かわいい顔だが「肉食系」のモズ。「はやにえ」は早口で歌うために欠かせない行動だった!

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都市部でもよく姿を見かける野鳥、モズ(百舌鳥)。「はやにえ」と呼ばれる、木の枝などに獲物を刺す行動で知られるが、この行動はなぜ行われているのだろうか? その研究の行方が注目されている。

 

こんにちは。NPO法人バードリサーチの高木憲太郎です。この記事では毎回、登山の際に出会える鳥を紹介していますが、今回はちょっと脱線して山に登らなくても出会える鳥に目を向けてみようと思います。

今回、ご紹介する鳥は、農耕地や高原など、ちょっとした薮のある開けた環境で繁殖する『モズ』です。高鳴きと呼ばれる特徴的な声、尾羽をくるくると回しながら鳴いている姿を見たことがある方もいると思います。秋から冬にかけては、都市部のちょっとした草地にもなわばりを構えることがあり、この連載で取り上げる鳥の中では特に身近な鳥です。

★前回記事:「さえずりの違い」で新種発見! メボソムシクイの秘密

この鳥、丸っこい頭でかわいい顔をしていますが、男子も女子も肉食系。太く丈夫で鋭くとがった嘴がとっても危険です。そんなモズの冬の食物事情にフォーカスしてみましょう。


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モズの雄(写真=渡辺美郎)
モズ

全長: 約20cm(スズメよりも大きい)
外見: 雄は頭部が褐色で背面が灰色、尾羽と翼は黒褐色。太く黒い過眼線があり、体側面は橙色、下面は淡褐色。雌は全体的にコントラストが弱く褐色で、体下面は褐色の横縞がある。

※モズの鳴き声は、バードリサーチの“さえずりナビ”の解説ページからどうぞ。

 

秋に単独でなわばりを構えるモズ

モズは名前を漢字で書くと「百舌鳥」と書き、その早口のさえずりの中に多種多様な鳥のさえずりを組み込んで複雑に鳴く力を持っています。彼らの繁殖において、雌を惹きつけるさえずりには重要な役割がありそうです。秋になると雄も雌も別々に1羽でなわばりを持ち、「キィー、キィ、キッ、キッ、キチキチ・・・」などと甲高い声で鳴いて、なわばりを主張します。この声が「高鳴き」と呼ばれているものです。

モズには太くて鋭い嘴(くちばし)があり、バッタなどの昆虫、トカゲやカエル、小鳥などの小動物を捕まえて食べる捕食者です。秋には豊富にいるこうした小動物も、冬になれば少なくなってしまいます。冬のあいだ単独でなわばりを構えるのは、少ない食物資源をしっかり確保するためなのでしょう。

冬を越すあいだは、なわばりの中に侵入してきたのが、例え異性だったとしても、追い出しにかかると言います。冬に水面に浮かぶカモの仲間が2羽ずつ寄り添うように行動しているのとは、大違いです。

モズの生息環境(写真=西田有佑)

 

早口で歌えるオトコはモテる?

モズの冬のなわばりには、しばしば、カエルやバッタなどの小動物の「ひもの」が出現します。これはモズの仕業です。彼らは捕えた獲物を木の枝先や有刺鉄線に刺して、ときには数ヶ月間そのまま放置することがあるのです。これは「はやにえ」と呼ばれるモズ科特有の行動です。いったい、なぜ、こんなことをするのでしょうか?とても興味深いテーマに取り組んでいる研究者が、西田有佑さんです。

西田さんは当初、モズの雄のさえずりに着目して研究をしていました。モズの雄は繁殖期になると、盛んにさえずるようになります。雄のさえずりは短い音が連続して組み合わさることで構成されており、雄は平均して1秒間に7個もの音を発することができるそうです。

調査を続ける中で、1秒間に5個ぐらいしか発することができない個体がいる一方、10個以上発する早口な個体までいることに西田さんは気がついたのです。私は、早口で歌うモズとそうではないモズがいるなんて、感じたこともありませんでした。さえずりの早さに意味があるとひらめいたところに、毎日のように野外で鳥と向き合っている研究者だけが得られる独特のセンスが活きているように思います。

モズのさえずりのソナグラム.単位時間当たりの音の数で早口の程度を数値化した。この1.2秒ほどのソナグラムには、13の音が含まれている(図提供=西田有佑)


西田さんは観察を6年間続けた結果、早口で歌っている雄のモズは、春の繁殖期になると早く雌とつがいになれる(雌にモテるから、つがい形成が早い)ことを見つけました。さらに、モズの雄を捕獲して体重を量ってみると、早口で歌っていた雄ほど十分な栄養が取れている個体であることも発見しました。つまり、モズでは、栄養状態が良く早口でさえずる雄ほど、雌にモテるということがわかったのです。

ここでひとつの疑問が生じます。モズのほとんどの個体は、つがい形成を2月下旬ごろまでに完了します。寒い冬がようやく終わりに近づき、春の兆しが見え始めたばかりの頃です。彼らのなわばりの中の食物も少なくなっていることでしょう。そんな中で雄たちが痩せずにコンディションを維持できたのは、なぜでしょうか? そこで、西田さんが着目したのが、「はやにえ」でした。

 

早口で歌うために欠かせない「はやにえ」

西田さんは、雄のなわばり内の「はやにえ」を地道に数え、2000個以上のはやにえをモニタリングしつづけました。すると、「はやにえ」の数は秋から冬にかけて増加し、冬から春にかけて減少することがわかりました。これは、モズの雄は食物が不足する冬を乗り切るために、秋に貯えた「はやにえ」を食べていると考えられます。

しかし、ここから西田さんはさらに一歩先を考えました。「はやにえ」を多く食べ、冬にコンディションを崩さずに繁殖期をむかえられた雄は、早口にさえずることが可能になり、その結果、雌の心をつかめるのではないか。つまり「はやにえ」には、単に空腹を回避するためだけではなく、自分の(さえずりの)魅力を高め、子孫を多く残すためという側面も持っているのではないか、というのです。

モズのはやにえ(写真=西田有佑)


西田さんは、この仮説を検証するため、雄のモズのなわばりを調べて、その中の「はやにえ」の数をかぞえてまわったり、なわばりの中の「はやにえ」の数を人為的に変えたりする実験を試みました。

その研究成果は、今、まさに、論文としてまとめているところです。そのため、詳しいことはご紹介できないのですが、西田さんの研究によって、「はやにえ」を多く食べることができたオスほど、早口でさえずれるようになり、そのようなオスほどメスにモテることがわかったのです。

秋からなわばりを構えること、「高鳴き」に「はやにえ」、春に雌の心をつかむこと、モズのこれらの行動には、すべて意味があり、そして、つながっているとは驚きです。この冬にモズに出会うことがありましたら、小さな体に詰まった不思議に思いを馳せながら、しばらく観察してみてください。ひょっとしたら、獲物を捕らえて「はやにえ」を作る瞬間を目撃できるかもしれません。

プロフィール

高木 憲太郎

NPO法人バードリサーチ研究員。全国の会員と共に鳥の生息状況の調査(最近はホシガラス)を行なっているほか、人と軋轢のある鳥の問題解決に取り組む。
 ⇒NPO法人バードリサーチ

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