山で「上手く」歩くってどういうこと? 理論がわかれば山の歩き方が変わる!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方と密接に結びついている。歩き方を頭で理解して見つめ直し、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術を身につけよう! 本連載では、写真・動画を交えて歩き方を論理的に解説していきます。


皆さんこんにちは、登山ガイドの野中径隆です。ガイドとして活動しながら、少人数制で歩き方の講習会を定期的に開催しています。

今回の連載では、講習会でお伝えしている「疲れにくい」「トラブルを防ぐ」歩行技術を写真・動画と一緒に解説していきますので、どうぞよろしくお願いします。

実は私、もともと運動神経は良い方ではないうえに、体力にも自信がありませんでした。登山を続けていく中で、自分自身の弱点を克服しようと、ガイドや先輩のアドバイスを参考にしたり、歩き方を見てこっそり真似たりしながら、自分自身の歩き方を作り上げてきました。登山歴20年、ガイド歴10年が経ちますが、今でも自分の歩き方の悪い癖が新たに見つかることもあり、歩行技術は奥が深いと感じています。

登山の世界では、上手に歩くためにどのように体を動かせばいいのか、どのような姿勢(フォーム)が理想的かなどの運動理論が、ほかのスポーツ分野ほど明確になっていないと感じています。

同じ山で行う運動でも、例えばスキーで滑ったり岩壁を登ったりする動作と比較すると、歩くという動作はあまりにも日常的過ぎて、細かく分析される機会が少ないと考えています。その一方で、歩かなければ登山は出来ませんので、「どのように歩くか」は実は最重要なテーマです。

本連載では、出来る限り「私はこう歩いている」という主観的な解説にならないように注意しながら、「どのように歩くと効率がいいのか?」「トラブルを防げるのか?」を理論的に紹介していきます。

上手く歩けば「足ツリ」や「膝痛」は減る!

第1回となる今回は、上手く歩くことについて説明します。

皆さんは登山中に「足攣り(つり)」や「膝痛」などのトラブルを、一度は経験されていると思います。こうした何らかの痛みが起こることは、体の特定箇所に強い負荷が掛かっている証拠です。そして、山歩きの中で継続的にトラブルが起こり続ける人は、効率の悪い体の動きや、偏った歩き方の癖が原因で負荷の集中を起こしています。

また、痛みなどの症状が出なくても、筋肉痛になる部分はいつも同じという人もいるでしょう。特定箇所に負荷が集中することを防げれば、筋肉の疲労度も軽減され、より快適な登山が出来ます。

このようなトラブルを予防して、疲れにくい歩き方をするにはどうすればいいのでしょうか? 負荷が集中する場所は個々に異なるので、その原因も様々です。そこで、まずは理想的な「歩き方」を理解すること、そして、それとは異なる自分自身の癖や弱点を見つけ、なぜ負荷が集中しているのかを把握していきましょう。

長い縦走でも疲れにくい体を目指したい(北岳に続く稜線にて)

さて、今回の本題でもある「上手く歩く」とはどういう状態でしょう。わかりやすく簡潔に答えると、「バランスを上手に保って歩けている状態」と考えています。

人は歩く時に必ず片足立ちで体重を支えます。この時にバランスを保つのが不得意な人は片足立ちが上手に出来ずに、足を運ぶペースが自然に速くなり、必要以上に筋力を使ってしまいます。こうした積み重ねが長時間続くことで、筋肉疲労や痛みトラブルの原因になるのです。反対に、バランスを保つのが得意な人は筋力の負荷を最低限に留めて、安定したペースで歩くことが出来ます。

もし、筋力や心肺機能が同程度で、バランスを保つのが得意な人と不得意な人がいた場合、なだらかで整備された登山道を歩く分にはその差はほとんど表れません。ただし、大きな段差や急斜面を登り・下りする登山道になると、その差が筋肉疲労や痛みトラブルの発生に大きく影響してくるのです。

平坦地を歩くだけでは一歩一歩の動きが早いため、片足立ち状態の時間は短めですが、大きな段差を登り・下りしている時は、片足立ちの時間が長くなります。

この「片足だけが接地していて、片足で全身の体重を支えている」タイミングで、重心がどこにあるのが最適でしょうか? 実は、この重心位置の差が、バランスを保つのが得意か不得意かに直結しています。

Check! 片足立ち・ゆっくり登り下りテスト

そこで、登り・下りで「バランスを保って歩く」方法を具体的に説明します。まずは下の写真を確認してください。直立時の身体重心は、骨盤の中央に位置する仙骨(せんこつ・骨盤の上方後部の骨)のやや前の部分にあります(下写真参照)。自分のお尻を触ってみると分かりますが、尾骨の真上にある、平らになっている骨が仙骨です。

身体の重心(仙骨)が、軸足の真上にあることを確認

登山時はザックが背中にあるため、荷物の重さの分だけ身体の重心は後ろに変わるので、登山時は仙骨に身体重心があると考えると分かりやすいと思います。接地面の真上の範囲内に頭部や上半身だけでなく、仙骨も収まっていると、軸足に上手く重心が乗っている状態となります。

そこで、次回山を登られる際など、適度な段差を見つけて、「片足立ち・ゆっくり登り下りテスト」をやってみてください。

段差を登る際に、より長く、ゆっくり片足立ち出来る姿勢が、重心が上手く乗っている状態です。重心が乗っていないと片足立ちが困難になるので、ゆっくりと段差を登り下りすることが出来ません。これが意外と難しく、段差が大きくなればなるほど大変になります。

普段利用している階段よりも少し高さがある段差の方が、テストに向いていますので、そのような場所を見つけて試してみて頂ければと思います。

次回以降は、この重心の動かし方、体の動かし方を詳しく解説していきます。今後も写真と動画を加えて出来る限り分かりやすくお伝えしていきますが、分かりにくかったことやご質問がありましたら是非ともメッセ―ジをお寄せ頂ければと思っています。

なお「山の歩き方講習会」は定期的に開催しています。詳しくはホームページをご覧ください。

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方の密接に結びついている。 あるき方を頭で理解して見つめ直せば、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術に近づいていく。本連載では、写真・動画と一緒に、歩き方を論理的に解説。

編集部おすすめ記事