田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き」、天候不順の8月後半から9月、岐阜北部と北陸の名山を巡る

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「日本3百名山ひと筆書き」に挑戦中の田中陽希さんは、8月の後半から9月にかけて、岐阜北部から北陸の山を歩いていた。この間登った15座のうち9座が、初めて登る「三百名山」の山だった。 秋雨前線や、相次ぐ台風に見舞われ、停滞やルート変更を余儀なくされた。さらに右手薬指の骨折が完治せず、難所としていた登山道のないヤブの山3座をスキップするという決断もしたのだった。

POINT
  • 岐阜北部から北陸の山15座に登る。白山と泰澄大師に縁のある山が多い
  • ヤブ山3座は来春へ。焦らずに、目の前の山をひとつひとつ。ていねいに向き合っていった
  • 白山と白山信仰の話を聞くことで、人と自然との関わりを考え、白山に向かった

 

北陸地方最初の山。60座目、能郷白山

能郷白山は、愛知・岐阜から歩いてきて、北陸最初の山でした。 この地方の山々は、白山を開いた越前の僧・泰澄(たいちょう)大師が、白山と前後して開いた山が多い、とのこと。麓の白山神社で地元の方に山の歴史を詳しく聞いたことによって、北陸では「泰澄大師が開いた山々を登るんだ」というテーマが見えてきました。

能郷白山も、白山の翌年(717年)に開かれた、1300年の歴史ある山です。二百名山のひとつで、3年ぶりの登頂でした。 加賀の白山が見えると思っていて、最初、遠くにぼんやりと見えた山容が白山だと思っていたんですが、下山前に、それとはぜんぜん違う、ずっと上の雲の合間から白山のピークが見え、2702mという白山の大きさを感じました。 それと、お盆を過ぎて最初の山になったのですが、山を登っている間は暑いけど、汗をかいてもすっと引いていきました。リンドウの花も見えて、空気感が「なんとなく秋になっているな」と感じた山でした。

この地域の最初の山・能郷白山では、リンドウの花が見られ秋の気配を感じた

 

展望の良い冠山はガスの中

翌日は61座目、初めて登る冠山でした。これまではなるべく天気の良い日に登ろうと、天候待ちをして登ることもあったのですが、台風と秋雨前線の影響か、不安定な天候でした。「越前のマッターホルン」とも称される、烏帽子のような山容は、残念ながら見ることができず、展望も得られませんでした。 山容が特徴的な山にも関わらず、終始、山容が見えなかったことで、かえって印象深い山になりました。

展望がよいはずの冠山だったが、一面のガス。これもまた印象に残った

 

白山三馬場のひとつ、「越前馬場」の平泉寺から経ヶ岳へ

越前市での交流会を終えて、再び山へ向かいました。経ヶ岳に向かう前に、山麓の平泉寺白山神社に立ち寄ったのですが、ここも泰澄大師が開いた神社で、「白山三馬場(ばんば)」のひとつ、「越前馬場」と呼ばれる場所です。苔に覆われていて厳かな雰囲気でした。

苔に覆われ厳かな雰囲気の平泉寺から経ヶ岳へ。白山へ続く越前禅定道の一部を歩いた

この平泉寺で、白山信仰や経ヶ岳のいわれを聞いてから、経ヶ岳へと登っていきました。「馬場」とは、馬を置いて、神社で身を清め、準備を整え、白山の禅定道に向かっていくという、「白山の入り口」を表す言葉。古人と同じように、平泉寺から経ヶ岳へ、白山と続いていく越前禅定道の一部を歩きました。 ただ、この日は、登り始めが遅くなってっしまったことで、気温が上がり、蒸し暑くなったのと、火山地形でアップダウンが思った以上にありました。経ヶ岳は簡単に登れる山ではなかったです。 下りも、宿までが長くて、20時まで歩くことになってしまいました。

