「青い鳥」で知られるルリビタキ。若いオスの羽の色が地味なのには理由があった!

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亜高山帯の山で見かける美しい青い羽の鳥、それが「ルリビタキ」だ。その美しい姿に反して、雄どおしが繰り広げる戦いは壮絶で激しい。今回は、ルリビタキの羽の色と“仁義なき戦い”について紹介する。

 

こんにちは。NPO法人バードリサーチの高木憲太郎です。この記事では毎月、登山の際に出会える鳥を紹介していきます。皆さんに少しでも鳥のことを知ってもらい、興味を持ってもらえればと思います。図鑑的な情報ではなく、彼らの生きざまを面白く伝えられれば嬉しいです。

今月ご紹介する鳥は、『ルリビタキ』です。中部山岳では標高1500m以上の亜高山帯や高山帯の樹林で繁殖しており、この標高ではメボソムシクイと並んで生息密度の高い鳥です(北海道など高緯度地域では低山などでも繁殖しています)。青い羽が美しいことで知られますが、彼らの青い羽色には秘密があるのです。

雄のルリビタキは、ひしめき合ってなわばりを構え、ライバルと鍔迫り合いを繰り広げているのです。そんな彼らの子孫を残すための戦いに、今回は注目してみましょう。

2才以上の雄のルリビタキ(写真=小野安行)
ルリビタキ
  • 全長: 約14cm(スズメくらい)
  • 外見: 2才以上の雄の上面は頭部から尾まで青色で、白い眉斑を持つ。脇羽は明るい橙色で、下面は白色。雌は、頭部から背面にかけてオリーブ褐色で腰から尾のみが青色。脇羽は雄と同じく橙色で、下面は白色。1才の雄は、雌に酷似している。 

ルリビタキの鳴き声は、バードリサーチの“さえずりナビ”の解説ページからどうぞ。

 

覚えておくと自慢できる!? 高山の鳥のさえずり

梅雨が明けて、夏山の本格的なシーズンになりました。森で繁殖する小鳥たちの子育ては、そろそろ終わりを迎えています。早朝に聞こえてきていた、さまざまな鳥たちのさえずりは聞こえなくなり、合唱の中心はセミたちにバトンタッチしています。

ところが、亜高山で繁殖する鳥たちは、夏の間も元気にさえずっています。少しイメージを膨らませて、北アルプスの標高2000mぐらいまで登ってきたと想像してください。「チュロチュロロロリ、しーん、チュロチュロロロリ、しーん」と、一定のテンポで鳴き続ける鳥の声が聞こえてきた場合、これがルリビタキのさえずりです。

★図鑑jpで、ルリビタキについて詳しく調べる

さえずりがとまり、しばらくすると同じ場所から「ヒッ、ヒッ、ヒッ」という、錆びた自転車が出すような音も聞こえてくるでしょう。実は、これもルリビタキが発している声です。こちらは、雌を惹きつける求愛などの「さえずり」の機能は持っていないので、「地鳴き」と呼ばれます。

別の場所から、「チュイジュリ、チュイジュリ、しーーーーん」「チュイジュリ、チュイジュリ、チュイジュリ、しーーーーーーーん」と、ルリビタキのさえずりよりも少し濁った声も聞こえてくることもあります。こちらは、ルリビタキではなくメボソムシクイのさえずりです。2,3回同じ声を繰り返して鳴き、間隔が不定期なところがルリビタキとの違いとなります。

★メボソムシクイの鳴き声:バードリサーチの“さえずりナビ”

ほかの鳥ももちろんいますが、夏の森林限界近くの林であちこちから聞こえてきているさえずりの主は、この2種のことが多いと思います。あとは、ご存じ「ホーッホケキョ」と鳴くウグイスでしょうか。 

「さえずりナビ」で声を覚えてから山に登れば、今鳴いているのは、ルリビタキだ、メボソムシクイだ、と仲間に自慢できます(もし、「それは違う」と、指摘されるようなことがあったら、説明が悪いバードリサーチの高木のせいにしてください)。 

