登山を前提にした場合のスマホの選び方―― OS、防塵防水、バッテリー、GPS・・・選ぶ基準は?
世の中には各メーカーからたくさんのスマートフォンがリリースされているが、登山アプリをインストールして登山用として使いたいなら、いくつか選ぶポイントがある。新規購入/機種変更を考えている人は、ぜひ参考にしてほしい。
こんにちは、松本です。ジオグラフィカというスマホ用のGPSアプリを開発しています。
★ジオグラフィカ iPhone版
★ジオグラフィカ Android版
今回は、「登山に使うことを前提としたスマホの選び方」を解説します。これからスマホを買う方、すでに持っているけど機種変したいなと思っている方のご参考になれば幸いです。
iPhoneとAndroid
まずは、知ってる人には当たり前すぎるけれど、知らない人はまったく知らない情報から説明します。
スマホには大きく分けて2種類があります。Apple社がシステムと本体を作っている『iPhone』シリーズと、Google社がシステムを作って、本体は様々なメーカーが作っている『Android』です。
5年ほど前はiPhoneと比較すると、Androidは使いにくかったりシステムが不安定だったりしましたが、最近はあまり違いがなくなってきました。
価格はiPhoneの方が少し高めですが、2年落ちくらいの中古なら安く買えますし、最近はAndroidも高価な機種が増えているので、大きな違いはなくなってきました。
どちらが良いかは一概には言えませんが、iPhoneは機種の差異が少ないので、何か分からないことがあったら周りで使っている人に聞けば解決しやすいというメリットがあります。Androidは、メーカーごとにシステムが変更されているため、例えばソニー製と富士通製では設定画面などが全然違っていることもあります。
家族や友人がiPhoneを使っているならiPhone、Androidユーザーが多いならAndroidという選び方でもいいかもしれません。
登山に使うなら防水防塵は必須
登山に電子機器を使う場合、やはり防水防塵は必須です。iPhoneなら7以降、AndroidスマホならSonyのXPERIA、富士通のarrows、シャープのAQUOS、サムスン電子のGalaxyなどが防水防塵です(ただしGalaxyはS6など一部機種は非防水です)。
防塵防水の性能としては「IP67」か「IP68」であれば十分です。なお、IPとは「International Protection」の略で、防塵性能と防水性能を表しています(※下記コラム参照)。仕様表にそのように書いてある機種を選んでください。
防水ではないスマホを登山に使う場合は、ジップロックや専用の防水ケースが必要になります。別途用意してください。
コラム 防水防塵等級の見方
スマホの仕様表を見ると、防水防塵の強さを表す記号として『IP68』とか『IP67』などと書かれています。例えば、iPhoneXSは『IP68』で、iPhone XRやX、8、7は『IP67』です。68や67の意味は、前の数字が防塵性能を表し、後ろの数字が防水性能を表しています。
防塵の『6』は「あらゆる粉塵が内部に侵入しない」ことを表す数字で、たいていの防水防塵スマホは6になっています。
防水の『7』は「水に浸しても壊れない」という意味で、一定の水圧で一定時間水に浸しても大丈夫ということになります。『8』はもう少し防水性が高く、「水没しても壊れない」という意味になり、一般的には『7』の場合よりも水深が深く、長い時間水没させても耐えられるということになっています。
iPhoneの場合は、IP67だと『防塵は万全、最大水深1メートルで最大30分間耐えられる』という意味で、IP68だと『防塵は万全、最大水深2メートルで最大30分間耐えられる』という意味になります。つまり、iPhoneXSはXRやXより少し防水性能が高いことになります。