4年ぶり。百名山の荒島岳

このエリアで白山と並ぶ百名山の荒島岳へは、4年前と同じルートで、中出コースから、小荒島岳、もちが壁を経由して登頂しました。今回は水田に実りが見られる初秋でしたので、山上からは黄金色の田んぼを見ることができました。

小荒島岳から荒島岳への稜線(左)。麓の田んぼは実りの季節で黄金色に(右)

ただ、白山に近い山に登っていながら、この時点で、まだ山上からの白山の姿が眺められず、次の山に持ち越しになりました。

 

「藪山は来春」と、ルート変更を決断

この地域の山のリストには、野伏ヶ岳、猿ヶ馬場山、笈ヶ岳という登山道のない「ヤブの山」が控えていました。笈ヶ岳は、3年前、藪こぎでたいへんな思いをした山です。手の指を骨折しているなかで、どうやって登ろうか、やめるべきか、と迷うところがありました。 荒島岳の後、福井やこの周辺の山、それもルートのないヤブの山や沢登り、道なき道を歩くのが好きという、登山歴50年の地元のベテランの山ヤの方にお会いし、これらの山のことを伺いました。 その結果、野伏ヶ岳、猿ヶ馬場山、笈ヶ岳の3つは、指が治らないことには登れないと判断、この3つはスキップして、次に進むことを決心しました。この方の言葉に「背中を押された」と言ったほうがよいかもしれません。 すでに当初の計画より2ヶ月半ほど遅れていて、骨折もしてしまい、天候も順調ではなかったので、計画変更はそれほど落胆や焦りはありませんでした。 自然を相手にしているので、「目の前のひとつひとつの山にきちんと取り組んでいこう」と、改めて心に決めました。

大きなルート変更を決断したが焦りはない。ひとつひとつの山にていねいに向き合い、自分の旅を続けている

 

白山展望の鷲ヶ岳と大日ヶ岳だが、白山の姿は見えず…

岐阜県の鷲ヶ岳は、大鷲退治の伝説から、鷲ヶ岳と呼ばれていますが、古来は「雲ヶ岳」と呼ばれていたそうです。 その名の通り、「雲がよく湧く山なんだろうな」と感じさせる山でした。924段もの階段を登って登頂し、白山を望めるはずだったのですが、ここでも白山は雲に隠れてしまい、翌日登る大日ヶ岳が目の前に大きく見えました。

大ワシ退治の伝説が残る鷲ヶ岳。山上からの白山は見られなかった

大日ヶ岳は、2百名山の山で、3年ぶりに登りました。ここも泰澄大師が開山し1300年の歴史がある山。 山頂に大日如来を祀ったのが山名の由来です。前回は紅葉は終わっていましたがが、難所の笈ヶ岳を登ったあとの山で、天気もよく、印象深い山でした。 白山の周りの山は、山自体が遥拝所のようになっていて、この大日ヶ岳も、白山を拝む山でもあるのですが、ここでも白山の姿を見ることができませんでした。

本来は白山を拝むことができる大日ヶ岳でも白山の展望は得られなかった

 

長滝白山神社へ立ち寄り、美濃禅定道を、石徹白から白山へ

郡上市の長滝白山神社は、白山三馬場のひとつ。平泉寺の「越前馬場」に対して、「美濃馬場」と呼ばれ、美濃禅定道の入り口になります。 「馬場(ばんば)」とは「山への入り口(馬を置き、身を清め、準備するという場所)」であると同時に、修験の場所でもあること。また三番場とも、必ず白山がもたらす恵みのひとつ、「水」が関係していることなど、白山についてのお話を伺いました。 また、かつて「美濃馬場」の白山信仰は盛んで、「上り千人、下り千人」と称されるほど賑わっていたそうです。

長滝白山神社でも白山と信仰についてお話を伺った。人と山との関わりを感じて、いよいよ白山へ向かう

これらの話を聞いたことで、「登山の対象として白山に登る」というより、「古来からの人と山との関わりを感じて白山に向きあい、昔の人の気持ちをたどっていく」「修験者がどんな気持ちで歩いたのかを考えながら歩く」、という感覚になりました。

