本格的な登山用クッカーが久しぶりに登場 パーゴワークス/トレイルポット|高橋庄太郎の山MONO語りVol.101

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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、パーゴワークスの「トレイルポット」です。

文・写真=高橋庄太郎

 

山道具のなかには毎年のように新製品が生まれてくるアイテムもあれば、なかなか登場しないアイテムもある。前者の代表がバックパックやシューズだとすれば、後者の代表はクッカーやバーナーだ。金属製品は試作品や金型を作ったりするのに手間がかかり、開発が簡単には進まないからである。

今回取り上げるのは、パーゴワークスが数年がかりで開発した新型クッカー「トレイルポット」だ。ただでさえ貴重なクッカーの新製品だが、しかもこれは“角形”。強度を出しやすい円形のクッカーが主流の現代において、挑戦的なモデルとなっている。そもそも、バックパックやポーチ類、タープなどで人気のパーゴワークスがとうとうクッカーまで作り出したというその点だけでも、大きな話題作だ。

それではトレイルポットを見ていこう。

 

まずは素材とパーツをチェック

本体の素材は、アルミニウム合金。浅いふたには折り畳み式のつまみがつけられている。

クッカーは鍋(中央)、ふた(左)、フライパン(右)の3つで構成され、鍋は容量1.2L=重量190g、フライパンは容量0.6L=重量160g、ふたは重量88g。合計重量は440gである。

鍋とフライパンの内側はフッ素樹脂が塗布され、つるっとした被膜によって焦げ付きにくくなっている。また、ふたを含め、3点とも表面はアルマイト(ハードアナダイズド)加工されており、錆びが抑えられ、傷もつきにくい。

さらにフライパンの底面にはライン状の凹凸があり、入れた食材とのあいだに隙間が生まれるためにますます焦げ付きにくくなっている。

収納時のサイズは縦13.0×横18.5×高さ8.0㎝。ソロ用として開発されたというトレイルポットだが、実際には2人でも使えるサイズ感である。

また、ハンドルは13.5㎝と、一般的なクッカーよりもかなり長い。加熱された鍋やフライパンから離れた位置で持てるようになっている。

鍋の内寸は縦11.2×横16.8×高さ7.5㎝。四隅は丸みを帯びているので、純粋な四角よりもモノは入らないが、デッドスペースが生まれがちな円形のクッカーに比べると、収容力が高い。

左上は袋麺と固形燃料ストーブの上にカトラリーやマルチツール、ライターなどを入れた状態だが、容量のうち半分程度しか使っていない。左下はかさばるパックご飯のうえにレトルトのカレーを入れた状態で、これでもだいぶスペースが余っている。一方、棒ラーメンを入れようとしたのが右上で、長さが少し足りず、そのままでは収められなかった。また、右下は250サイズのガスカートリッジを入れた様子だが、高さが1.5㎝ほど足りず、頭は出てしまった。いっしょに入れたスパム缶も同じくらいの高さで、同様に出っ張ってしまっている。これではふたが浮き上がり、うまく収納できないはずであるが……。

しかし、ガスカートリッジは収納できなくもないのだ。

上の写真は、ふたとフライパンの上下の位置を変えた状態だ。このままひとつにまとめると……。

フライパンがふたとなり、なんとか収まる。ちなみに、本来のふたを使わず、つねにフライパンをふた代わりに使えば、高さ7.5㎝、重量312g程度のクッカーとなる。人によっては、あらかじめこういう使い方にしてもよさそうだ。

内側には目盛りがつけられている。鍋の容量は満水で1,200mlとあり、目盛りは200ml刻みだ。

1,000mlを越えた部分で200ml入るので、容量1,200mlというわけである。

 

鍋で調理スタート。使用感は?

そんなわけで、ここからは実際の調理に移っていく。

一日のテストで何食も作ってみようと、朝からほとんど何も食べずに山に登った。そして気持ちのよい石棚に陣取り、調理を始める。

合わせた火器は、固形燃料を使用するコンパクトなストーブだ。

固形燃料ストーブのゴトクの広さは、この状態で9.5×7.5㎝。底面が17.5×12.1㎝のトレイルポットの鍋にはちょうどよいサイズ感だ。

このとき僕はなぜこんな固形燃料ストーブを組み合わせたのか? テストが沖縄の山で、さまざまなバーナー/ストーブを持っていけない状況もあったが、コンパクトな固形燃料ストーブはクッカー内部への収納性がよく、ゴトクも滑りにくくて、安定して使えるからである。

