梅雨の季節にこそ行きたい! 奥多摩・南沢あじさい山、1万株のアジサイと巨木をたずねる

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梅雨の季節は、なかなか山に足が向かないもの。しかし、雨でも行きたい・梅雨の季節に行きたい山もある。東京都あきる野市・南沢あじさい山は、そんな場所で、梅雨の時期なら何度でも訪れたい場所だ。

 

雨の降る梅雨の季節に、わざわざ山に出かけるのは、よほどの物好きくらいでしょう。しかし雨の日でも、いや雨の日だからこそ楽しめる山もあります。その1つが、「南沢あじさい山」です。

JR五日市線の終点・武蔵五日市駅から山に向かって40~50分ほど歩くと南沢あじさい山に着きます。「山」と名付けられていますが、ピークではありません。谷あいの山腹に1万株というアジサイが植えられているところで、地元の南沢忠一さんが半世紀にわたって植え続けた、みごとな場所です。

斜面や林道沿いに1万株というアジサイが咲き誇る南沢あじさい山(写真=石丸哲也)


南沢さんが高齢のため管理が難しくなり、地元の若者・高水 健さんが中心となってクラウドファンディングが立ち上げられ、初期賛同者をつのって資金調達を実現し、安定して維持できる目処がついたのだそうです。

私が訪れた2017年は花がやや遅れて7月6日に訪れた際には九分咲きで、ほぼ見ごろでした。2017年は土・日曜日はライトアップもされました。なお、管理協力金として500円の入山料が設定されています。

南沢あじさい山の近くでは「山抱きの大樫」「千年の契り杉」の巨木も見られます。「山抱きの大樫」は石灰岩の大岩に根を張った、樹齢300年というウラジロガシの大木、「千年の契り杉」は幹周り約7.8m、樹高約45m、樹齢300年以上という大杉で、ともに巨木ならではのパワーがあふれているように感じられます。

どちらも里道から山へ少し入ったところにあり、金比羅尾根などへ抜けられるので、南沢あじさい山とあわせ、日の出山や麻生山、金比羅山と瀬音の湯などと組み合わせた登山プランも考えられます。

今回の散策コース。武蔵五日市から南沢あじさい山、そして各名所を歩きました


今回は山には登らず「千年の契り杉」から近い深沢家屋敷跡、さらに幸神神社のシダレアカシデをたずねて武蔵五日市駅へ戻りました。

深沢家屋敷跡は、江戸時代中期から名主を務めた深沢家の屋敷で、村民を集めて学習懇談会が開かれていたそうです。明治の初め、各地のグループによって憲法私案が作成され、当地で起草された「五日市憲法草案」が昭和43年、東京経済大学色川ゼミの文書調査によって深沢家の土蔵から発見されました。

あきる野市のデジタルアーカイブで配信されている書き下ろし文を見ると「日本国民ハ各自ノ権利自由ヲ達ス可シ」などと高らかに謳われ、自由民権運動のうねりを実感できます。

左上から時計回りに山抱きの大樫、千年の契り杉、「五日市憲法草案」が発見された扶川沢家土蔵、幸神神社のシダレアカシデ(写真=石丸哲也)


アカシデは低山や平地の雑木林で普通に見られる木ですが、幸神神社のシダレアカシデは枝が枝垂れる、非常に珍しいものです。高さ、直径とも5mほどですが、樹齢700年ともいわれ、国の天然記念物に指定されています。

カバノキ科の植物としては唯一の指定だそうです。こちらも勝峰山の登山口が近く、尾根道が金比羅尾根へと続いているので、山行のプランに加えられます。里道にもアジサイをはじめ花木が植えられているほか、ヤマユリやホタルブクロなどの野草、風格のある民家なども見られて、楽しく歩けます。

武蔵五日市駅から南沢あじさい山まで徒歩約40分。石抱きの大樫や深沢家屋敷跡などに寄ってもプラス1時間ほどです。南沢あじさい山から幸神神社のシダレアカシデを経て武蔵五日市駅までは1時間30分ほどかかります。

御岳山や日の出山と組み合わせると、しっかり歩けるコースになります。つるつる温泉、御岳山から金比羅尾根を下山するほうが楽ですが、逆コースにすれば、下山してすぐ温泉に入れます。

★モデルコース:武蔵五日市駅から南沢あじさい山、麻生山を経てつるつる温泉へ

標準的な歩行時間は、つるつる温泉~日の出山~南沢あじさい山~武蔵五日市駅が約5時間、逆コースは約6時間です。より手軽には、南沢あじさい山から金比羅尾根に登って東へ向かい、金比羅山経由で武蔵五日市駅へ下山するのもおすすめです。一周3時間足らずで歩けます。

プロフィール

石丸哲也

東京に生まれ育つ。オールラウンドな登山を経て、山岳ライター、登山・ツアーの講師などとして活動している。
山頂に立つことだけを目的とするのでなく、山を旅する感覚で、登るプロセスや自然にふれることを大切にして山を楽しむことを心がけている。
国内では北海道の利尻山から屋久島の宮之浦岳まで全国の山を登り、海外ではペルーアンデス、ヨーロッパアルプス、北米のヨセミテ、メキシコ、カムチャツカなどの山に足あとを残す。

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