赤ではなく黄色に紅葉するヒトツバカエデ。心をつかんで離さない、ハート型の大型の葉
秋も深まりと共に紅葉前線は南下し、標高を下げてきている。紅葉する樹木にはカエデが有名で、手のひらのように切れ込んだ形の葉が真っ赤に染まる姿を想像するはずだ。しかし、ヒトツバカエデの葉はハート型で、色は赤ではなく黄色に紅葉する。
今年(2018年)の紅葉はあまりよくない、とあちこちで耳にする。秋口に風が強い大型台風が通過して、風で葉が痛んで紅葉がよくないというのが簡単な答えだ。本当にそうだろうか。確かに東京や横浜では強い風が吹き、あまりよい紅葉がよくない樹木もある。だからといって、日本のどこの紅葉もダメだというのは、短絡的すぎる。
先日、群馬県北部の吾妻耶山に登った。ここは関東地方北部というよりも、谷川岳の前衛峰に近い山。太平洋側の植物と、日本海側の植物が同居する、不思議な場所でもある。
台風の影響はやはりここにもあり、倒れた木もあるが、風当たりが強い木でも葉が残り、美しい紅葉になっていた。紅葉もよい場所を探せば、まだまだよい場所はきっとある。それに山全体が真っ赤に燃えるような紅葉にならなくても、小さな美しい紅葉はきっと見つかるだろう。
今回楽しかった吾妻耶山の登山中で、一番気になった黄葉はヒトツバカエデの黄葉。ヒトツバカエデはカエデの一種だが、葉は一般的なカエデのように深く切れこんだ形ではなく、大型のハート型をしているのが特長だ。
葉は緑色の間は目立たない存在なのだが、秋の紅葉の頃になると、突然すばらしい樹木に変身する。カエデは赤く紅葉することが多いのだが、ヒトツバカエデは黄色く黄葉する。こんなところもへそ曲がりでいいところなのだ。
ヒトツバカエデは、黄葉もいいが落ち葉もいい。ただ黄色くなるだけの葉なのだが、なぜか私の心をつかんで離さない。なぜこんなに気になるのだろうか。
プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。