さて、ここでいったん話をずらし、トレイルポットをストーブと組み合わせて使用するときの重量バランスと底面の処理について感じたことをお伝えしておきたい。

事前にこのトレイルポットの鍋を見ていて気になっていたのが、ツルツルと滑らかな底面だ。

滑り止めの処理は省いてあるために、合わせて使用するバーナーによっては少々不安定になるのである。

下の写真は少し古い小型ガスバーナーと合わせ、持ち手を伸ばしたときの様子だ。ステンレス製の持ち手が重く、重心が鍋の中心よりも持ち手側(写真の右のほう)に位置してしまうため、ゴトクを中央からずらしてバランスをとっている。これでギリギリ落ちない位置なので、実際にはもっと左側にずらして置いたほうが安定する。つまり、クッカーの中央にゴトクを合わせると鍋がひっくり返るという、トリッキーな重心になっており、注意しなければならない。

もちろん、内部に水を入れれば重心が持ち手側から離れて(写真で言えば左にずれる)安定度は増す。だが、今度は別の問題が出てくる。クッカーの底面に滑り止めがないために、水が入って重くなると、傾斜がある場所ではゴトクの上から滑りやすくなり、違う理由で鍋がひっくり返る恐れが出てくるのだ。

僕が持っている“滑りやすそう”なゴトクを持つガスバーナーと合わせて様子を見てみたところ、水を入れていない軽い状態でもガスカートリッジの一端を1㎝上げると、鍋は滑り落ちた。ガスカートリッジの底面の直径は11㎝で、その一端を1cm高くして計算すれば、ゴトクの傾斜は約5.2度。この角度でも鍋がずり落ちてしまう。下の写真のように8㎜ほどの高さならば、鍋の位置を調整することでずり落ちなくなった。角度で言えば約4.2度である。

山ではいつも水平な場所で調理ができるとは限らず、この程度の傾斜の場所で調理しなければならない状況は多い。水をたくさん入れるともっと滑りやすくなるので、調理する場合は注意しなければならない。

この問題はどんなクッカーにもいえることだが、トレイルポットは容量のわりに底面積が広く、長くて重いハンドルをもち、底面に滑り止めがないために、その問題が大きくなりやすい。クッカーを置いたときの安定性を考えれば、ハンドルはもう少し短くし、鍋の底面には滑り止めがあったほうがよかったかもしれない。もちろん使い慣れるに従って、鍋を置く位置をうまく調整できるようになり、トレイルポットの個性に合わせた使い方が身につくだろうが、使い始めは注意したほうがよさそうだ。

話を戻そう。

今回合わせて使った固形燃料ストーブは、その形状ゆえにゴトクが薄く、エッジも立っているので、クッカーを置いたときに滑りにくく、トレイルポットとの相性はよかった。

それでも円形のクッカーよりも風の圧力を受けやすい形状ということもあり、少し強い風が吹いたときは、念のためにハンドルを持ちながら調理を行なった。

ところで、トレイルポットのふたにつけられているツマミはシンプルながらユニークだ。長方形に曲げられたステンレスがリベットで留められ、折り畳めばふたと同じ高さ。収納時に邪魔にならず、よくできている。

ただ、折り畳んだままでクッカーを火にかけて加熱してしまうと、ふたといっしょに熱くなって、あとから持ち手を広げにくくなる。あらかじめ写真のような状態にしてから加熱し始めることをお忘れなく。

トレイルポットの素材は熱の伝導性が高いアルミ製で、それもある程度の厚みを持っている。そのために熱効率のよさはさすがであった。ガスカートリッジ式バーナーなどと比べると火が当たる面積が少ない固形燃料ストーブなのに、鍋の底面が均一に熱せられ、隅々に至るまできれいに気泡が上がり、理想的な状態で沸騰していくのである。

底面積が広いクッカーとあって、固形燃料ストーブでは沸騰にムラが出てしまうのではないかと考えていたが、よい意味で裏切られた。これならば調理中にあまり内部をかき混ぜなくても食材全体に熱が回り、調理がうまく進む。アウトドア用のクッカーとしてもっとも重要な機能を、十二分に備えているクッカーなのである。

沸騰したお湯に食材を投入し、ネギと紅しょうがを入れた沖縄そばが完成。

鍋につけられた目盛りのおかげで的確な水量を入れることができた。当たり前の機能だが、普段は目盛りなしのクッカーもよく使っている僕にはとても便利である。トレイルポットはソロ用として開発されているが、実際は鍋に1,300ml入るために、今回の具材が少なめの沖縄そば程度であれば、一度に2人前は作れる計算だ。