森にいる小鳥の姿は、なかなか目にすることができませんので、個体数を調べるような調査でも、どの種の鳥が何羽いるのか、声を頼りに記録します。彼らのさえずりは、我々人間にとっては、種を識別するための貴重な情報源です。

 

雌に扮する若い雄のなぞ

さて、話は目にすることが少ない、姿の話に移ります。写真で見ていただいた通り、ルリビタキの雄は非常にきれいな青い羽を持っています。ところが、青い羽を持っていない雄もいるのです。 

巣立った後、ひと冬越えて翌年の春になると、すべてのルリビタキの雄は、雌とつがいになって繁殖する能力を持ちます(実際に繁殖に成功している1才の雄も多くいます)。ところが、この頃は鮮やかな青い衣はまとわずに雌とほぼ同じ姿をしています。2才以上のルリビタキの雄とは見た目が明らかに違うのです。

ルリビタキの雌または若い雄。にしどこさんの図鑑jpへの投稿より

 

性成熟に対して羽色の発現が遅れる現象を専門用語で「Delayed Plumage Maturation (DPM)」といい、日本語では「遅延羽色成熟」という言葉があてられています。鳥の中で、こんなことをする鳥はあまりいません。若い個体の羽色の鮮やかさが、今ひとつな鳥は他にもいますが、ルリビタキの場合は明らかに目立たない色彩を選んでいるようです。では、なぜ、ルリビタキの雄はこんなことをするのでしょうか?

 

研究者の仕事1:地面にあるルリビタキの巣を探す

ルリビタキが示すDPMという現象の解明に挑戦した研究者がいます。私の大学院での先輩にあたる森本元さんです。 

彼の調査フィールドに何度か遊びに行きましたが、なかなか過酷な環境でした。場所は富士山の東側斜面、須走口5合目です。駐車場に車を停めて、連日の車中泊、夜明け前に起きだして、パンなどを口に突っ込みながら、身支度を整えます。そのあとは、ひたすら斜面を登り下りしながら森の中を歩いてルリビタキの巣を探します(今回の羽色の話には関係しませんが、巣を見つけておくと、行動生態学の研究上有用なデータがたくさん取れるのです)。

ルリビタキの巣は、樹上ではなく、地上の土のくぼみや木の根と地面との隙間、岩のくぼみなどにあり、シラビソなどの葉を敷いた上に苔や獣毛で造られたお椀型の産座が乗っています。

余談になりますが、巣を見つけるコツは、心をルリビタキにすることです。たくさん見つけているうちに、「自分がルリビタキだったらきっとこのくぼみを選ぶに違いない!」とピンとくるようになるのです。 

※ただし、皆さんはやらないでください。研究者は鳥の生態を熟知し、彼らの行動を見て与えている影響を確認しながら、調査に必要な最小限の時間で注意深く行っていますし、山林への立ち入りや鳥の捕獲の許可なども得て実施しています。このような知識や経験、配慮、許可申請などが不十分だと、皆さんの行動によって、卵やヒナを襲う捕食者を巣に惹きつけてしまいます。また、違法行為で罰せられることにもなりかねません。 

ルリビタキの巣。写真中央の暗い穴の中にルリビタキの巣がある

 

研究者の仕事2:ブユに気を取られて見逃すなルリビタキの戦い

それから、これ、と決めたルリビタキのなわばりでじっとしながら、さえずった位置を地図に落としたり、その個体のなわばりの範囲を記録したりします。 

記録している最中に、ほかの個体がなわばりに侵入してくると、戦いのゴングが鳴ります。この時は、勝敗を見逃さないよう目で追い続けて、結果を記録します。 

この調査は体力は使わないのですが・・・、別の危険が忍び寄ってくるので注意が必要です。登山者の皆さんなら経験したことがあると思いますが、ブユという蚊よりも小さな虫が寄ってきて刺そうとするのです。ブユは肌にとまったあとは、ここでもない、そこでもない、と歩き回り、ひと刺しするまで時間がかかるものです。そのため、注意して肌の表面を払っていれば意外と大丈夫なのですが、刺されると1週間以上腫れが引かず、ひどいめに遭います。 

