で、そこから階段を下れば間もなく登山口に着く。

観月台に下る途中で振り返って見た鋸山

東京湾を望む展望台から金谷港

MAP

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おすすめ展望スポット

一番みごとなのは、東京湾を望む展望台。「地球が丸く見える」展望台とも呼ばれていて、東京湾だけでなく、南側に続く海岸線も見渡せる。高度感抜群の、ラピュタの壁もすばらしい。観月台からも、間近になった金谷港を見下ろせる。

山麓情報

登山者に人気なのは、浜金谷駅の手前にある笹生精肉店まつばやのコロッケ。80円とお値段も手頃で美味しい。金谷港の近くには、食事ができる店も多い。手軽なのは、回転寿司の「地魚鮨 船主(ふなおさ)」で、地あじの握りは絶品。日帰り入浴は浜金谷駅近くのかぢや旅館で可。12~19時まで、700円。

 

駿河湾と富士山を眺める日帰り縦走コース

鷲頭山(わしずやま)

静岡県/392m
多比バス停~大平山~鷲頭山~志下坂峠~徳倉山~八重坂峠~香貫山~黒瀬バス停/日帰り 6時間

小鷲頭山から見た駿河湾と南アルプス、富士山

7峰5峠と称される伊豆半島の沼津(ぬまづ)アルプスは、アップダウンの多い縦走コースとして人気が高い。

多比(たび)バス停から多比口峠へ登ったら、まずは東の大平(おおひら)山をピストンしよう。引き返し、ウバメガシの岩尾根を抜けてコース中で最高峰の鷲頭山へ。少し下った小鷲頭山からは、駿河湾の上に連なる南アルプスと、その右手には富士山を望む。

急斜面をロープ伝いに下ったところが、志下(しげ)峠。そこからはきらら展望台、奥駿河パノラマ台、さざなみ展望台と、海を見渡す展望スポットが続く。最後の香貫(かぬき)山は公園になっていて、展望台に立てば北に富士山、南にたどってきた縦走路、そして西側には駿河湾の壮大な海原が広がって爽快だ。

奥駿河パノラマ台から見た西伊豆へ続く海岸線

沼津アルプスのハイライト・ウバメガシの岩尾根

MAP

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おすすめ展望スポット

小鷲頭山から海を隔てて見る南アルプスと、その右にそびえる富士山の景観がすばらしい。香貫山展望台も、360度を見渡せる絶景スポット。奥駿河パノラマ台、さざなみ展望台から見る駿河湾もみごとで、ほかにも景色のいい場所が点在する。

山麓情報

沼津駅南口からバス11分で着く沼津港には、沼津魚市場があって海産物を販売しているほか、食事処も数多く新鮮な魚介類を味わうことができる。店舗数がとても多いので、港で配布している「ぬまづみなとまっぷ」を見ながら、好みのお店を探すのが楽しい。

 

周囲の海原を望みながら噴火口を一回り

三原山(みはらやま)

東京都/758m
大島公園バス停~テキサスハイキングコース~裏砂漠~剣ヶ峰~火口西展望所~三原神社~三原山温泉バス停/前夜発日帰り 5時間20分

火口一周遊歩道の南端から見下ろした三原山の噴火口

伊豆諸島の島々はどれも火山島で、海を見渡す山歩きが楽しめる。なかでも伊豆大島の三原山は、往路は大型客船の夜行便、復路はジェット船を利用して、現地はバスやタクシーで移動すれば前夜発日帰りで登ることができる。

大島公園の先のテキサスハイキングコース入口から、樹林帯を歩いて大島一周道路を横断すると、やがて周囲の木立はなくなり広大な奥山(おくやま)砂漠を歩くようになる。岩が目立つ新溶岩流跡を越えて、左に裏砂漠見ながら登れば、火口一周遊歩道に着く。周囲に遮るものがなく、海を見渡しながら歩く爽快な道だ。青い海と、赤茶けた火山景観を見渡しつつ、登山道最高地点の剣ヶ峰、火口展望台、三原神社と一回り。温泉ホテル分岐に引き返し、一直線の道を進むと大島温泉ホテルに着く。

