『ワンダーフォーゲル』編集長・五十嵐さんが選ぶ、北アルプス/宿泊想定のULハイキング装備

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

山をフィールドにした様々な遊び方を提案する雑誌『ワンダーフォーゲル』。その創刊から編集部に在籍し、現在編集長を務める五十嵐センパイに、北アルプスで宿泊を伴う登山を想定し、装備を選んでもらった。


写真=矢島慎一

五十嵐さんが選ぶハイキング道具3選

1・シックスムーンデザイン「ゲイトウッドケープ」

2・アルトラ「ローンピーク2.5」

3・ブラックダイヤモンド「ブリッツ28」

 

涸沢フェススタッフ(以下、涸フェス): 五十嵐さんというとウルトラライトハイキングの考え方をいち早く装備選びに取り入れていた印象がありますが。

五十嵐: 全面的にウルトラライトというわけでなく、いいとこ取りをしているつもりです。もともと山道具好きで、ミーハーなところもあるので、新しい装備は「面白そうだな」と取り入れてみたくなります。

涸フェス: このツエルトみたいなのも面白そうだと。

シックスムーンデザイン「ゲイトウッドケープ」を開いてみると、こんな感じで雨具にもシェルターにもザックカバーにもなるスグレモノ

 

五十嵐: シックスムーンデザインのゲイトウッドケープは、ウルトラライトスタイルのフロアレスシェルターですが、そんじょそこらのシェルターと異なるのは、シェルター、ポンチョ、ザックカバーの3役をこなすこと。本体重量が285gと軽量なうえ、レインウェアとザックカバーも装備から削れるのですから、総重量は大幅に減ります。ただし、フロアレスは森林限界以上では快適といえないので、徳沢に張って涸沢を往復するプランをおすすめします。

涸フェス: 実際に使ってみたことはありますか。

五十嵐: 夏、雲取山への登山のとき、奥多摩小屋のテント場で使ってみました。調理器具もアルコールストーブで、30ℓくらいのザックに収まる程度の荷物で行ったけど、「ULだからいろいろ削らなきゃ」みたいな感覚はなく、食事メニューも制限されている感じもなくて、シェルター泊も快適でした。こんな小さなザックでも、少ない荷物でも、普通に登山を楽しめるなと実感しています。

 

雲取山登山の模様は『ワンダーフォーゲル』2017年2月号に掲載している

 

涸フェス: 靴もローカットシューズですね。

五十嵐: アルトラ/ローンピーク2.5は、ゼロドロップシューズが姿勢や歩き方を正して、膝への負担が減ると聞いて、膝痛対策で履き始めました。ゼロドロップシューズというのは、シューズのヒール部分とつま先部分の地面からの距離が同じであること。多くの靴は踵が高く爪先が低くて、踵からつま先に向けてドロップしているのだけど、アルトラのこの靴は踵の高さとつま先の高さは水平でドロップしていません。この手の靴はミッドソールが薄めのものが多いのだけど、ローンピークはソールが厚くてクッション性が高くて快適。

夏山の一般登山道、荷物が軽いという条件なら、ローカットを選ぶという五十嵐編集長

 

五十嵐: トレイルランシューズをハイキングに使用している人も多くなりましたが、このモデルは、そういった使用方法を促進した立役者でしょう。とにかくラク。足全体を柔らかく包み込み、足指がのびのびと広がって、まったくストレスを感じない。もちろん使用シーンを選びますが、私は夏山の一般登山道であれば、これで行っています。ローカットシューズを履くには、荷物が軽いことが大前提です。ちなみに、このモデルは2世代前のもの。現行モデルは堅牢な作りになっていて、足入れ感はもう少しハードです。

涸フェス: シェルター、靴と違って、ザックはウルトラライトなブランドではないですね。

五十嵐: バックパックに求めるのは軽さと丈夫さと価格。ブラックダイヤモンドのブリッツ28は、そのバランスがとてもいいパックです。強度と耐久性に優れたダイニーマを本体に使い、雨蓋のないシンプルな作りでフィールドやアクティビティを選ばずに使えます。1万1000円+税という価格もいいですよね。

軽さと丈夫さと価格のバランスから選んだのが、ブラックダイヤモンド「ブリッツ28」

 

五十嵐: ペラペラの背面パッドは必要最低限のマットとしても使えます。今回提案する徳沢でのシェルター泊であれば、容量的にも充分です。一方、ウルトラライトブランドのザックは耐久性に不安があり、沢登りや岩稜歩きなど、「これ一つで何にでも使える!」という汎用性は低いように感じます。

涸フェス: 装備を削ることで安全対策は手薄になるのでは?

