登山における判断能力とは? リスクとハザードの認識と自分の能力を知り、的確な登山行動を!
遭難事故のニュースが絶えない夏山シーズン、その原因はどんなところにあるのか? 登山中の安全を確保するために必要な「判断能力」について今回は説明する。
酷暑の日々が続いていて、引き続き熱中症対策には注意が必要です。また、これからは台風の動きが気になる時期で、登山予定時期に台風が発生すれば常に動きをチェックしておく必要があるでしょう。
いずれにしても、こうして暑い日が続くと爽やかな稜線の風を求めて登山をされる方も多いでしょう。しかし、安易な気持ちで山に入ると、重大な事故につながる可能性があります。
夏山シーズンに突入し、長野県では今年も、すでに多くの遭難事故が発生しています。登山中の安全を確保するためにはどうすればよいのか。今回は登山における判断能力について説明したいと思います。
正確な観察力と的確な判断力で、確信をもって危険回避を
登山行動には判断の積み重ねが必要となります。その中で重大な判断ミスを犯すと遭難につながるものです。では、登山における判断材料とは何でしょうか。この判断は、主に登山前と登山中にあると考えられます。
はじめに、登山計画を立案するときについて考えてみましょう。まずは登山者本人の能力を知る「判断」です。力量・知識・心構えがどれほど準備できているか考えてみてください。
準備段階で判断することは多岐にわたり、具体的には季節・地形・高度・傾斜・気象条件の把握となります。計画段階で危険認識と対策を行うには、自身の体力と歩行技術の確認はもちろん、読図の知識や気象情報の収集が必要になるでしょう。また、用具(装備)の選択、食料計画や水分摂取量も大切になります。
目標とする山やルートの難易度と自己の実力を理解していないと、そもそも無謀な計画となってしまうため、まずここで判断能力が試されることになります。
続いて計画の実施にあたり、行動中はハザードとリスクに対する予見能力が必要となります。一番大切なことは登山行動中の危険認識がどれだけできるかどうかです。地形や登山道の状況、気象状況の変化など、正確な観察や的確な判断力がなければ、確信をもって危険回避ができないからです。
とくにパーティー登山のリーダーとなれば、そのリーダーシップよ役割は重要です。責任感のあるリーダーとメンバーのフォロワーシップは、危機を判断する上で重要な役割を担い、回避したときの達成感も上がるでしょう。
例えば上のような写真を見て、皆さんがこの場面に出くわしたときに、どんなリスクとハザードを思いつき、どんな判断をするでしょうか? 滑落したらどうなるのか、そのまま慎重に通過するのか、引き返すのか、それとも――。自分やパーティの実力、装備、気象条件、地形や傾斜などを判断材料として、さまざまな選択が考えられるはずです。
登山行動における安全の限界を認識し、困難を克服できるようになれば登山はより楽しくなります。体力を鍛え、技術を磨き、しっかり準備してください。ルートの先を見て、周囲の状況を観察し、より安全な判断を行うことは、遭難事故を防止することにつながります。
普段からハザードを認識し、リスクの回避の判断を考えて歩く訓練をしてください。くれぐれも「ボ~っと歩いてんじゃねえよ!」と言われないようにしたいものです。
プロフィール
長野県山岳総合センター
長野県大町市にある長野県立の施設。「安全で楽しい登山」の普及啓発を主目的に、「安全登山講座」と動植物・地形地質をはじめ山の自然を総合的に学べる「野外活動講座」を、年間約60講習開催。講習参加者のうち、長野県外の方が約6割を占める。
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