海外トレッキング初心者におすすめ! スイス・グリンデルワルト:トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」(10)

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旅と組み合わせて気軽に楽しめる世界のトレイルを紹介する連載「世界のトレイルを巡る旅」。トレッキングをテーマに300日間で世界一周旅行をした山野夫婦が、訪れた五大陸50超のトレイルからおすすめの場所を振り返る。第10回目は、まるで絵葉書の世界に飛び込んだかのような山村風景が広がるスイス・グリンデルワルト。ヨーロッパアルプスの名峰アイガーが鎮座するスイスの代表的な山岳リゾートだ。縦横無尽に張り巡らされたハイキングコースの中から僕らが歩いた2つのコースを紹介する。

 

圧倒的迫力のユングフラウ三山

2016年7月27日(世界一周106日目)

ツール・ド・モンブランを歩き終えた僕らは、フランス・シャモニーから、スイス・グリンデルワルトへ向かった。

グリンデルワルトは、アルプスの名峰アイガーの麓にある山岳リゾート。『アルプスの少女ハイジ』の世界さながらの美しい山村風景が広がる。夏はトレッキング、冬はウィンタースポーツを目的にたくさんの旅行者が集まる村だ。

スイスに入ってからは雨混じりの天気でスッキリと晴れる日が無く、キャンプサイトから眺めるアイガーも雲に隠れている日が多かった。いくつかのルートを歩きに行ったが、ガスがかかり眺望が無かったり、雷雨に見舞われ撤退したりと、消化不良が続いていた。

ようやく天気が回復しはじめたこの日、ユングフラウ、メンヒ、アイガーを眺める抜群の眺望が楽しめるという、シルトホルン方面にトレッキングに出かけた。

アイガー北壁とグリンデルワルトの村


グリンデルワルトからラウターブルンネンまで列車に乗り、ラウターブルンネンからシュテッヘルベルクまではバスで移動。そこからトレッキングのスタート地点のビルクまでロープウェイを乗り継いでいく。今日は高いところまで一気に上がり、景色を眺めながら下り続けるトレッキングコースだ(尚、このロープウェイはさらに上、標高2970mのシルトホルン山頂直下の展望台まで続いており、僕ら以外のほとんどの乗客はそこまで上がっていった)。

グリンデルワルトから列車で移動、交通機関は充実している


ロープウェイからは途中まで晴れてユングフラウ三山を綺麗に眺めることができたが、ビルク手前でガスがかかりはじめ、ビルクの展望デッキからは残念ながら視界ゼロとなってしまった。
僕らはガスで真っ白なトレイルを歩きはじめた。まずはシルトホルンヒュッテを目指して歩く。しばらくは道幅の広いガレたトレイル。冬場は気持ち良いゲレンデに変わるのだろう。

シルトホルンヒュッテからはミューレン方面の案内に沿って下りていく。しばらく行くと、徐々にガスが晴れはじめ、正面にユングフラウ三山の姿が見え隠れしはじめた。真正面に見る4000m級の山塊はものすごい迫力だ。

まだ所々に雪が残る。冬はこの辺りはゲレンデだ

正面にユングフラウ三山、僕らの視界を覆い尽くす


急傾斜の道を下り続け、羊の放牧エリアを抜けるとアルメントフーベルという場所に着く。ここから引き続き歩いてミューレンまで下りることも、ケーブルカーを利用して下りることも可能だが、僕らはまだ歩き足りなかったため、ここからグリュッチアルプまで、マウンテンビュートレイルと名付けられたトラバース道を歩くことにした。

このトレイルが最高だった。

適度に緩やかなアップダウンのあるトレッキングコースらしいトレイルで、右手にはユングフラウ三山の絶景と、ラウターブルンネンの谷を挟んで向こう側にヴェンゲンの村、足元にはたくさんの花を眺めながら、気分良く歩くことができるのだ。

マウンテンビュートレイル、僕らのお気に入りのトレイルだ


アップダウンを繰り返しながらゆっくりと標高を下げていき、谷を挟んで向こう側に見えるヴェンゲンの村が大きく近づいてくると、間も無くグリュッチアルプだ。ここからロープウェイを使って谷底のラウターブルンネンまで下りる。

ここ数日、あまり歩くことができず消化不良気味だったが、今日は天気にも恵まれ、気持ち良くトレイルを歩いた僕らは、満足感に包まれてグリンデルワルトのキャンプサイトに戻った。

 

アイガー北壁を眺めながらのチーズフォンデュ

2016年7月28日(世界一周107日目)

物価の高いスイスだが、スーパーのプライベートブランドの商品を中心に自炊すれば、そこそこの値段で美味しいご飯を食べることができる。

僕らがスイスでぜひ作ってみたかったのはチーズフォンデュだ。2〜3種類のチーズに白ワインや香辛料を加えて、鍋で溶かせば出来上がるので、実はキャンプごはんや山ごはんとしてもお手軽。

材料は、まずはチーズ。グリンデルワルトのコープには、日本よりも安くてたくさん入ったチーズがいろいろ売られている。もちろんスイス製。エメンタールやグリュイエールなどチーズフォンデュによく使うチーズや、何種類かがチーズフォンデュ用としてミックスされたものなど、いろいろある。好きなチーズをいくつか選んでオリジナルのブレンドにしてもいいだろう。