なお、ややこしいことに防塵性能と防水性能を分けて表記することがあります。例えばこんな表記――。
『防塵(IP6X)、防水(IPX7)』
分ける場合は途中にXが入ります。つまり、
『IP67 = IP6X + IPX7』
ということです。
更にややこしいのですが、『防水(IPX5/8)』というように複数の数字をスラッシュで区切ることがあります。これは防水性能として5と8の試験をパスしているという意味です。
『IPX5/8』の『5』は『あらゆる方向からの噴流に耐えられる』という意味で、沢登り中などの際に滝の水を浴びてもある程度は大丈夫ということになります。8は水没OKという意味ですから、IPX5/8は『噴流にも水没にも耐えられる』という意味になります。
ややこしいですね。よくわからなかった場合は、とりあえず「IP67かIP68を選べばOK」ということだけ覚えておいてください。
コラム2 防水スマホの注意点
防水のスマホと言えど、常に万全に液体による故障を防いでくれるわけではありません。必ず下記の注意点を守ってください。
噴流には注意
防水性能のIPX7やIPX8は、静かに水に沈めて壊れないかどうかという性能です。そのためシャワーや滝などの噴流に当たると水が入ってしまう危険性があります。上記コラムに書いたように、「IPX5/8」となっていない限り、噴流には当てないようにしてください。沢登りをする方は特に注意してください。
石鹸水や油、汗、海水など真水以外に注意
防水性能が保証するのは真水に対しての防水性で、石鹸水や油に対しては対象外になっている場合が多いです。特に『石鹸水対応』と明記していない限り、石鹸や洗剤でスマホを洗うのは避けてください。
また、汗や海水など塩分を含む水は端子の劣化など浸水以外での故障の原因となります。『海水対応』となっていない限り出来るだけ付けないようにしましょう。
充電時に注意
防水スマホと言っても、充電中は防水になっていない場所を電気が流れるため、濡らすと危険です。お風呂でスマホを充電しながら使っていて感電死するニュースを耳にしますが、起きうることです。水濡れの可能性がある状況では充電しないようにしてください。
また、スマホが濡れた後は充電コネクタの中に水が入っていないか確認してから充電しましょう。
画面が割れたら防水性能も無くなります
当然と言えば当然ですが、画面が割れたスマホは防水ではなくなるので絶対に水没させないでください。もちろん、出来るだけ早く直すことをお勧めします。
画面修理やバッテリー交換後は防水を保証されない
防水防塵のスマホはパッキンや防水テープなどで隙間をふさいでいますが、修理する人のスキルによっては防水処理を正確に行えず(または行わず)、修理後に水没させたら壊れてしまったというケースがあります。防水処理まできちんと行ってくれるかどうかは、修理店のスキルによるので事前に確認してください。
メーカーは水没を保証しない!
「仕様で防水防塵と書いておきながら何だよ」って感じもしますが、スマホが浸水で故障してもメーカー保障の対象外となります。そのため、防水防塵のスマホと言えども、むやみやたらと水没させたり、安易に水の中に入れるのは避けたほうがいいでしょう。
バッテリーは本体が大きい方が大容量
スマホのバッテリー容量は様々ですが、基本的には本体が大きいスマホほど大きいバッテリーが入っています。“超”大雑把に比較すると、画面サイズが5インチ未満のスマホで1,500~2,000mAh程度、5インチを越えると3000mAh程度の容量となります(例外もあります)。
以前、本連載でも触れましたが、スマホを機内モードにして登山用のアプリでログ(歩いた軌跡)を記録すると、1時間におよそ100mAh程度のバッテリーを消費します。2,000mAhのスマホなら20時間、3,000mAhなら30時間もつ計算となります。
★スマートフォンのバッテリー問題を知れば、電池残量を気にせず使える!
