裏岩手連峰のなだらかに広がる山々を越えて温泉へ―― 東北・八幡平 陵雲荘

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イラストレーターで山岳ガイドの橋尾歌子さんが、各地の避難小屋を巡り、山小屋の様子をイラストで紹介。第1回は、東北・八幡平にある、陵雲荘を紹介する。

 

 

友人の登山ガイド、ユッキーと初めて訪れた裏岩手連峰。前夜、三ツ石山荘で一泊し、この日は三ツ石山から北上して、大深山、嶮阻森を経て、八幡平にある陵雲荘まで歩き、その翌日、八幡平の山頂まで行ってから温泉に入ろうという計画だ。

山頂に3つほど石を積んだような塊がある、三ツ石山から縦走開始!

 

1956年7月、十和田国立公園に八幡平エリアが編入され、「十和田八幡平国立公園」となったのをきっかけに、岩手県によって周辺登山道と避難小屋の整備が始まった。57年に建てられた初代の小屋は老朽化により一度建て替えられた。2代目の小屋も2002年に解体され、翌03年7月に今の小屋ができた。この時期、岩手山の噴火騒ぎがあったので、整備されたのかもしれないが、資料にその記述はない。

陵雲荘の陵は「墓」の意味。もともとは「凌雲荘」だったようだ。それが時には「稜雲荘」に変わり、いつしか「陵雲荘」が正式な名前となった。

三ツ石山の山頂にはその名のとおり、3つほど石を積んだような塊があり、これから歩く裏岩手の山々が広がっていた。振り返ると岩手山が大きくそびえ、その右には遠く秋田駒ヶ岳や乳頭山がかすんでいた。う~ん、これこれ。この、どこまでもたらり~んと広がる山々を見たかったのだ。

進んでいくと沼や池塘が点在する。八幡平方面から来る登山者は思った以上に多い。途中の避難小屋、大深山荘にはお昼ごろに到着したので、山荘前のベンチでご飯を食べる人がたくさんいた。

最後のピークである畚岳から八幡平に下った。八幡平バス停の喧騒を抜けて、石畳を陵雲荘に向かう。その短い間に、草も森も八幡沼の水面もユッキーの顔も、なにもかもが夕日で赤く染まっていく。

夕日で赤く染まる、陵雲荘の外観


小屋には盛岡、秋田、東京から来たそれぞれ単独の登山者と、秋田から来た4人のグループがいた。グループの中の一人は、毎年この小屋に来ていると話した。小屋のストーブでは、彼らが運んできた薪が赤々と燃され、リンゴの入ったホットワインをごちそうになった。あれからまた彼らはあの小屋を訪れたのかなぁ。

翌朝、広い高原の最高点のある八幡平の山頂に向かった。そこから湿原の中の木道を北上し、蒸ノ湯温泉へ。

温泉に向かう。ふもとの紅葉がきれいだった


あ~やっぱり東北の山は温泉も入らにゃなぁ。温泉でふにゃふにゃに癒された私。もうほんまに満足満足。――と、ユッキーは、「後生掛温泉にも行くで」と言うではないか。そりゃ入りたいけどさ、帰りのバスの時間が・・・。と、ごちゃごちゃやってたら、なんと! 親切な車が拾ってくれた。

 

陵雲荘DATA

  • 所在地: 岩手と秋田の県境にある八幡平(1613m)山頂の東南500mにある八幡沼畔(1570m)。裏岩手連峰東の登山口、松川温泉から2日。八幡平頂上バス停からは石畳の道を約15分

  • 収容人数: 20人

  • 管理: 通年無人、無料

  • 水場: なし。八幡平頂上バス停付近で汲むとよい

  • トイレ: 小屋内にあり

  • 山行日: 2014年10月10~12日

  • 問合せ先: 八幡平市役所商工観光課 ☎0195-74-2111

⇒詳しい地図はこちら

 

この文章とイラストは橋尾歌子さんの著書『それいけ避難小屋』から紹介しています。実際の書籍では、山行中の様子についても、さらに詳しく・楽しくイラストを掲載して紹介しています。

著者独自のカラーイラストで描かれた間取り図や山行ルポは、写真や図面と違い、小屋の雰囲気まで伝わってきます。東北から四国にかけて実際に訪れた、全51軒の個性あふれる避難小屋を、イラストと共にぜひ楽しんでください。

 

『それいけ避難小屋』の書籍内の様子

 

プロフィール

橋尾歌子

イラストレーター、登山ガイド。多摩美術大学大学院修了。(有)アルパインガイド長谷川事務所勤務、(社)日本アルパイン・ガイド協会勤務を経てフリーに。2004年、パチュンハム(6529m)・ギャンゾンカン(6123m)連続初登頂。(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅢ。UIMLA国際登山リーダー。バーバリアンクラブ所属。

こんな山小屋で一息ついてみたい。“避難小屋”への誘い

悪天候などの非常時に避難・休憩・宿泊するための山小屋が避難小屋(無人小屋)。日本各地の山に、300軒近くあるといわれている避難小屋の中から、個性的な小屋をピックアップして登山ガイドでイラストレーターの橋尾歌子さんが実踏調査。書籍『それいけ避難小屋』『帰ってきた避難小屋』から、カラーイラストとルポで避難小屋の魅力を紹介する。

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