別名:雪割草――、オオミスミソウの花咲く石川県・猿山で考えた、太平洋側に咲くスハマソウとの違い

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別名の「雪割草」として人々によく知られているオオミスミソウ。その別名どおり、雪が消える頃から花を咲かせ始める。雪が消え始めた日本海側の山々では、そろそろ見頃のシーズンとなる。

 

オオミスミソウは早春に咲く花である。主に本州中部の日本海側に分布し、落葉広葉樹林に生える。花色、花の形、花の大きさに変化があり、隣にある株が同じ花とは思えないほどだ。新潟県の角田山や佐渡ヶ島の山のオオミスミソウが有名だが、石川県の能登半島にも自生地がある。

日本海側に位置する新潟県や石川県は雪国だが、暖かい日本海がそばにあるため、標高が低い山は雪解けが早い。本州の太平洋側ではまだ花の少ない3月中旬から咲き始める。花の山歩きの一年の最初を飾るのに最適である。

3月中旬頃から本州中部の日本海側の落葉広葉樹林に白、ピンク、紫色などの花を付けるオオミスミソウ

 

オオミスミソウの花色は白が多いが、紫、ピンクと様々だ。単色だけでなく、絞りが入ったもの、筋が入ったものまで色々ある。日本の野生植物で、これほど花の変化が大きい物はないだろう。花の構造でいうと、オオミスミソウの花びらは、花弁ではなく、萼片と呼ばれる部分だ。萼片とは花弁のすぐ下にあり花を支える役目をすることが多い。

 

オオミスミソウは同じ種とは思えないほど、花の色・形はさまざまだ

 

オオミスミソウは花だけではなく、葉も変化も大きい。葉が大きいもの、小さいもの、葉の先端が丸いもの、尖ったものと様々だ。

名前の由来は、葉の先端が尖っているため三つ角があるためミスミソウとなり、日本海側のものは大きいのでオオミスミソウとなった。別名に「雪割草」があり、園芸をする人には雪割草と呼ばれることが多いが、植物分類上ユキワリソウはサクラソウ科の別種に名前が付けられているのでややこしい。

日本にあるオオミスミソウの仲間は、ほかにもミスミソウ、スハマソウ、ケスハマソウの4種がある。ケスハマソウは本州近畿地方以西と四国だけに分布し、葉の両面に毛が多いのが特長だ。しかし、それ以外のオオミスミソウとスハマソウ、ミスミソウはよく似ている。

こちらはピンク色のオオミスミソウの群落

 

現在の図鑑に書いてある分類上は、スハマソウは葉の先端が尖っていなく太平洋側に分布している。ミスミソウは葉の先端が尖り太平洋側に分布し萼片が多いものが多い。オオミスミソウは葉の先端が尖ったものも、尖っていないものもある、萼片の数が多いものも少ないものもある。分類上はそうなっているが、オオミスミソウとスハマソウ、ミスミソウが、どう違うのかを考えてみた。

スハマソウも葉の先端がやや尖っているものもあり、ミスミソウにもあまり尖っていないものもある。花色もミスミソウもスハマソウも白色が多いが、ピンク色のものもある。

最も見かけることが多いのが白い花を付けたオオミスミソウ

 

ここから考えると、氷河期に日本全体に広く分布していたオオミスミソウが、温暖化するにつれ、雪が多い本州の日本海側でそのままの形で生き残り、雪の少ない太平洋側では石灰岩地や内陸部の寒い場所、海岸近くの疎林などでわずかに生き残った中で、離れて小グループが残った時に、たまたま葉先が尖った個体のグループがミスミソウで、たまたま葉先が尖っていないグループがスハマソウになったのではないだろうか。

こう考えると、オオミスミソウとミスミソウ、スハマソウの関係がわかるのではないだろうか。わざわざ種を分ける必要はあまり感じられない。現在、日本海側が分布の中心で、太平洋側に隔離分布する同じような植物にブナやカタクリがある。ブナもカタクリも日本海側のほうが、少し葉が大きく、太平洋側のものは小さい傾向がある。

それはともかく、オオミスミソウは美しい花である。オオミスミソウは、今年は雪どけが早い場所ではとっくに開花のピークを迎えている。春一番の雪国のお花畑の謎を、楽しみながら歩いてみませんか。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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