長くて険しいという美濃禅定道を歩き、白山の稜線へ

美濃禅定道の険しい登りを、二ノ峰、三ノ峰と、白山に向かって歩きました。これまで、白山周辺の山では白山の姿を見ることができなかったのですが、2日目、白山・最高点の御前峰で2時間待ってようやく青空に恵まれ、今回の旅で最も高い標高から、素晴らしい景色を見ることができました。白山の神様からのご褒美だったのでしょう。白山の神様との根比べに、神様が笑顔で根負けしてくれたのだと思います。

今回の旅で最も高い2702mの白山・御前峰にて。ガスが晴れるまで粘って絶景を堪能した

この日は、大汝峰を経て、北東に伸びる北縦走路を三方岩岳へ向かいました。この道は倒木も多く、荒れ気味で難しいところがありましたが、夕暮れに間に合う時間に、三百名山のひとつ、三方岩岳に到着しました。

三方岩岳山頂から白山を振り返る。長い長い縦走路を歩き、充実の2日間を終えた

台風接近のため2泊3日想定の修験の道を、1泊2日に短縮したのですが、充実した2日間の縦走を終え、白川郷に駆け下りました。

 

通行止めに阻まれ行程を練り直し、大笠山・大門山へ

白川郷に下りたものの、8月の豪雨、台風などが連続し、白川郷からの道がどの方向にも通行止めになっていました。さらに大門山から医王山までの道路も使えないとわかりました。この付近の山々をどういう順番でどう登るか。考えた結果、大笠山、大門山を登った後、人形山、金剛堂山、白木峰と回ることにしました。

豪雨や台風の爪痕が見られた。大笠山からご来光を仰ぐ

大笠山は、2百名山の最難山・笈ヶ岳に登ったとき、足がかりにした山でした。今回は、ヤブ山の笈ヶ岳には登らないので、大笠山が目的の山になりました。笈ヶ岳に登らなかった分、大笠山に向き合う時間ができた、と言っても良いかもしれません。山上の避難小屋に泊まり、山頂からご来光を拝みました。

大門山への縦走路を進む

大門山は「加賀富士」と呼ばれるようですが、大笠山からの縦走路ではそのような姿には見えません。「大門」とは、「加賀馬場」から白山に向かう山並みの、最初の山であり、「門」とみなしたところから、その名があるようです。一日2座に登って、五箇山に下山しました。

 

9月上旬の台風、秋雨前線で4日ほど停滞。そして70座め人形山へ

大門山のあと、秋雨前線によって五箇山の上平の集落にある宿で4日間の停滞を強いられ、ようやく70座目の人形山に登ることがでました。

合掌造りが残る五箇山。台風と秋雨前線の影響で4日間の停滞となった

白山とつながる大笠山・大門山とは、庄川を挟んで向かい側に位置するの人形山ですが、わずかの距離の違いで、山容が大きく異なっていました。 白山側の山は、雪が多く、特に山の東側は、雪と水が削った地形になっていて、掘りが深く、谷が立っている印象です。一方の人形山は、山上は灌木帯でゆったりとした広い尾根状で、草原が続いていました。

人形山の稜線は、なだらかに草原が広がっていた

 

岐阜・富山県境の山を一日2座、登って下ってまた登る!? 金剛堂山と白木峰

白山周辺の山は、越前の泰澄大師が開山した山が多いのですが、この金剛堂山は、役行者さんが開山した山だそうです。金剛…と名が付いているのですが、そのとおりでした。3年前、2百名山のときにも登っているのですが、そのときは案内看板を読むことができず、このことを知りませんでした。 今回の3百名山の旅では、これまで金剛山地や大峯奥駈道で、その足跡をたどってきた役行者さんなので、彼が開いたという修験の山に、また登ることができた、という感慨がありました。

