庄内の小さなアルプス・荒倉山へ。春の日本海を眺めるハイキング

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

山形県・庄内平野の南西に、庄内の小アルプスとも呼ばれ親しまれている小さな山脈があります。日本海に沿ってさながら屏風のように連なり、北東の高館山までつながっています。今回はその主峰、日本海を望む春におすすめの里山・荒倉山を訪ねます。

写真・文=斎藤政広

池ノ台からの眺望

池ノ台からの眺望

日本海沿いに走る羽越本線は、新潟方面から北上を続けて来ると三瀬を過ぎて海から離れ庄内平野の地へと入っていきます。矢引トンネルを抜けると、羽前水沢駅。かつて作家の横光利一はこの地の風景に魅了され、荒倉山麓の集落を舞台にした名作『夜の靴』を執筆しました。

「ああここがいちばん日本的な風景だと思ったことがある・・・・この平野の羽前水沢駅に汽車が停車したとき、私は涙が流れんばかりに稲の穂の美しさに感激して深呼吸をしたのを覚えている。」と、その情景を本作の中で表現しています。

今回は日本海側に面した由良地区の八乙女口から尾根道を丁寧にたどって、荒倉山の山頂を目指します。

八乙女口より、なだらかな道を進む

八乙女口より、なだらかな道を進む


八乙女口からの気持ちのよい山道は、やがて金山からの道と合流して緩やかな山道となり、眺望のよい池ノ台に着きます。由良の山々や日本海が大きく見渡せる場所です(冒頭写真)。ほっとハウスがあり、休憩することもできます。

尾根上からは時折、海岸線が望める

尾根上からは時折、海岸線が望める

ほっとハウスは可愛らしいたたずまい

ほっとハウスは可愛らしいたたずまい


春の山で、可愛らしい花々も迎えてくれました。

キブシ

キブシ

キクザキイチゲ

キクザキイチゲ


池ノ台からは、緩やかな気持ちのよい下り道になります。鞍乗峠と呼ばれる鞍部に出ると、目の前に大きく樹林に抱かれるように荒倉山が望めます。ここで山口地区からの道が合流。かの横光利一は山口からこの地を訪れ、日本海が望める風景をことのほか楽しまれたようです。

鞍乗峠からの荒倉山

鞍乗峠からの荒倉山


荒倉神社方面に車道を歩き、神社への分岐道から離れて登山道に入っていきます。この道すがらも眺望がよく、月山や、手前の金峯山から連なる山脈、母狩山、湯ノ沢岳などが望めます。近くには水沢集落の後ろに熊野長峰も望めます。とっかかりがややきつい登山道はやがてブナ林の道になり、山頂に向かって高度を上げていきます。

真っ白な月山(左奥)と、右に母狩山

真っ白な月山(左奥)と、右に母狩山

湯ノ沢岳(左)、熊野長峰(右)を望む

湯ノ沢岳(左)、熊野長峰(右)を望む


油戸への道を右に見て進むと、大きなホオノキが現われます。見通しがよく、テレビアンテナのある高館山と鳥海山の美しい姿が望めます。この風景は今はまだ健在ですが、高館山と荒倉山に連なる山々に巨大風車の建設計画があるようです。

ホオノキのある展望所。遠くに美しい鳥海山を望む

ホオノキのある展望所。遠くに美しい鳥海山を望む


まもなく荒倉山山頂へ。ゆったりとした山頂部ですが、周囲の樹木に葉が茂る頃になると眺望はきかなくなります。ゆったりとくつろいで、この時期ならではの風景とともに、山頂での時間を楽しんでいただきたいと思います。

荒倉山山頂

荒倉山山頂


帰路は、往路を忠実にたどり日本海を愛でながら八乙女口まで下りますが、各所に道がのびているので、竹ノ浦、山口、金山への各集落に下るのもまたよいでしょう。下山後は、ちょっと足をのばしてクラゲのユニークな展示で話題の加茂水族館に立ち寄るのもおすすめです。

成虫で冬越しをするルリタテハが羽を広げて日なたぼっこ

成虫で冬越しをするルリタテハが
羽を広げて日なたぼっこ

ナガハシスミレ

ナガハシスミレ

 

MAP

八乙女口~池ノ台~鞍乗峠~荒倉山~八乙女口
コースタイム:約3時間35分

プロフィール

斎藤政広(さいとう・まさひろ) 

横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。

今がいい山、棚からひとつかみ

山はいつ訪れてもいいものですが、できるなら「旬」な時期に訪れたいもの。山の魅力を知り尽くした案内人が、今おすすめな山を本棚から探してお見せします。

編集部おすすめ記事