恵那山々頂小屋(中央アルプス)――、山頂からの展望はなかったけど、たくさんの人との出会いに恵まれた

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イラストレーターで登山ガイドの橋尾歌子さんが、各地の避難小屋を巡りその様子をイラストで紹介するルポ。第4回は中央アルプス・恵那山にある恵那山々頂小屋へ。恵那山頂にはやぐらがあるが、そこに登って見えたものは!?

 

へー、ここも中央アルプスか、ってほど主脈から離れた恵那山。いろんな山から見えるし、中央道で恵那山トンネルを通るので、なじみはあるけど登るのは初めて。「山頂からは何も見えないよ」ってよく聞くなぁ。

峰越林道駐車場から40分ほど林道を進むと現れる広河原登山口


昭和30(1955)年代、中津川市によって初代の小屋が建てられたが、記録は残っていない。深田久弥の「日本百名山」連載途中から始まった第一次登山ブームにより登山人口が増え、建てたのだろうとのことだ。

老朽化により、1987年に現在の2代目の小屋に建て替えられ、管理は中津川市が行なっている。小屋のシンボルである赤い屋根の塗り替えなど、メンテナンスは2年ごとに行ない、2001年に少し離れた場所にトイレが建てられた。

山頂から少し離れた場所にある恵那山々頂小屋。赤い屋根が特徴的。裏にある岩場からは、南アルプス方面とかちょっと展望あるらしいよ


東側の広河原登山口方面から入山。登山口手前の林道途中にゲートがあり、ここから歩いた。駐車場に停まっている車のナンバーは岩手、神戸、姫路と遠いところからの車ばかり。歩き始めてすぐに、タオルを拾った。

林道を30分歩いて登山口に着き、木橋を渡る。針葉樹と広葉樹の森が交互に現われ、足元の笹が増えていく。所々に山頂までの距離を表わす道標が立っている。表示が「山頂まで6/10」のあたりで笹は猛威をふるい始め、背丈を越すほどに。

笹に埋もれながら進んで行くと、ガサリという音とともに、2人の男性が下ってきた。百名山完登をめざす彼らは、岩手と淡路島から来たとか。「すごい遠距離山友なんですね」と言うと、南アルプスの別々の山から転進し、前夜、駐車場で会って一緒に登ったのだとか。

笹原はところどころで深くなり・・・、っていうか埋もれる!


山頂広場には、一等三角点と木のやぐらがあり、タオルの持ち主と黒井沢方面から来た男性がいた。黒井沢からは、ちょっと長くてハードらしい。

頂上台地は広い。登山者には有名な「登ってもやはり見えないやぐら」


山頂は広い台地になっていて、恵那神社本社などの祠が点在し、北西端に小屋がある。静かな小屋でひと休みし、水場を見るために黒井沢方面に向かうと、大分からの3人が登ってきた。その後、山頂広場に戻ると大分グループに再会。彼らも百名山完登をめざしていた。一緒に上ったやぐらから見えたのは、空ばかり。下りてごはんを一緒に食べた。

水場を見に行った時に会った大分グループと、山頂で再会。後日、お手紙で写真を送っていただいた


今回会ったほとんどの人が、百名山完登をめざしていて、下山後はそのままほかの山に移動すると話していた。みんな元気に登れたかなぁ。

展望はなかったけど、久弥は「南アルプスの大観はすばらしかった」と書いている。まだ木が小さかったんかな。下山後、中津川市役所の方に「小屋裏の岩場から南アルプスが見られますよ」と教わった。そこも登ってみたけど・・・。

 

恵那山々頂小屋DATA

所在地: 中央アルプス南部、長野県と岐阜県との境にある、恵那山(2191m)の頂上台地内北西。東側の広河原登山口から3時間30分。峰越林道ゲートから登山口までは30分

収容人数: 10人
管理: 通年無人、無料
水場: 黒井沢登山口方面に10分
トイレ: 別棟にあり
取材日: 2017年8月1日
問合せ先: 中津川市観光センター ☎0573-62-2277

この文章とイラストは橋尾歌子さんの著書『それいけ避難小屋』から紹介しています。実際の書籍では、山行中の様子についても、さらに詳しく・楽しくイラストを掲載して紹介しています。

著者独自のカラーイラストで描かれた間取り図や山行ルポは、写真や図面と違い、小屋の雰囲気まで伝わってきます。東北から四国にかけて実際に訪れた、全51軒の個性あふれる避難小屋を、イラストと共にぜひ楽しんでください。

 

ブックサイト「好書好日」で著者インタビュー掲載されています

朝日新聞の本の情報サイト「好書好日」にインタビューが掲載されました。本の内容の紹介はもちろん、避難小屋に対する思いや想い出、さらには山に対する思いなどが掲載されています。ぜひ、ご覧ください!
⇒インタビュー記事はこちら

 

プロフィール

橋尾歌子

イラストレーター、登山ガイド。多摩美術大学大学院修了。(有)アルパインガイド長谷川事務所勤務、(社)日本アルパイン・ガイド協会勤務を経てフリーに。2004年、パチュンハム(6529m)・ギャンゾンカン(6123m)連続初登頂。(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅢ。UIMLA国際登山リーダー。バーバリアンクラブ所属。

こんな山小屋で一息ついてみたい。“避難小屋”への誘い

悪天候などの非常時に避難・休憩・宿泊するための山小屋が避難小屋(無人小屋)。日本各地の山に、300軒近くあるといわれている避難小屋の中から、個性的な小屋をピックアップして登山ガイドでイラストレーターの橋尾歌子さんが実踏調査。書籍『それいけ避難小屋』『帰ってきた避難小屋』から、カラーイラストとルポで避難小屋の魅力を紹介する。

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