テントマット、寝袋は工夫次第で大幅に軽量化が可能。1泊2日テント泊登山装備の軽量化の秘訣を山岳マラソンに学ぶ

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1泊2日のテント泊登山、日帰り登山と違ってその重量がズッシリと両肩に食い込む。日帰り登山と同様に軽快に歩くために軽量化したい! そんなテクニックを、「山岳マラソン」から学んでみよう!

 

前回は、軽量化の考え方と、事前の情報収集にから登山装備の軽量化/コンパクト化を目指す方法について説明したが、今回はいよいよ実際の装備の軽量化方法の具体的な手法について解説する。

★前回記事:1泊2日テント泊登山の軽量化の秘訣。気象情報を制する者は軽量化を制する!?

日帰り登山とテント泊登山での装備の大きな違いの1つは、「テント、シュラフ(寝袋)、テントマット」などテント関連装備が加わること。この3つをいかに軽量化/コンパクトかするのかが、ウルトラライトへの近道となる。引き続き、ICI石井スポーツ登山学校の東秀訓さんに、直伝の軽量化テクニックを教えてもらった。

 

寝袋分の装備が、シュラフ+防寒着+テントシート+マットに!

石井マウンテンマラソンを含む山岳マラソン競技に出場する場合は、「テント、シュラフ、テントマット」は必ず持っていかなければならないレギュレーションになっています。もちろん、一般的な1泊2日のテント泊登山でも、これらの装備を持っていかないテント泊登山というのは、基本的にはないと思います。

この前提の中で、私が実際に山岳マラソンで使っているの装備について、1つずつ説明していきましょう。

実際の寝具まわりの装備がこちら。その詳細は・・・

 

最初に寝具まわりについて説明します。持っていくのは、防水性のあるビバーク用のシート(これはシュラフカバーでもOKです)、防寒具としてダウンジャケット、半身用のシュラフ、そして足元は暖かくしておきたいので着替え用にウールの靴下を持っていくようにしています。1つずつ説明していきましょう。

シュラフは、見てのとおり腰までになっているタイプを使っています。上半身部分は防寒具として使っているダウンジャケットでカバーしています。沢登りなどでも愛用されるタイプのシュラフなので、持っている人は少ないと思いますが、私は石井マウンテンマラソンに限らず夏の山に行くときは、ほぼこのスタイルです。

シュラフは半身用にして、上半身はダウンジャケットを着用。夏山登山であれば、普段からこの組み合わせだそうだ

 

夏用のシュラフの上の部分(上半身)は、防寒具で補うことで装備を軽量化・コンパクト化しています。これは、前回に説明したように、サマーシーズンの装備で十分な気候・温度帯という情報があるからこそ可能な軽量化方法です。

そして、このシュラフカッバー(っぽい)ビバーク用のエマージェンシーシートも重要です。一般的なシュラフカバーでも良いですが、このタイプは防水性があって、なおかつ裏にアルミ箔が貼ってあるので圧倒的に暖かい。これは、登山者の皆さんにはぜひオススメしたいアイテムで、1泊2日以上の登山であれば、夏でも冬でも必ず持っていく装備です。

そして、これらをコンパクトにまとめるために、コンプレッションバッグを使います。

コンプレッションバッグに装備を詰めて“コンプレッション(圧縮)”すると・・・

 

半身シュラフ、防水シート、ダウンジャケット、ウールの靴下をすべて入れてコンプレッションバッグに入れると、ご覧の大きさになります。

この大きさがどのくらいかと言うと、例えば一般的な全身用のサマーシーズン用のシュラフと比べてみると――、ご覧の通り、ほぼ同じ大きさになります。重量もほぼ同じです。暖かさを比べても、夏用シュラフ単体で使うより圧倒的に暖かいと思います。

サマーシーズン用のシュラフの袋に同じ装備を詰めると、ピッタリ入る大きさ! シュラフ、防水シート、ダウンジャケット、ウールの靴下がサマーシーズン用シュラフと同じ大きさに!

 

持っていくものを何ひとつ無駄にならないよう組み合わせを考えた結果、だいぶ軽量化/コンパクト化に成功しています。

なお、コンプレッションバッグについても触れておくと、こうしたアウトドアサックは登山の際には必ず防水性のバッグを使ってください。防水性のものは空気抜けが難しくコンパクトにしにくいのですが、底から空気抜けするタイプのものを使えば、コンパクトにしやすくなります。

こうしたバッグを用意しておけば、普段の登山でもパッキングが楽になるだけではなく、テントを撤収する際にも圧倒的に素早くパッキングできるので、いくつか用意しておくと良いでしょう。

グラナイトギア eVent シリコンコンプレッサー

 

コンパクトにすればザックも小さく・軽くなる!

続いて、これらの荷物を積めるザックについて説明します。一般的な1泊2日の登山の場合、どんなに小さくしても30L以上のザックを使っていると思います。テント道具一式と寝具一式、そして食料などを詰めれば30Lでは足りないのが一般的です。

私は見た目は日帰り用のデイパックの25Lのザックで出場しています。今回はこのザックに収納することを目指すことで進めたいと思います。

どんなにコンパクトにまとめても30Lは必要と思われるが、1泊2日のテント装備を25Lにすることに今回は挑戦!

