山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが本当に愛する山の逸品とは?|高橋庄太郎の山MONO語りVol.100
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。今回は、連載100回を記念して、庄太郎さんの愛する逸品や連載裏話を紹介していただきます。
文・写真=高橋庄太郎
2014年3月に始まったこの連載「高橋庄太郎の山MONO語り」が、とうとう100回を迎えた。アウトドア系ウェブメディアとしては、おそらく日本でいちばん長い連載なのではないか。そのほとんどすべての写真は自分で撮影し、僕自身が写っているカットも三脚を使った自撮りである。
初回はバッハの小型バックパックをピックアップし、前回の99回目はエバニューのアルコールストーブと、基本的に月1回のペースでここまでやってきた。
ところで、この連載で取り上げている山道具はいったいどういうものなのか? それはズバリ、僕が「いいと思ったもの」「興味があるもの」「使ってみたいもの」である。アウトドアブランドの展示会に可能な限り足を運び、毎年、新作だけでも数百、既存品を合わせれば数千におよぶアイテムのなかから毎回厳選している。ときどき編集部から推薦されたものや、評判がよい話題作なども挟み込まれるとはいえ、基本は“自分の好み”といってよい。また、イマイチそうなものはあらかじめ外しているが、期待できそうだと実物を手にしてみたら「これはダメだったか……」と考え直し、結局、別のものにチェンジしたこともなくはない。
つまり、結果的に優れたものばかりを紹介してきたのが、この連載だ。もちろんさまざまな人が使用するわけだから、万人に対してすばらしい製品などあるはずもない。だから、あくまでも僕の視点でしかないが、いくぶん気になった点がある場合は、「この部分が改善されれば、もっと使いやすくなる」と率直に指摘するようにしてきたつもりだ。
そんなわけで、今回は第100回記念として、この連載で紹介してきた装備たちと、僕が私物として所有する“愛する逸品”とを関連付けた話をしてみたい。
バックパック
まずは、バックパックだ。僕は仕事柄、これまでに大型タイプだけで軽く50点は使ってきたが、そのなかでひときわ思い入れを持っているのが、マックパックの“グリセード”である。なお、“グリセードクラシック”という似たモデルもあったが、僕が愛するのはあくまでもグリセードであり、グリセードクラシックではない。
本体に使われている素材は、コットンとポリエステルを混紡したアズテック。防水コーティングを使わずに防水性を発揮するために、経年劣化によって水が浸透してくることはなく、キャンバス風の風合いで非常にタフなのがいい! しかも僕が持っているグリセードは、取材でマックパックの本国ニュージーランドにいったときに、マックパックの工場でフロントのベルトを2本にするなどのカスタムまでしてもらった“世界でひとつ”のものである。
上は2009年の東日本大震災のとき、グリセード(左)に食料や医薬品などの物資を詰め込み、仙台の僕の実家に物資を運んだ際の写真だ。容量70Lに荷物をぎっしりつめると約50㎏にもなったが、これくらいではびくともしないのがグリセードなのである。山で愛用していたバックパックをまさかこのような用途に使うとは想像もしていなかったが、この“質実剛健”の頑丈さは、あの震災時にも心から信頼できた。ちなみにサブで持っていった写真の右の小型バッグもマックパックの“カウリ”というモデルだ。
このグリセードを背負って、ニュージーランドの山や森を何度も歩いた。
トレイルを外れ、道なき道を行く山行スタイルを現地では“トランピング”と呼ぶ。日本で言えばバリエーションルートのようなもので、トレッキング以上にハードな山歩きだ。このグリセードは、まさにトランピングに適した頑丈極まるバックパックなのであった。
こんなマックパックの現代的モデルが、第80回目に取り上げた“ウェカ50”である。これもグリセードと同様にアズテックを使ったモデルだ。これについての詳細はリンク先からご覧いただきたい。
丈夫なアズテックはその分だけ重い素材でもあり、現代的な軽量バックパックには重量面では敵わなくなってきていたが、ウェカには防水性を高いレベルでキープしながらも軽量な最新型アズテックが使われている。しかもハーネル類やポケットなどの造りも簡素にしてあり、そのためにグリセードとは比べ物にならないほど軽量で、重いバックパックが苦手な人にも向いている。現在もマックパックの定番として高い人気を誇っているので、興味がある方にはぜひ試してみていただきたい。
テント
次はテントである。僕はさまざまな登山スタイルのなかでもとくに“テント泊縦走”が大好きで、僕にとってテントというものは必然的に最重要アイテムのひとつとなる。