バッテリーは長くもった方がいいと思いがちですが、バッテリーが大きいスマホは本体が大きくて重いという欠点にもなります。重量とバッテリー持続時間を比較しながら選んでください。
GPS精度はiPhoneに分があります
登山用に使うのであればGPSの精度(正確さ)も重要です。どのスマホのGPS精度が高いかというと、以下の通りになります
- iPhone全般は高精度
- Androidは新しくて価格が高い方が高精度
精度を求めるなら、iPhoneもしくは新しくて高価格のAndroidを選びましょう。身もふたもない話ですが、安くて古いAndroidスマホのGPS精度はイマイチです。
おすすめのスマホの選び方
さて、最終的にどんな機種が登山には向いているのでしょうか? これは何を重視するかで選ぶ機種が変わります。以下に重視すべき特徴を挙げましたので、ご自身で何を重視するかで決めてください。
GPS精度重視なら
iPhone7、8など7以降のiPhoneシリーズが良いでしょう。iPhoneは価格が高いのですが、7や8など少し古い機種の中古なら安く手に入ります。
バッテリーのもちを重視なら
XPERIAシリーズ、arrowsシリーズ、AQUOSシリーズなどのAndroidスマホはバッテリー容量が大きいです。またはiPhoneX、XS、Plusシリーズなどの大きなiPhoneも大容量バッテリーを搭載しています。
寒さに強いスマホなら
iPhoneと比べるとAndroidスマホの方が寒さに強いので、雪山での使用を考えるのであればAndroidの防水防塵機種を選んでください。ただし最近のiPhoneは-15℃くらいの雪山なら問題なく使えています(雪山対応は次回に紹介します)。
ズバリ! 選んではいけない機種
逆に、(登山での使用には)おすすめしない、あるいは買ってはいけないスマホというのもあります。
古くて安すぎるスマホ
特に旧型のAndroidスマホに言えることですが、古すぎるスマホはバッテリーのもちが悪かったりGPS精度が低かったりシステムが不安定だったりします。最低限2014年以降発売の機種を選んでください。
電子コンパスが無い機種
電子コンパスが無いと自分が向いている方向が分かりにくくなります。iPhoneシリーズはすべて電子コンパス搭載ですが、Androidスマホには稀に非搭載の機種があります。購入前にスペックを確認してください。
らくらくスマートフォン1~3
古い、らくらくスマートフォンは自分でアプリをインストールすることが出来ません。登山用のアプリも入れられないので、中古で安くても買ってはダメです。
ASUS Zenfone2
特定の機種を名指しするのは躊躇しますが・・・、Zenfone2はGPS精度とても悪いので、どんなに安くても登山用には「買っちゃダメ」な機種です。なお、最近のZenfoneはGPS精度が良くなったそうです。
Android7.0以上のHUAWEIのスマホ
Android7.0以上を搭載したHUAWEIのスマホはバックグラウンドで動作するアプリの動作を阻害します。そのためトラックログを正しく記録できないことが頻発します(設定を変更することで改善はします)。もちろん、ログを取らないのであれば気にしなくても構いません。また、HUAWEIのスマホはAndroidスマホの中では寒さに弱いという弱点もあり、登山で使うには適していません。
■今回のまとめ
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簡単に言うと、新しめの防水防塵機種を選んでおけば登山用アプリを入れてGPS端末などとして使うことが可能です。GPS精度やバッテリーのもちに多少の違いはありますが、以前ほど大きくは違いません。
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あとはデザインや色、持った感じの好みの問題。売り場で見て触って、気に入ったスマホを買ってください。手に持った感じはとても重要です。
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もし、ここまで読んでも決められない方はiPhone7か8を選んでください(自己責任ですよ)。多分後悔はしないと思います。バッテリーは2000mAh弱と小さめですがモバイルバッテリーを持てばカバーできます。
プロフィール
松本 圭司
アプリ作家、ライター、料理研究家などマルチに活躍する山好き。江戸川区在住。
アプリの代表作「ジオグラフィカ」は多くの登山者に利用され、GPSアプリに関する講演・講習なども行う。
ほか、国土マップR、アルパカナビ、速攻乗換案内、雨かしら?雨時雨などもリリースする。クリーン&ビルド株式会社所属。
山で便利・安心! 登山用アプリ&GPS徹底使いこなし術
かつては高価で手の届かなかったGPS機器は、スマートフォンの普及・登場以来、誰もが使えるものになった――。初心者向けのノウハウから、GPSの裏技まで、登山アプリとスマホGPSを120%使いこなし術を解説します!