五十嵐: そういう側面もあると思うけど、装備を削るほど自然をじかに感じることができ、山を楽しむことができると思っています。沢登りがその最たるもので、調理は焚き火、食料は現地調達、夜はタープの下でごろ寝。不快で面倒なことも多いけど、沢登りならではの楽しさがあります。でも万が一のときのことを考えて行き先も選んでいるし、自分の地図読み力を疑って、スマホに地図読みアプリを入れて、行くエリアの地図をキャッシュしておきます。

涸フェス: 登山道のある山に行く時も、地図アプリは持っていきますか。

五十嵐: 持っていきます。でも一般登山道を歩くときは、登山地図をこまめに見ることが絶対です。そのバックアップとして地図アプリに予定ルートをキャッシュしておきます。
現在地がわからず、携帯電話の電波が入らない。それでも大体の現在地がわかっていればリカバリーできます。万一のときのためにキャッシュしておくことは計画書提出と同じくらい、場合によってはそれ以上に大事です。

涸フェス: ほしい装備、買い替えたい山道具はありますか。

五十嵐: パタゴニアのメリノウールTシャツです。メリノウールのTシャツは夏山の必需品。肌触りがよく、汗冷えが少なく、べたつかず、臭わない。しかし欠点もひとつあって、耐久性に難があります。だから、価格の安いものを頻繁に買い替えたいと思っています。パタゴニアのメリノウール製品は比較的安価で重宝していましたが、お眼鏡にかなった原材料が見つからないということで、現在は生産中止の状態が続いています。はやく再開してほしいです。

涸フェス: ワンダーフォーゲル8月号の特集は「スリルと展望の岩稜案内」。槍・穂高連峰、剱岳、後立山連峰の岩綾ルートを、詳細な攻略ガイドとともに紹介します。涸沢をベースに北穂高岳をめざすルートもばっちり載っています! アルプス以外の全国の岩稜の山セレクションもあり、岩稜好きにはたまらない一冊となっています。

 

■雑誌紹介
『ワンダーフォーゲル2018年8月号』

スリルと展望に魅せられた登山者が行くべき岩稜を一挙掲載。一般登山道から選りすぐった岩綾の山ルートは、チャレンジしたくなること間違いなし。北アルプスの人気ルートをはじめ、全国の岩稜のベストコレクションを紹介。

 

発売日/2018.07.10発売
販売価格/本体926円+税

amazonで購入 楽天で購入

 

編集部員の山道具を公開! ヤマケイ涸沢フェスティバル2018開催

2018年7月26日(木)~ 29日(日)の間、ヤマケイ涸沢フェスティバル2018を開催します。会場は、上高地から登山道を歩くこと約 6 時間の涸沢をメインに、 徳沢(上高地より徒歩 2 時間)、横尾(同 3 時間)の 3 つの会場で開 催。「登山の今」をテーマに、登山ビギナーからベテランまで幅広い 層の山岳愛好家に楽しんでいただけるプログラムを予定しています。

 ≫ 「ヤマケイ涸沢フェスティバル2018」特設サイト(プログラム)

 

プロフィール

五十嵐 雅人

雑誌『ワンダーフォーゲル』編集長。夏はアルプスなどの高山に行くこともありますが、それ以外の3シーズンは主に近郊の低山を日帰りで歩いています。寒い季節はハイキング、暑くなれば沢登りです。
遠方の山へ泊まりがけで行かなくなったのは、経済的(子供の学費が・・・)な理由です。それが不満かといえば、まったくそんなことはなく、かえって近場にいい遊び場があることに気がついて、新しい世界が広がった気持ちでいます。
それだけに、めったに行けないアルプス登山はスペシャルイベントであり、楽しみで仕方ありません。

涸沢フェスティバル2018特集

日本の豊かな山岳環境を守り、次世代につなげるために、世代を超えて自然の素晴らしさを体験し、共有するイベント『カラサワフェス2018』。 深く山を知り、そして皆さんの登山技術のステップアップに役立つさまざまなプログラムを用意している同イベントの見どころを少しだけ紹介!

編集部おすすめ記事