そのなかで、僕がもっとも気に入っているのはライペン“ドマドーム”だ。あまりにも好きすぎて、ひとり用の“ドマドームライト1”と“ドマドームライト2”とふたつも持っているほどである。
ドマドームはその名の通り、インナーテントとフライシートの間が非常に広い土間になっている。そのために雨が降っているときに出入り口を開け放っていても内部に水しぶきが吹き込みにくく、悪天候時でも快適に過ごせるのがすばらしい。
以前、北海道の上ホロカメットクのテント場で台風のような暴風雨に耐えながら2昼夜も停滞していたときは、この土間があったのでフライシートを閉めたまま暴風を遮って、調理が行なえた。
普通であれば閉め切った前室での調理は危険だが、ドマドームならば比較的安全だ。ひとりで使うには重いテントとはいえ、これ以上に居住性が高い山岳用テントは見当たらない。
このドマドームシリーズの最新版が、第89回目に取り上げた“ドマドーム1プラス”で、現在も継続販売されている。これも詳しくはリンク先からさかのぼっていただきたい。
ドマドーム1プラスは、僕が使い続けてきたドマドームライトの派生モデルで、土間の形状が変わり、少し狭くなっている。既存のドマドームは広い土間を作り出すために使用パーツや生地が多く、それがドマドームの重量増の一因となっていたが、そういう意味ではドマドーム1プラスは、マックパックのウェカと同様に、人気製品のよい部分は残しつつも、装備の軽量化につながる新製品なのであった。この新種によって、僕は改めてドマドームのよさを感じてしまった。
登山靴
次に、登山の主要装備としてはトップクラスに位置する、登山靴である。その種類は多様だが、わりとどのようなシューズでも歩けてしまう低山に比べ、僕が好きな北アルプスのような高山、とくに岩稜帯のような険しい場所では、その機能性が安全性を大きく左右する。そんな山域で僕がもっとも信頼していた登山靴は、スカルパの“ミラージュGTX”であった。
残念ながら現在は販売が終了し、もはや購入することができない。あまりにも気に入っていた僕は最後に2足買い足し、そのうちの1足は今も現役で履き続け、もう一足は履かずにキープしているが、それらを含めると2014年にミラージュGTXが発売されてから計5足も買ったことになる。アウトソールを張り直しながら、どれだけ履いてきたことか。まったく同じモデルをこれだけたくさん買ったのは、アウトドア用具のなかでは唯一コレだけだ。
下の写真は、第58回でソフトシェルパンツをテストしたときのカットだが、このときも足元はミラージュGTXであった。こんな岩場でも安心して使え、頼れる相棒だった。
しかし繰り返すが、もはや売っていないのである。最後の一足を履きつぶしたら、僕はなにを履けばいいのか?
そんなこともあって、あるときからミラージュGTXの後継モデルを探し始めた。そのなかのひとつが、同じスカルパで、第68回でセレクトした“ZGトレックGTX”だったが……。
ZGトレックGTXは非常によい登山靴だった。事実、発売後すぐに定番のベストセラーになり、今もトレッキングタイプのシューズとしてはトップクラスの売り上げである。
だが、僕にとってミラージュGTXの代替シューズにはならなかった。そう、ZGトレックGTXはあくまでもトレッキングタイプの登山靴で、ミラージュGTXのようなライトアルパインタイプではないのである。しかし僕の記憶では、ZGトレックGTX発売当時、スカルパにミラージュGTXに近いモデルはなく、とりあえずはZGトレックGTXを試してみたわけなのであったが、やはりZGトレックGTXとミラージュGTXでは用途や得意とする山域が違っていて……。両者は履き分けすべき登山靴。テストの結果、ZGトレックの実力は充分に理解できたが、それとは別に、ミラージュGTXの代替シューズ探しは今も続いているのであった。
このZGトレックGTXを取り上げた経緯のように、じつはこの連載、僕が自分で買いたいと思っている山道具をテストすることも多い。山岳ライターの役得とはいえ、購入する前に実際に使ってテストできるのだから、その点ではとてもよい仕事だ。じつは、先に紹介したマックパックのウェカ50も、ライペンのドマドーム1ライトも、テスト後に手に入れてしまったが、ほかにもこの連載でテストし、あとで購入することになった道具はいくつもある。要するに、この連載は僕自身が山で使う装備を探すためにも大いに役立っているのである。
次回の第101回目以降も、みなさんのお役に立つ最新のおもしろい道具を探し、テストして紹介していく予定だ。ご期待していただきたい。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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