六甲の山肌を染めるピンク色の岡本桜回廊。薬大尾根から保久良神社をめぐるお花見ハイキング

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六甲山地の一角、神戸市東灘区の背後に、岡本桜回廊と呼ばれる尾根筋がある。サクラの時期になると、山麓を走る電車の車窓からでもくっきりと見える桜色の尾根は、六甲山に爛漫の春が来たことを告げるものの一つ。山の中に咲くサクラと、海を見下ろす眺望をともに楽しむお花見ハイキングはいかが?

写真・文=根岸真理

神戸薬科大学の上に出現する桜色の尾根。写真提供=岡本(ほくら~ととや)桜回廊づくりプロジェクト

神戸薬科大学の上に出現する桜色の尾根。
写真提供=岡本(ほくら~ととや)桜回廊づくり
プロジェクト


背後に六甲山を擁する神戸は坂の町。そして坂の上には、高校や大学があることが多い。急な坂道を徒歩で通学する学生の姿を見るにつけ、学生生活を送る間に、しっかりと基礎体力がつくだろうなと思う。そんな坂の上の学校の一つ、神戸薬科大学のすぐ裏手から、岡本桜回廊へと入ることができる。保久良神社にかけて続くこの桜回廊をたどって歩くと、休憩含めても3時間程度の気軽なハイキングとなる。

神戸薬科大学の周辺もサクラがみごと

神戸薬科大学の周辺もサクラがみごと

神戸薬科大学の周辺もサクラがみごと


大学の前を通り過ぎ、川沿いを少し上流へ進むと、左手に登山道の入口がある。小さな沢を渡り、樹林の中に続く登山道を登っていく。はじめはかなりの急坂だが、尾根に上がってしまえば、明るく心地よいトレイルになる。登山道に沿って、植えられてから60年くらいは経っていそうなサクラの巨木が点在する。

尾根道からは、海が一望できる

尾根道からは、海が一望できる


ソメイヨシノには「60年寿命説」というのがあって、60~80年程度で樹勢が衰えてくる傾向があるとされている。戦後、全国各地でいっせいに植樹されたサクラの名所は、そろそろそんな時期に入ってくるのだが、実際には、環境によって寿命は大きく異なるらしい。たとえば青森県の弘前公園では、樹齢100年を超えるソメイヨシノが300本以上あって、まだまだ立派に花を咲かせているとか。

しかし、自生種のヤマザクラやエドヒガンなどに比べると、ソメイヨシノの寿命が短いことは事実。そこで、この地域で森の整備に取り組むボランティア団体、「ほくら~ととや森の世話人倶楽部(http://hokura-totoya.seesaa.net/)」などが将来を見据えて、桜並木を長期的に維持するため、植樹などの活動に取り組んでいる。

一般募集で市民を巻き込み、ヤマザクラなどの植樹に取り組んでいる。写真提供=岡本(ほくら~ととや)桜回廊づくりプロジェクト

一般募集で市民を巻き込み、ヤマザクラなどの植樹
に取り組んでいる。
写真提供=岡本(ほくら~ととや)桜回廊づくり
プロジェクト


この山域は、市街地に隣接する急傾斜地であるため、土砂災害を未然に防ぐ「六甲山系グリーンベルト整備事業」の対象エリアとなっている。適正な植生管理による防災機能強化や、自然豊かな生活環境を守ることを目的として、国土交通省六甲砂防事務所とともに、いくつもの森林ボランティア団体が森の整備に取り組んでいる。前述の「ほくら~ととや森の世話人倶楽部」は、それらボランティア団体の協同体だ。

手入れの行き届いた森は、林床に光がたっぷりと降り注ぎ、人にとって心地よいだけではなく、生物多様性に富んだ環境でもある。スミレやクサイチゴなどの草花も多く、春にはいろいろな花が楽しめるエリアとなっている。

林床にはスミレなどの草花も多い

林床にはスミレなどの草花も多い


薬大尾根を上がり魚屋道に合流した後、金鳥山分岐から保久良神社方面へ。金鳥山から保久良神社までの区間にも桜並木が続く。展望と桜を満喫し、阪急岡本駅へと下る。

金鳥山直下のビュースポット

金鳥山直下のビュースポット

桜回廊の尾根道

桜回廊の尾根道

保久良神社本殿前の枝垂れ桜

保久良神社本殿前の枝垂れ桜


近年、強烈な台風やゲリラ豪雨による被害が大きくなって、山が荒れる傾向にある。倒木だらけで歩きにくいエリアも少なくないが、市民ボランティアが山を守る活動に取り組んでいる地域では、登山道も歩きやすく整備されている。

神戸では震災以降、ボランティア活動がいっそう盛んになった感があるが、山を守る取り組みもそのひとつ。自分自身の健康維持にも役立ち、地域の災害防止にも貢献できる。そんな活動に取り組む市民が多いのは、六甲山の誇りだと思う。ぜひ一度、その活動地を訪ねてみていただきたい。

 

MAP&DATA

桜回廊地図

コースタイム:甲南山手駅~神戸薬科大学~風吹岩・金鳥山分岐~保久良神社~岡本駅:約2時間15分

※岡本桜回廊のサクラの見頃は、例年3月下旬~4月上旬だが、年によって状況が変わる場合あり。

プロフィール

根岸真理(ねぎし・まり)

六甲山西端の神戸市須磨区生まれ。現在は六甲山東端の宝塚市在住。アウトドア系を得意とするフリーライター。親に連れられ、歩き始めると同時に須磨の山に登っていたため六甲登山歴60年。アルパイン歴は約30年。 神戸新聞「青空主義」欄で月に1回六甲山の情報(六甲山大学)を発信中。主な著書に『六甲山を歩こう!』『六甲山シーズンガイド春夏』『六甲山シーズンガイド秋冬』など。兵庫県立六甲山ガイドハウスで「山の案内人」ボランティア活動中。

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