DPM以外のテーマも一緒に研究をするので、そのほかにも録音機を設置してさえずりを記録するなど、いろいろな調査をしていきます。日が暮れるころまで、手持ちの簡易食と飲物で過ごし、夕方になってようやく駐車場に戻ってきます。そして、お湯を沸かし、レトルトカレーを温めて夕食をとります。その後は、車から電源をとりながら、データの入力や論文の執筆などをして、早めに眠ります。

標高2000mでのこの生活が、5月から9月まで毎日続くのです。高山の鳥を研究するには、縦走や冬山登山とはまた少し違う装備と覚悟と情熱が必要です。 

須走口5合目駐車場から望む富士山頂、右から三番目が森本氏

 

激しい戦いを避ける若い雄の作戦

富士山の5合目まで登ってきたルリビタキは、盛んにさえずり、なわばりをかまえます。なわばりの境界では戦いが起きるのですが、その戦いは、橙色の脇羽を大きく膨らませながら「ヒッ,ヒッ」と声を発する威嚇行動から始まります。そしてそのあと、お互いを追い回す追いかけ合いに戦いは移行します。最後には、相手につかみかかったり、つつき合いをするといった直接闘争へと発展します。 

しかし、森本さんの努力と苦労の蓄積は、雄同士の戦いの激しさが戦う戦士の羽色の組み合わせによって違うということを明らかにしました。

青い雄同士、オリーブ褐色の雄同士が戦うと直接闘争まで発展することが多いのに、青い雄とオリーブ褐色の雄が戦うと、滅多に直接闘争まで至らず、追いかけ合いで決着がついたのです。

 

ルリビタキの雄同士が戦った時の羽色の組み合わせによって異なる戦いの激しさを表した図。(a)と(c)では、一番左の「けんか」が記録される回数が多いが、(b)では真ん中の「追いかけ」が多い

 

つまり、ルリビタキの1才の雄は、年上の雄に対してあらかじめ自分が弱い立場にあることを、羽色で発信することによって、相手の怒りを和らげて強い攻撃を抑制し、自分も無理に仕掛けないことで、無用な闘争を回避し、闘争による怪我などのリスクを減らそうとしているのだと思われます。 

こうすることで、先輩たちの間にまんまと自分の縄張りを確保できるのだとしたら、安いものです。「してやったり」、とほくそ笑んでいるかもしれません。小さいと思って、侮ることなかれ、小鳥たちの世界には、厳しい戦いの現実と、それを生き抜くための駆け引きが存在しているのです。 

なお、これまでのDPM研究から、若い雄が雌に似ているとはいえ、雌に擬態しているというふうに考えるのは適切ではないようです。「闘争が起きている時点で雄だとバレているんだよ」、と森本さんに指摘されました。確かに、その通りです。きっと、鳥どうしには、私たちにはわからない雄らしさや雌らしさといった見分けるポイントがあるのでしょう。

日本の山には、ルリビタキのほかにもオオルリやコルリといった青い衣を纏った小鳥が生息していますが、彼らが生息している森は亜高山帯よりも低い標高です。森林限界付近の少し開けた林で青い鳥に出会ったら、ルリビタキだと思ってまず間違いありません。

ちょっとこちらを観察してくる顔は、愛くるしくも見えますが、本当は、得体のしれない侵入者に、警戒の厳しい視線を投げかけているのかもしれません。そんな時は、ルリビタキには青くならずに、したたかに生きる若い雄がいることを思い出しつつ、長居をして彼らの戦いを邪魔しないよう、歩みを進めていただけたらと思います。

プロフィール

高木 憲太郎

NPO法人バードリサーチ研究員。全国の会員と共に鳥の生息状況の調査(最近はホシガラス)を行なっているほか、人と軋轢のある鳥の問題解決に取り組む。
 ⇒NPO法人バードリサーチ

調査プロジェクト<「ホシガラスを探せ!!」
このプロジェクトでは、ホシガラスの目撃情報を集めています。
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