冬本番、備えは大丈夫? 近年の雪山遭難事故の傾向から考える、雪山との付き合い方

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雪山でしか行けない場所、雪山でしか楽しめない登り方――。雪山の世界に足を踏み入れれば登山者の行動範囲は大きく広がる。しかし夏山と比較すれば、そのリスクも大きい。降り積もる雪は、同じに見えても時期や時間によって、その性格やリスクは大きく変わることを知っておこう。

 

長野県大町から見える後立山連峰の山々は、11月になってからは、だんだん白くなってきています。いよいよ冬山シーズンが始まります。

雪を纏った山の美しさに魅せられて、多くの人が雪の山に登ります。そして雪がある山に行けば、登山の世界は大きく広がります。例えば、雪がないと登れないルートもあります。また、アイスクライミングは冬ならではの登り方となります。

その一方で、雪が付くと登山のリスクは大きくなります。登山道は見えなくなったり、凍った登山道が滑ったり、雪が沢山降ると雪崩が起きたりなど、危険は一気に高まるのが雪山です。雪の山には、美しさと多くの危険が同居しているのです。

長野県山岳総合センターでは、2011年から2017年までの7年間に長野県内で起きた“雪のある山での遭難事故”をまとめてみました。すると、7年間で552人の登山者が遭難事故を起こしていることがわかりました。内訳を確認してみると、一番多いのは「滑落」で245人。次に多いのは「道迷い」で76人。3番目は「疲労」で51人。以下「転倒」、「凍死傷」と続きます。

長野県における積雪期登山・登坂の事故の態様別人数(2011~2017、長野県警データを集計)


雪山で遭難事故を起こさないために、注意すべきことは多岐にわたりますが、知っておくべきことの1つに「雪は季節によって変化する」ということです。

初冬の雪は、降っても陽が射すとすぐに融けてしまいますが、日陰では融けた雪が凍っています。また、雪と岩のミックスした登山道では、雪が少なくてもアイゼンを付けたほうがいいかもしれません。

正月を過ぎると、雪の量はしだいに増えてきます。真冬の雪は柔らかいので、深いところではワカンを付けて歩きます。雪の量が一番多くなるのは2月後半から3月にかけてで、登山道はすっかり隠れて標識も見えなくなっているかもしれません。稜線では雪庇が発達します。新雪の斜面に入ると雪崩が起きるかもしれません。

春になって気温が上がってくると、積もった雪は締まって次第に固くなります。雪の時期でないと登れないルートは、アイゼンを付けて登ることができるかもしれません。しかし「滑落」や「転倒」事故が多いのはこの時期です。稜線の雪庇が崩れて雪崩が起きることもあります。

このような雪の変化は、季節だけではなく1日の中でも起きます。朝方の気温が低い時は固く締まっていて、日中は柔らかくなります。また山域によって、雪の量や質は大きく異なります。

雪山登山では、変化する雪の状態に合わせて歩き方やルート取りを変えたり、ピッケルやアイゼンを効果的に使ったりする必要があります。登山道や標識が隠れて見えないことが多いので、コンパス、地図、GPSなどを使って、自分の位置や周囲の地形を正しく認識する必要があります。「滑落」「転倒」や「道迷い」の遭難事故が多いのは、このような能力が不足していることを意味しています。

雪の山は危険が一杯です。雪の無い時期に比べると、体力・知識・技術ともに高いレベルが必要です。今年の冬はどこに登ろうかと、夢を膨らませているあなた、まずは自分の実力に合った山を選んで下さい。また、道具を揃えるだけでなく、使い方の練習も忘れないで下さいね。

 

プロフィール

長野県山岳総合センター

長野県大町市にある長野県立の施設。「安全で楽しい登山」の普及啓発を主目的に、「安全登山講座」と動植物・地形地質をはじめ山の自然を総合的に学べる「野外活動講座」を、年間約60講習開催。講習参加者のうち、長野県外の方が約6割を占める。

⇒長野県山岳総合センター
⇒Youtube

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