アイガーミルクという地元の牛乳もおすすめ


白ワインもせっかくなのでスイスのものをチョイス。スイスは実は隠れたワイン大国で一人当たりの年間消費量も多い。しかしその大半がスイス国内で消費されてしまうため、国外には輸出されず、日本ではあまりお目にかかれないのだとか。スーパーでは手頃な値段のものもたくさん並んでいた。

チーズに絡める食材として、プライベートブランドのソーセージや、安く手に入りやすいジャガイモをメインに、パンや野菜を用意すれば準備万端。

コッヘルで我流で作ったチーズフォンデュだが、青いふかふかの芝生の上で、アイガー北壁を眺めながらの大満足ディナーになった。

お手軽チーズフォンデュの出来上がり

夕日に染まるアイガー

 

これぞスイス、これぞ天空のトレイル

2016年7月29日(世界一周108日目)

グリンデルワルト滞在最終日。朝から気持ち良い青空が広がっていた。この日はグリンデルワルトの北側をフィルストからファウルホルンを経由し、シーニゲプラッテまでを歩く約15kmのコースを歩いた。

標高2166mのフィルストまでロープウェイを利用し、一気に登る。

フィルスト展望台にあるクリフ・ウォーク、スリル満点のスポット


フィルストから、美しい湖バッハアルプスゼーまでは、綺麗に整備されたハイキングコース。ヴェッターホルンやアイガーの山々、眼下にはグリンデルワルトの村が見下ろせる大パノラマが広がる。標高が上がるに連れ、シュレックホルンやフィンスターアールホルンの鋭く美しい姿も綺麗に眺められるようになる。

バッハアルプスゼーから1時間半ほどで、ファウルホルン山頂だ。標高2681m。ここは360度の眺望で、アイガー、メンヒ、ユングフラウの雄大な姿と、その反対側にはエメラルドグリーンに輝くブリエンツ湖を見下ろせる。

バッハアルプスゼーと雲に覆われたフィンスターアールホルン

ファウルホルン山頂の山小屋に併設された絶景レストラン


ここまでの景色も十分絶景だったが、ファウルホルンから先、シーニゲプラッテまでのトレイルが、素晴らしいルートだった。

ここからしばらくは稜線歩きとなり、右も左も景色が開け、程よく雲が広がっていることから、まるで天空を歩いているような気持ちになる。お花畑や小さな雪渓があったり、ダイナミックな地層が広がるところがあったりと、変化に富んだトレイルだ。

お花畑が広がる楽園のような場所だ


メンドレーネン小屋から先は稜線の北側を歩くため、ユングフラウ方面の眺望は無くなるが、代わりに氷河地形のモレーン(※)を歩くことになる。雰囲気がガラッと変わり、どこか別のエリアの山に来たかのようだ。モレーン地帯を過ぎると左手にカール地形の谷が広がり、再びユングフラウ方面の山々が顔を覗かせる。

想像以上に変化に富んだトレイルだった


今日のゴール、シーニゲプラッテが見えてからのトレイルは南側が谷になったトラバース道のため、しばらく北側の眺望は無かったのだが、途中から、北側が切れ落ちた絶壁の稜線歩きのトレイルを選択できる。絶壁直下にプリエンツ湖とインターラーケンの街を見下ろすことができ、最後の最後まで絶景を楽しませてくれた。

プリエンツ湖とインターラーケンの街

※モレーン=氷河に運ばれてきた岩、石、砂などがつくる防波状あるいは不規則な高まりからなる堆積地形(『実用 登山用語データブック』より)

海外トレッキングビギナーにやさしいトレイル

グリンデルワルトは往年のスイスアルプスの観光地といった感じで、交通機関、宿泊施設、レストラン、展望台が数多くあり、誰でも気軽にスイスの山村風景と雄大な山々を楽しむことができます。訪れる人も、トレッキング客よりも普通の観光客の方が圧倒的に多かったです。初心者向けのコースは誰でも気軽に歩けるように綺麗に整備されています。2時間ほどで歩けるコースも多く、海外トレッキング初心者に大変やさしい場所です。トレッキングメインでがっつり歩きたい人や、人の少ないところで静かに山を楽しみたい人は、もしかしたら他のエリアのほうが良いかもしれません。

一方、メリットとしては、標高2000m付近まで登山鉄道やロープウェイで一気にアクセスできるところでしょう。通常、このくらいの標高に上がるためには、それなりの時間と体力が必要で、1泊2日以上の山行となる場合がほとんどです。それをショートカットし、日帰りで終日標高2000m以上の好展望ルートを楽しめるのは大きな魅力です。僕らがグリンデルワルト滞在最終日に歩いたフィルストからシーニゲプラッテのルートは、日本でいうと北アルプスの表銀座縦走ルートみたいなところで、これを日帰りで楽しめてしまうと言えば、登山愛好家の方にはわかりやすいかもしれません。

スイス・グリンデルワルトでのトレッキングに関する準備やアクセス、ルート、気候や装備については、トレイルトラベラーズのブログにもまとめていますので、よろしければご覧ください。

 

プロフィール

Trail Travelers 山野尚大・優子

山と旅の愛好家。経営コンサルタントとして平日の激務と休日の山ごもりを両立させる日々から、結婚を機に心機一転、夫婦で絶景トレイルを巡る世界一周の旅に出発。2016年4月からの300日間で、五大陸の50超のトレイルを歩く。「Trail Travelers(トレイルトラベラーズ)」を立ち上げ、旅行と組み合わせたトレッキングの楽しみ方を発信中。
【ブログ】
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トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」

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