 

まずテント用品で“かさばる”ものの代表が、マットです。一般的にはテントの下に敷くマットを持っていき、寝るためのマットを持っていくことになると思います。

ウレタンタイプのものを選べば、もうザックの中に収納するのは不可能になってしまいます。外付けすると岩稜帯などで引っ掛けるリスクなどがあり危険なので、装備はすべてザック内に収納したい。となるとやはりエアマットという選択が一般的ですが、今回はさらにもうひと工夫したいと思います。

一般的にはテントマット+ウレタンマット、コンパクトにするならエアマットという組み合わせだが・・・

 

私が使っている、このタイプのザックは、実は背中のパット部分が取り外し可能で、マットとして分離して使えます。このマットの大きさがあれば、最も冷えやすい肩からお尻の部分をカバーできて、十分な断熱効果があります。そして、足元に関してはザックを敷いてしまうという方法を取っています。

背中のパット部分が半身マットに早変わり! これで一挙に軽量&コンパクト化する

 

今回紹介しておるのはOMMのザックですが、取り外し可能のザックは他にもあるので、ぜひショップで店員さんに聞いてみてください。

OMM/PHANTOM 25CL

 

さらに私の場合はもうひと工夫していて――、これは自作なのですが、引っ越しなどで使われているエアシートを切り取って、さらに断熱用にスポンジシートを張っているものです。これで、地面との断熱をさらに高めています。寝る時はザックの上に、さらにこのシートを敷いています。

自作シートとザックとを組み合わせれば、ウレタンマットと同様のサイズのマットに早変わり!

 

こういう、ひと工夫で、一挙に軽量化・コンパクト化につなげています。テントマット類を用意するのか、ザックだけで済ますのかで、軽量化・コンパクト化を大きく進めることができる例です。

 

トレッキングポールを使い、雨が降りそうにないのなら、ツエルトも選択肢

続いてテントの選択ですが、一般的には以下の3つのタイプで考えてください。これらはすべて1~2人用のテントです。いちばん右がシングルウォールタイプ、真ん中がダブルウォールタイプ、いちばん左がツエルトです。

右がシングルウォールテント(PAINE/パイネ G-LIGHT Xテント 1-2人用)
真ん中がダブルウォールテント(ファイントラック カミナドーム2)
左がツエルト(ファイントラック ツェルト2ロング)

 

重量的には、テントはどちらも1.2kg程度、ツエルトは300gくらいで、テントポールぶんが軽量化される形となります。なお3つは、底辺の面積は1m×2mくらいですが、ダブルウォールのものは少しだけ他より狭くなって、2人で使うとなると居住性では下がるかもしれません。

最も小さくなるのは一目りょう然でツエルトです。もし、トレッキングポールを使うのであれば、圧倒的な軽量化・コンパクト化が出来ます。もちろん、居住性ではテントに劣るし慣れも必要なので、一般的にはなかなかハードルが高いです。また、降雨などがあれば快適性は一気に下がるので、使用できる環境は天候次第にはなると思いますが、思い切った軽量化をするならオススメです。

一般的には、ダブルウォールかシングルウォール、という選択肢になります。2人で使う場合は居住性を考えるならシングルウォールが有利でしょう。設営・撤収の早さ、ファストパッキングという観点から考えてもシングルウォールのほうが石井マウンテンマラソンのような環境では有利かもしれません。

ただ、雨が多いとなると、ダブルのほうが快適です。重量はさほど変わりはないので、天候なども含めて選択してください。

 

ここまでをまとめると――

  • シュラフ(寝袋)とマットは思い切った軽量化/コンパクト化ができる
  • シュラフは夏季であれば半身用+防寒具も検討できるかも
  • 防水コンプレッションバッグを使えば、一挙にコンパクトにできる
  • マットは最もコンパクトにできる装備。ザックによってはマットを取り外して使えるものもある
  • 1泊2日で天気が良いことが確実ならツエルトも選択肢のひとつ

これで、衣食住の「衣」と「住」の装備について説明しました。シュラフとマットはかさばる部分だからこそ、軽量化/コンパクト化が期待できる箇所です。さまざまな工夫をしてみてください。

次回は、食料・調理用具編へ――

 

プロフィール

東 秀訓

高校の教員時代に国民体育大会山岳競技に出場。当時の踏査競技(オリエンテーリング形式に近い)で2回入賞の経験がある。
競技生活とともに生徒とヒマラヤへ遠征。その他ヒマラヤ6000mの数座登頂・アルパインスタイル初登攀や8000mの登頂、アルプスEDルートの登攀、モンブラン、マッターホルン、ドリューの秀峰に登る。
現在ICI登山学校事務局勤務と共に、長野県山岳総合センターアドバイザーを務める。
石井マウンテンマラソンには、サポートとして活躍しながらも、選手としても出場する。

石井山専新宿東口ビックロ店

首都圏最大級の山・アウトドアの大型専門店。「安全」をテーマに、ユーザーのライフスタイルに合わせたさまざまな商品を提案している。店内では、登山学校の講習やワークショップなども開催中。

住所: 東京都新宿区新宿3-29-1 ビックロ 新宿東口店内 8F
TEL: 03-5312-9550
営業時間: 11:00~20:00
アクセス: 新宿三丁目駅A5直結、新宿駅・西武新宿線西武新宿駅下車徒歩5分

 ⇒ホームページ

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