ただ、沖縄そばが入ったトレイルポットを手にもつと、少々重く感じられた。細長い形状のために、スープで重くなった鍋の重心がハンドルから遠い位置になっているからである。水分たっぷりで重いメニューの場合は、下に置いて食べたほうがよいかもしれない。

一方、角形ならではのメリットは、四隅が角ばってるために口を直接つけやすく、丸型のクッカーよりもスープを飲みやすいことだ。山中での食事にラーメンやうどんなどの袋麺をよく利用する僕は、トレイルポットのような角形クッカーを愛してやまない。

 

スタッフバッグにも工夫あり

ところで、調理の際に便利だったのは、トレイルポット付属のスタッフバッグであった。

厚みのあるメッシュを使っているので、内部にクッカーが入っていなくても自立し、ナイフやライター、カトラリーなど、こまごまとしたものを入れておくのに重宝するのである。

柔らかでクッション性もある中厚のメッシュ素材は、収納したクッカーが濡れていても乾きが早く、外部からの衝撃を緩和する役目も果たし、金属製品であるクッカーが傷ついたり、へこんだりしないようにしている。一般的なスタッフバッグはたんなる袋でしかないが、トレイルポットのスタッフバッグはそれ自体で役に立つように考えられているのである。

 

フライパンで調理

次にフライパンを使用してみた。このフライパンは、先ほどまで使っていた鍋とは異なり、底面に凹凸がつけられている。

そのために肉類のようにべたつきがちな食材を焼いたときに、先に紹介した鍋のようにフラットな底面よりも焦げ付きにくい。

実際、脂分たっぷりのスパムとニンニクの芽で炒めものを作ってみたが、内側のフッ素樹脂加工とのコンビネーションでまったく焦げ付くことがない。

底面積が広く、熱もよく回るために調理はとてもしやすい。角型なので余分に入れてしまった調味料や溶け出した脂などを隅のほうに寄せるような作業も簡単にできる。このフライパンはじつに使いやすく、僕は気に入ってしまった。

また、クッカーの性能とは直接関係はないが、トレイルポットのようにダークトーンのクッカーは、シルバーのクッカーよりも食材をおいしそうに見せる効果が高いように思う。

たかだかスパムとニンニクの芽を炒めただけなのに、適度な焦げ目もついておいしそうに仕上がり、なんだかうれしい。

フッ素樹脂がコーティングされた内面は、後処理も簡単であった。

食べ終えたばかりのフライパンをペーパーでふき取るだけで、まるで本当は調理しなかったかのように見えるほど、脂汚れを完全にふき取ることができ、とてもきれいに! だいぶ前に食べ終えていた沖縄そばの汚れは脂が冷えて固まつつあり、一部は乾燥し始めていたが、こちらもペーパーで拭くだけで汚れはほとんどとれた。すばらしいフッ素コーティングである。

ところで、このようにクッカーをペーパーで拭きとるときに邪魔になりがちなのが、鍋の内側にあるハンドルを止めるためのリベット部分だ。

トレイルポットの鍋にも4カ所あるが、露出しないように適切に処理されており、その部分に食材がこびりついたりせず、きれいにふき取ることができるのがいい。これはフライパンも同様であった。

その点で言えば、ひとつ残念だったのは、ふたのリベット部分の裏側は処理されていなかったことだ。ここだけはリベットの裏側がむき出しなのである。

ふたを皿代わりにして使ったりすると、この部分に食料がこびりつき、落としにくくなる。せっかくなので、この部分も鍋の内側と同じように塞いであったらよかったと思う。

トレイルポットを使ってみて、ほかに気になったのは、ハンドルがバタつくことだ。

固定の仕方がいくぶん緩く、傾斜地に置いて傾いたり、少し風が吹くとハンドルが動いてしまい、下の写真のような状態になりがちなのである。調理がしにくくなるばかりか、過熱しているときにハンドルが動くとクッカーに接してしまい、危険でもある。

これは改善してもらいたい点だ。

縁の金属の折り返し部分も改善すべき点かもしれない。折り返し部分が大きく、隙間も広いために、洗ったときや調理時に余分な水分をため込みやすいのだ。ただの水ならまだいいが、脂や塩分を含む汁も同様に溜まり、食材の固形分が隙間に入ると洗い落としにくく、衛生的に使いにくくなる。