火口一周遊歩道から見た太平洋

剣ヶ峰の近くでは水蒸気が吹き上がる

MAP

 

おすすめ展望スポット

火口一周遊歩道は、終始海を見渡しながら歩く絶景の道だ。視界が良ければ、北の相模湾の向こうに富士山が、南の太平洋上には利島や神津島など伊豆諸島の島々が見える。また火口展望台は山頂部全体を見渡し、火口西展望所は噴火口を見下ろす。

山麓情報

下山場所にある大島温泉ホテルには、三原山を一望する開放的な露天風呂があり、日帰り入浴もできる。13~20時、800円。ただしレストランはない。帰りの船が出る元町港、または岡田港の周辺には食堂やカフェが多い。

 

長く続く岩礁地帯を歩く絶景堪能コース

三浦半島・岩礁の道(みうらはんとう・がんしょうのみち)

神奈川県/35m
松輪バス停~剣崎~江奈湾~白浜毘沙門天~毘沙門湾~盗人狩~宮川町バス停/日帰り 4時間45分

剣崎灯台から東京湾を隔てて見た房総半島の山並み

ここで紹介するのは山ではなく、海岸線そのものを歩く、関東ふれあいの道「三浦・岩礁のみち」。岩場を歩く区間も多いので、日帰り登山と同様の装備やウェアで向かうのがおすすめだ。

松輪(まつわ)バス停から畑地の中を緩やかに下り、間口(まぐち)漁港に出たら右へ進むと、岩礁の続く広い海岸に出る。ここが剣崎(つるぎざき)で、やや奥から登れる灯台からは、東京湾を隔てて房総半島の山並みを見渡す。海岸に戻って岩礁を進み、江奈(えな)湾に入ったら、干潟を迂回するように車道を右へ。畑地に立つ標識を目印に、白浜毘沙門天の先で海岸に戻り、毘沙門湾で再び車道を歩く。次の海岸をたどる区間が、このコースのハイライト。千畳敷、盗人狩、観音岩と、みごとな岩礁帯が連続する。海岸歩きは宮川湾で終わり、舗装路を歩いて宮川町バス停へ。

平らな岩礁が一面に広がる千畳敷

地層が目立つ岩礁から突き出た観音岩

MAP

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おすすめ展望スポット

終始展望は良いが、遠くを見渡せるのは剣崎灯台だ。房総半島の山々や、伊豆大島を一望できる。海岸そのものの美しさが際立っているのは、毘沙門湾と宮川湾の間。山では目にすることのない景観が続き、新鮮だ。また江奈湾の奥にある泥地は、首都圏では貴重な干潟で、さまざまな生き物の生息地になっている。

山麓情報

もし途中で昼食をとるならば、毘沙門湾にある毘沙門茶屋がおすすめ。焼魚や刺身の定食が美味しい。海岸線歩きを終えた宮川湾にあるまるよし食堂も、定食の種類が豊富で人気のお店だ。または宮川バス停から市街地を25分ほど歩けば、たくさんの飲食店やお土産物屋がある三崎港へも行ける。

 

惜しくも選考から漏れた名山たち

神奈川県では三浦アルプス、千葉県では富(とみ)山、静岡県では発端丈(ほったんじょう)山を候補に上げたが、アクセスや登山内容を比較検討した結果、割愛した。伊豆諸島では神津(こうづ)島の天上(てんじょう)山も有力候補だったが、遠いので選考から外れた。海岸線では、鎖場もあった荒崎・潮騒のみちを選びたかったが、岩場が崩落してコースが変更になってしまったために除外した。

プロフィール

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

 ⇒ホームページ

登山の達人が教える関東近郊名低山

都市圏から、日帰りで楽しめる低山は数多く存在する。登山ガイドや山岳ライターなど、山を歩き尽くしている登山の達人が、関東近郊の名低山を紹介する。

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