役行者が開いたという金剛堂山では、奥金剛まで登頂。山上の草原が気持ちいい

また、金剛堂山には、前金剛・中金剛・奥金剛とある中で、前回は中金剛までで下山していました。今回は天候にも恵まれ、奥金剛まで行ってみたのですが、山上の草原がとても気持ちの良く、すでに草紅葉が始まっていて、自分の好きなタイプの山、と改めて感じました。

これまではひとつの尾根上にある2座の縦走は何度かありましたが、この日は、ひとつ登って、800m山麓に下って、また600m登り返す、というようなハードな登山になりました。 白木峰ですが、遠くからなだらかに見える山容と違って、登り返しには高木が多くて急登。さらに山上に出て小白木峰から先も予想よりアップダウンがありました。

登りがきつかったというこの日2座目の白木峰

予定より1時間遅れて白木峰のピークへ。ピークの奥にある「浮島の池塘」にはたどり着けず、下山したら土砂降りに遭ってしまいました。

 

富山のゴールドウイン本店、金沢のザ・ノース・フェイス ストアでの交流会

サポートいただいているゴールドウインの富山本店へは、3連休に掛かりそうだったのですが、少し急いで歩いていき、金曜夕方に滑り込みで表敬訪問できました。たくさんのスタッフの方に温かく迎えてもらいました。さらに金沢市内では、ザ・ノース・フェイス ストアでの交流会は、2日前に急遽実施することになったのですが、定員50名のところに倍以上の申し込みをいただき、店頭ではできないので、急遽、会場を借りて行いました。ここでも大勢の方に励ましの言葉をいただきました。

サポートしてくれているゴールドウインの富山本店へ。金沢での交流会には約120人もの応援の方が集まった

 

北陸最後の山は、地域の暮らしの中にある山、医王山

金沢市内から向かった医王山は、石川・富山県境に位置する山です。金沢からも、砺波平野からもよく見える山で、石川県側にはいくつもルートがありますし、富山県側にはスキー場のゴンドラもかかっています。

石川・富山県境の医王山。人の暮らしに近い、魅力あふれる低山だった

富山側では「医王山に雲がかかると雨」、と言われたりして、人々の暮らしに近いところにある山です。山上まで車道が通っていて、一般的にはどんな人でもアプローチしやすい登りやすい山でしょう。 医王山では、シンボルになっている「トンビ岩」に立ち、白兀山、奥医王山と縦走しました。

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藪山の3座を除いた北陸の3百名山を登り終えた田中陽希さんは、富山県から北アルプスに入っていきました。10月には降雪も始まる北アルプスの山旅は果たして…。

グレートトラバース公式サイト、公式SNSなどをチェックし、応援しよう。

北陸でも「現存十二天守」に立ち寄った。現存天守では最も古いという丸岡城にて
取材日:2018年10月1日
写真提供:グレートトラバース事務局

 

関連リンク

人力10,000kmの山旅。日本3百名山ひと筆書きに挑戦中の田中陽希さんを応援しよう!
もっと知りたいという方は、ウェブサイトで。
グレートトラバース事務局ウェブサイト
http://www.greattraverse.com/

 

まとめ (山名は「ヤマケイオンライン」の山の紹介ページへのリンクします)

能郷白山 [2018年8月19日]

冠山 [2018年8月20日]

経ヶ岳 [2018年8月26日]

荒島岳 [2018年8月27日]

鷲ヶ岳 [2018年8月29日]

大日ヶ岳 [2018年8月30日]

白山・御前峰 [2018年9月3日]

三方岩岳 [2018年9月6日]

大笠山 [2018年9月6日]

大門山 [2018年9月6日]

人形山 [2018年9月11日]

金剛堂山 [2018年9月13日]

白木峰 [2018年9月13日]

医王山 [2018年9月18日]

田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き」旅先インタビュー

2018年1月1日から、日本三百名山を歩き通す人力旅「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦中、田中陽希さんを応援するコーナー。 旅先の田中陽希さんのインタビューと各地の名山を紹介!!

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