しかし、この折り返し部分が重厚だからこそ形状が安定し、変形しにくいタフなデザインになっているともいえる。壊れにくい剛健な道具を愛している僕は、このような構造でも仕方ないと思えるが、もっと洗いやすい形状のほうがいいと考える人もいるだろう。もう少しだけ折り返し部分の隙間を狭めて、食材がこびりつきにくくなるとよさそうである。

 

最後は定番カレーを調理

こんな感じで、沖縄そばをスープまで飲み干し、スパム缶もなんとか食い切った。もはや満腹を通り越したが、再び山を歩いて腹をこなし、数時間後にもう一度調理を試みた。

今度はパックご飯とレトルトのカレーである。長方形のトレイルポットは、パックご飯やレトルト食品を持ち運び、加熱するのにも便利な形状だ。少々重量が重くなるメニューとはいえ、コンビニでも購入でき、日帰り登山のときなどに重宝する。

固形燃料ストーブに火をつけ、パックご飯、レトルトカレー、そして具材のニンニクの芽をいっしょに加熱していく。

衛生面で問題視する方もいらっしゃるかもしれないが、手間と時間をかけない、僕のいつものやり方だ。雑菌が少々入ったところで、加熱すれば殺菌できる。トレイルポットのようにフッ素加工を施したクッカーならば、加熱中に包装のプラスティックが底面にくっついて溶け、成分が溶解して流れ出すこともほとんどあり得ない。

ここでもうまく水平が取れるように岩の上に置いて調理。だが、それでもときどきハンドルがバタついて動いてしまう。そこでハンドルを握りながら加熱したが、ステンレス製のハンドルはあまり熱くならないのがいい。

そして、キーマカレーが完成。

フライパンを皿代わりに盛り付け、早速食べていく。

先ほど食べた沖縄そばとスパム炒めが消化し切れておらず、ご当地感もないメニューだが、あまり腹が空いていないわりにはおいしくいただくことができた。亜熱帯ジャングルという場所の力のせいであろうか。

ところで、今回の3つのメニューのなかでもっとも後片付けが大変そうなカレーではあったが、先ほどと同様にきれいにふき取ることができた。

水洗いしなくても惚れ惚れするほどきれいになり、感心する。後始末がしやすいというのは、山で使うクッカーにとってはものすごく大きなメリットだ。その点でトレイルポットは満点である。

 

まとめ:調理のしやすさはもちろん、収納力も魅力

登山に使える本格的なクッカーとして、ひさびさに登場したトレイルポット。類似する形状はありそうでなく、なかなかの個性派であった。

僕が考える改善してもらいたい点は、なんといってもハンドルのバタつきだ。収納時はぴったりとクッカーの脇に沿い、使用時は伸ばした状態で2本きれいに固定できると、もっと使いやすいはずである。また、縁の金属の折り返し部分は、隙間を減らしたほうが衛生的に使えそうだ。

一方で感心したのは、フッ素コーティングによる焦げ付きにくさと後処理のしやすさで、十分すぎる機能性を持っているのは間違いない。このコーティングの耐久性に関しては現時点では判断しかねるが、見たところヤワな感じはしない。沢登りなどのときに焚火などでガンガンに熱しても大丈夫なのではないだろうか? 熱の伝導性も高く、調理がしやすいのも長所である。重量で言えばチタン製のクッカーなどには敵わないが、山中での調理を楽しむためにはトレイルポットの出番である。

個人的には、トレイルポットの収納力をどう生かせばよいのか、考えてみるだけでも楽しい。僕は野菜などの生の食材を山へ持参することが多いのだが、トレイルポットほどの収納力があれば、袋麺といっしょにネギやニラなどもあまり短く切らず、つぶしもせずに持っていけそうだ。小さなミルやドリップ用具、カップまで、コーヒー関係一式を詰め込んでもおもしろい。フライパンをふた代わりにして軽量化し、フリーズドライ食品や固形燃料を中心に緊急用の医薬品や小型ツエルトなどまで押し込んで、ファーストエイドキットの容器代わりにして常備する……なんてことまで考える。トレイルポットは使う人のアイデア次第で、さまざまに活躍してくれそうだ。

 

注:なお、パーゴワークスによれば、ここで指摘したハンドルの件は、今後の改善を検討中とのことである。

 

今回のPICK UP

パーゴワークス/トレイルポット

サイズ:130×185×80mm

容量:満水容量1.2L

重量:440g

価格:8030円(税込)

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※2023年4月現在品切れ中。9月ごろ再販予定

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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