自分の実力を客観的に把握して、綿密な計画・準備を行い、的確な行動が求められる「単独行」。しかし、慎重な行動を行っていても、思わぬ「ヒヤリハット」が待ち受ける。単独行をふだん行っている登山者の、ヒヤリハット体験の一部を紹介する。
『山と溪谷』2019年2月号の特集のために、ヤマケイオンライン上で行った、遭難・ヒヤリハットの読者アンケート。本アンケートに協力してくれたのは、普段から単独行をよく行なうという登山者1498人となった。
このうち、遭難やヒヤリハットを体験したことがあると回答したのは809人(約54%)。半数以上の人が単独行でのトラブルを経験しているようだ。
投稿いただいたヒヤリハットを分析すると、圧倒的に多いのは「道迷い」。次に「転倒・滑落」「ケガ」「装備の不備・紛失」「到着遅れ」「天候の急変」などが並んだ。
そこで今回は、「私の遭難・ヒヤリハット体験」から一部を抜粋して紹介しよう。
[カテゴリー:道迷い]
中央アルプスの木曽駒ヶ岳から安平路山(あんぺいじやま)へ縦走した際、奥念丈岳の先で背丈以上のササヤブに捕まり、進むべき方向もわからなくなってビバークした。翌日引き返そうとしたが、踏み跡を外し完全に身動きできなくなった。スマホのバッテリーや水も少なくなり、パニックに。110番通報し、ヘリで救助された。(60代男性)
[カテゴリー:道迷い]
西上州の裏妙義を登山中に道を間違えた。崖の上から人の声が聞こえたので登ろうとしたら転落。体が2回転して木の根元に股が挟まり九死に一生を得た。(50代男性)
[カテゴリー:転倒・滑落]
北アルプス・有明山の急坂を下山中、濡れた落ち葉で足元が滑り転倒。岩にぶつかり額から大量出血した。タオルで止血を試みるも、本当に血が止まったのかわからず不安だった。そのまま自力で下山したが、頭蓋底骨折で即入院。一人では傷の状態もわからず、単独行の危うさを知った。(50代男性)
[カテゴリー:転倒・滑落]
ヤブこぎで足が滑り、沢筋に約50m滑落。必死の思いでササをつかんで停止するも、両手に深い擦過傷を負う。手袋をつけても血でササが滑って登り返せず、上流側の岩場を登り、途中でビバーク。翌日、3時間かけて稜線に復帰した。(50代男性)
[カテゴリー:装備の不備]
8月下旬、水を500㎖しか持たずに丹沢・大倉尾根に出かけた。途中、当てにしていた茶屋が休業で水を補給できず、そのまま塔ノ岳をめざしたが脱水に。両脚が痙攣して仰向けに倒れてしまった。救助要請する直前に登山者が通りかかり、水をもらった。謝礼は受け取ってもらえず、「今度はあなたが誰かを助けてあげてください」の言葉。自らの行動を反省した。(50代男性)
[カテゴリー:野生動物]
スズメバチにあごを刺され、猛烈な痛みと血圧低下を感じた。ポイズンリムーバーの使い方がわからず、また刺し傷が見えないためなかなか毒を吸い出せない。ようやく毒が出たときには心底安堵した。下山後、検査でハチアレルギーと判明した。(40代女性)
[カテゴリー:天候急変]
10月、北アルプスの鹿島槍ヶ岳から五竜岳縦走の際、八峰キレットで粉雪が舞い、三段紅葉に浮かれていたら吹雪に。登山経験も装備も未熟。岩のペンキ印が見えず、危険な岩稜地帯でうろうろ。あとから来た男性に励まされ、一緒に五竜山荘までたどり着いた。二つ玉低気圧により北ア稜線で8人が亡くなったと下山後に知った。(70代男性)
今回紹介したのは、山と溪谷・2019年2月号の特集「リスクに備える単独行の登山術」より、一般登山者の遭難・ヒヤリハット体験の一部を取り上げたものだ。
登山経験や技術に差があれど、どれもちょっとしたミスがトラブルに引き金になっている。あなたも共感できるエピソードがあったのではないだろうか。
2月号ではこういった単独行のリスクを減らし、万一に備えるためのテクニックを紹介している。一般登山者の体験談も自分の登山の参考になるので、ぜひ読んでほしい。
山と溪谷編集部
20年前までは否定されてきた単独行はもはや時代の主流である。しかし遭難で窮地に陥る危険は単独行が圧倒的に高い。
己の経験と体力、登る山の難易度を客観的にとらえ、どこにリスクが潜んでいるのか、いざとなったらどう対処するのか。
これを読まず、知らずして単独行をすることなかれ。単独行者必読の特集。