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登山靴のプロに聞く! 靴の耐用年数と修理の現場の実際に直撃

登山道具の買い方・選び方、ショップのスタッフに聞きました!
道具・装備 2018年11月07日

「登山中に、突然ソールが剥がれた!」という現場を目撃したり、実際に経験することは珍しいことではない。 安全に山を楽しむためにも、登山靴は日頃のケアが重要だ。Mt.石井スポーツの登山靴を陰で支える製靴工場の中真人工場長に聞く“登山靴メンテナンス”の話、第2弾では修理の現場と実際を直撃。

取材/文/構成 辻 歌

ICI石井スポーツの本社内にある製靴工場「登山靴技術研究所」

 

登山靴の修理時期は耐用年数でなく「目」で見極める!

ライターT: 前回は、登山靴修理のタイミングの目安を教わりましたが、危険サインの出る年数はどれくらいなのでしょう?

中さん: よくお客様からも「何年くらいですか?」と質問されますが、一概に「購入から〇年経ったら危険」というのは言えないんですよね。使用回数次第というか使用距離次第というか・・・、使う頻度で修理時期は違ってくるものです。
もちろん靴の種類によっても異なります。例えば、最近多い化学繊維を使った靴だと経年劣化が早めに起こります。やっかいなことに日本は湿度が高いので、1回も使っていなくても10年も経てば経年劣化で素材がボロボロになることもあります。早いものだと3年くらいでなることもあります。

自分の愛用靴の状態をこまめに見ることが、長く使う秘訣となる


ライターT: 例えば、ソールの剥がれをテーピングで巻いて応急処置をしている人を、山で見かけることがあります。あれはいつ、どうして起きるのでしょうか?

中さん: ソールの剥がれは、単純に剥がれて起きるのではなく、実はポリウレタン素材がボロボロになっている状態で起きるケースがほとんどです。ああなる前に何らか処置しておきたいですね。

★前回記事:登山靴のプロに聞く!長く使うための修理のタイミング

ライターT: 具体的には、どう対処すればいいのでしょう?

中さん: 履く前にちゃんと見てあげる習慣をつけることになります。自分の靴なので、普段から興味をもって接しておくことで防げることも多いです。山へ行く前と帰ってきたときに自分の靴を観察しておく習慣をつけておけば、「あれ? 前と変わったな」など、気づくことがあります。何か気づいたら、きちんと修理する。修理をすることで、登山靴は長く安全に履けるようになります。

 

「登山靴のプロ」中工場長

 

職人技が光る、丁寧なソールの張り替え

ライターT: では、実際にソールの張り替え作業を見せていただけますか?

中さん: まずは、ソールを剥がして、古い接着剤をきれいに落とします。しっかり落とさないと、新しいソールがピタッと付かないので丁寧に行います。

以前付いていたソールを剥がし、接着剤も落とした状態。ここから新しいソールを張り付ける


ライターT: ソールが剥がれた際に、市販の接着剤を使って応急処置をしてしまうケースもあるかと思いますが、これはどの程度効果はありますか?

中さん: 自分での修理は、あまりおすすめできませんね。市販の接着剤でよく使われている素材は「クロロプレンゴム系」のものです。この種類はウレタン系のソールが、きちんとくっつきにくいタイプの接着剤ですので、またすぐに剥がれてしまうと思います。
また、私たちが一番困ってしまうのは瞬間接着剤で修理した靴です。このタイプは逆に接着剤を落としにくいので、修理のために接着剤を落とそうとしたときに、素材が欠けてしまうことがあるので、自分で修理するのは極力しないほうがいいでしょう。

ライターT: プロの修理方法や接着剤とは違うということですね。

中さん: それは違いますよ(笑)、接着の方法も異なりますから。工場では接着剤を塗った後に熱を加えて再活性させて、ソールが剥がれないよう密着させています。そして新しいソールがピタッとくっついたら、ソールを本体のサイズに合わせて切り取り、削って仕上げる作業をして、きれいにしっかりと仕上げています。

新しいソールを準備する。プロユースの接着剤を付けて、熱を加えて接着強度を高める

 

新しいソールを本体に密着させるため、まんべんなく圧力をかけて接着

 

新しいソールを靴の形に整えて仕上げる。ここは細やかな手作業で行う

 

新しいソールを貼り付け、余分な部分を切り落とし、最後の仕上げを行う直前。ここからヤスリをかけて形を整えれば、ソールの張り替えは終了


ライターT: 靴のソールがきれいに蘇りましたね!

 

防水素材の機能を損なわない修理技術

ライターT: ほかにどんな修理例があるか見せてもらえますか?

中さん: 例えば、このレザーを使ったマウンテン系のごついシューズを見てください。これは履き口あたりの革が切れてしまったので、別の革を当てて修理しています。靴の中は防水透湿性に優れたGORE-TEXのブーティ(ライニング)が使われているので、その機能を損なわないよう縫い目は入れられません。そのため、ここでは接着剤で付けています。
接着剤についても、足に当たる部分は柔らかい接着剤、端は取れにくいよう硬い接着剤・・・、と使い分けることで履いたときに違和感が出ないように修理しています。

上が修理したもの、下が元の状態。黒の部分が修理箇所。防水素材の性能を落とさないよう、繊細に計算して修理を行っている


ライターT: 機能性に優れたハイテク素材だと、扱いも慎重になりますね。

中さん: GORE-TEXなどの防水機能は生かしたままにして修理することが、ここではポイントです。

 

足が痛むときは靴のサイズの微調整も可能

ライターT: こちらの機具は?

中さん: サイズ出し(当たり出し)をするものです。サイズ出しは熱ではなく、ギュギュッと圧力をかけて、足の形に合わせて伸ばしていく必要がありますので、この道具を使って行います。圧力をかけても、素材はすぐ元の形に戻ろうとするので、2日くらいはこの状態で置いておきます。
足が当たって多少痛むところを直すくらいなら店舗でもできますが、難しいものはこの工場で行っています。不具合や悩みがあれば、店頭で実際に履いてもらって確認して、明らかに変形させないとダメなものはこちらで対応します。

サイズ出しをする専用の機具

写真のように当たり出しする箇所に合わせて設置して、じっくりと圧力をかけていく


ライターT: 足が痛むと本当に辛いですもんね・・・。

中さん: でも、実はたいていの靴の痛みの原因は、きちんと靴紐を締めていないことによって起きています。足の形に合った靴を探すのはもちろんですが、靴紐を正しく締めることで、かなりフィット感が高まって、痛みは解消できるんですよ。
もちろん、ひどい外反母趾などがある場合は靴をその形にするしかありません。どうしても馴染みにくいときは、このように店舗やICI製靴工場で当たり出しを利用できるのは、Mt.石井スポーツの強みですね。

 

登山靴のプロとしての修理技術をいくつか見せてくれた中さん。次回は、靴選びのポイントや自分でできるケア方法をうかがう。

 

登山靴 メンテナンス用品
教えてくれた人

中 真人

Mt.石井スポーツの本社内にある製靴工場(登山靴技術研究所)の工場長。学生時代、石井スポーツが発行した山道具カタログに載っていた同工場の記事を見て入社を決意。以来約42年間、登山靴職人として製造と修理を手がける「登山靴のプロ」。

Mt.石井スポーツ 製靴工場

「Mt.石井スポーツ」オリジナルのハンドメイド靴の製作と、登山靴の修理を行う、通称「登山靴技術研究所」。店舗へ出張しての「登山靴相談会」を不定期で開催している。
Mt.石井スポーツ

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