アンデス山脈の過酷な環境で生き残るために進化した、「ロゼットビオラ」にめぐり逢う旅

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冬真っ只中の日本を離れ、南米・アンデス山脈で花を楽しできたという、自然・植物写真家の高橋修氏。旅の目的はロゼットビオラを探すため。アンデス山脈の過酷な環境で生き残るために進化したロゼットビオラとは?

 

12月初旬から下旬まで南米のアンデス山脈に行っていました。冬山シーズンの日本と違って南半球は夏。夏のアンデス山脈で花を楽しんできました。目的は小さなスミレ。ロゼットビオラという特殊なスミレです。

ロゼットビオラは南米のアンデス山脈の高山帯に生える、小さな高山植物です。ビオラとはスミレのこと。ロゼットというのは、葉が根ぎわから生えて放射状に見える形のこと。乾燥、寒さ、紫外線など、アンデス高山帯の過酷な環境で生き残るために進化したスミレです。

スミレ咲く礫地から望むアンデスの峰々

 

ロゼットスミレは厚い葉が幾重にも集まって重なり、全体としては松かさのような形になります。そして葉の間から小さなスミレの花を咲かせるのです。

アンデス山脈のほかでは見ることができません。スミレですから花は小さく、探すのは大変ですが、今回三種類のロゼットビオラを見ることができました。

最初に行ったのはアルゼンチン、パタゴニア北部のバリローチェ。岩礫地をゆっくり登ると岩ばかりの斜面に、遠目にも白いものが目に入りました。近寄ってみると、サックルス・スミレ(Viola sacculus)です。上から見るとリースのように、白い花が輪状に並びます。今回が初めてのサックルス・スミレとの出会いです。ガレた岩場や礫地に生えています。

 

パタゴニア北部のバリローチェでは初めてサックルス・スミレに出会った

 

山にはパタゴニア特有の風が強く吹き、稜線にはいられません。途中まで下って、もう一種のロゼットビオラを探しました。

葉っぱを見つけました。よく見ると、葉っぱのあいだには蕾があり、さらによく探すと・・・ありました。コルムナリス・スミレ(Viola columnaris)です。紫色の花です。花の内側の花びらには毛がたくさん。コルムナリス・スミレは乾いて、ふかふかした砂地にも生えていましたが、礫地にも生えています。

紫色の花が映えるコルムナリス・スミレ

 

3つめのロゼッタビオラは、チリの首都サンチアゴ近郊の山の中。標高3000m近くまで上がって、高山植物が点々と生えているあたりを歩いていると、小さなロゼッタビオラのピリッピイ・スミレ(Viola philippii)が咲いていました。

チリ・サンチアゴ近郊の山で見つけた、小さなロゼッタビオラのピリッピイ・スミレ

 

花は小指の爪の半分ほどしかない、小さな、小さなロゼッタビオラでした。旅の最終日、この日のうちにサンチアゴから飛行機に乗って帰る日です。最後の最後に新しいロゼッタビオラに出会うことができて、とてもうれしかったです。

今回のロゼッタビオラの山歩きで、きっと満足すると思っていました。ところが、あまりにかわいい花なので、ロゼッタビオラと別れたばっかりなのに、また会いたくなってしまいました。もちろんスミレだけでなく、ほかにもたくさんの花との出会いも楽しみです。夏のアンデス山脈は花の山脈なのです。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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