バランス感覚の強化の前に――、足底の機能改善・歪みの解消を意識しよう!

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バランス感覚は登山において重要なポイントの1つ。その強化方法の前に、まずはバランス感覚が大切な理由をしっかり理解し、自分自身のバランス能力のチェックを行ってみよう。

 

山登りに向けた体力づくりトレーニングを指導していると、「すぐにバテてしまうので持久力をつけたい」、「太ももが攣ってしまうので筋力をつけたい」、「膝が痛くなるのでフォームを改善したい」といった相談を受けることがあります。

皆さんが抱えているこれらのお悩みは、もしかすると自宅でテレビを観ながら楽に改善できるかもしれません。そんな魔法のようなトレーニングが「バランス感覚の強化」です。

バランス感覚と聞くと、単に「転倒を防ぐ」だけの体力要素だと考えている人も多いでしょう。エクササイズをご紹介する前に、今回は登山とバランス感覚、そして強化すべきポイントについて考えてみたいと思います。

 

開眼/閉眼片足立ちでバランス感覚をチェック

まずはバランス感覚のチェックです。しっかりと目を開けたまま、腰に手を当て片足立ちになる「開眼(かいがん)片足立ち」を行ってください。両脚とも120秒間キープすることができるでしょうか?


簡単にできたという人は、今度は両眼を閉じて「閉眼(へいがん)片足立ち」を行ってください。目を開けている時に比べ、かなりグラグラと感じると思います。120秒間キープでできない人も多いと思います。

これによって、バランス感覚には「視覚」が大きく影響しているということが分かります。夜の山行や、雪山のホワイトアウトが危険なのはもちろんですが、もともと山は斜面になっているため、視覚による水平が保ちにくい環境です。登山では「視覚」だけに頼らないバランス感覚を身につける必要があります。

 

支持基底面を意識する

視覚に依存しないバランス感覚を身につけるために、まず大切なことは「足底の機能改善」です。

試しにトレッキングポールを持って「閉眼片足立ち」を行なってみましょう。簡単に120秒キープできる人も多いと思います。これは支持基底面(地面からの圧力を感じ取る点の内側の面積)が広がり、その中に重心を置きやすいからです。

重心を支持基底面の外側にはみ出さないようにすることが、体を安定させる秘訣


片足立ちの場合は支持基底面が片足のサイズだけになってしまうので、トレッキングポールを使用した時よりもバランスをとりづらくなります。そのため、拇指球、小指球、踵にかかる地面からの圧力をしっかりと感じること、メカノレセプター(足底のセンサー機能)を研ぎ澄ませることが重要な課題になります。

★参照:歩き方のクセは、足の裏から改善できる。足の裏をリセットしてケガや転倒を防ごう!

 

体の歪み・痛みを解消させる

片足立ちをするには、軸になる足の上に重心を移動させることになります。体に歪み・痛みなどがあると、きちんと重心を移動したように見えても、代償動作(本来の動作に必要な機能以外の機能で補う動作)が働きます。

片足立ちをキープした時に左右で差がある人は、体に歪みがあり代償動作をしている可能性もあります。この歪みを放置したままでは、いくら歩行フォームを改善してもそれは見かけだけで、いずれ代償動作による不具合が生じることになります。 


上の写真を見てください。①では、a~gすべてのクッキーは赤い線を中心にバランスよく積み重なっています。②ではfのクッキーの場所にズレ(歪み)があるため、赤い線はa~fのクッキーの中心から外れています。fのクッキーのズレを放置したまま、中心線に重心を合わせるためには③のようにcのクッキーをfのクッキーと反対側に大きく動かす必要があります。これが代償です。この時、a,b,d,e,gのクッキーは中心線を通っているため
c~fのクッキーを指で隠してしまえば、まるでバランスよく積み重なっているように見えます。

登山に行くときには服を着ているため、自分の体の歪みや代償に気付けず、フォームを改善したように見えても、服の下では③のような状態になっていることも少なくありません。

歩行フォームの改善は重要です。しかし、同時進行で歪みを解消させるエクササイズを行なわなければ、将来、歪みと代償、両面から不具合が生じるかもしれません。

★参照:なんとなく腰や膝に不安という登山者必見! 「おしり歩き」で骨盤回りの動きをスムーズにして歪みを解消

 

ふくらはぎ・体幹を強化させる

片足立ちを120秒間キープする時に、ふくらはぎに疲労を感じた人も多いはずです。

ふくらはぎは、足底センサーから受け取った情報をもとに、重心を調整するために必要な筋肉です。また、ふくらはぎの筋肉以外にも、体幹の筋肉群が重要です。なかでも腹横筋は、意識して息を吐くことで収縮し、体幹を安定させるコルセットのような働きをするため、バランス感覚を養うには呼吸を正しく行うことも大切になります。

★参照:呼吸筋のリセットで体幹を安定させて、疲れ知らずのボディをつくろう!

バランス感覚は、単に転倒予防だけではなく、安定した歩行、ブレない動作に大きく影響し、筋肉や関節への負荷を軽減させる働きがあります。

バテる、足が攣る、関節が痛くなる。こういったお悩みの多くは筋肉や関節に大きな負荷をかけ過ぎていることが原因です。

これらの改善にランニングや筋トレを思い浮かべる人も多いと思いますが、こういったトレーニングでは効果を得るまでに時間と努力が必要になります。また、間違ったトレーニングを行なえば、より関節や筋肉に大きな負担をかける危険もあります。

まずはバランス感覚を強化させ、体にかかる負荷を少なくすることで、無理なく、理想の登山ボディを手に入れてみませんか?

次回は自宅でテレビを観ながらでもできるバランス強化エクササイズをご紹介します。

 

プロフィール

いきいき登山ガイド・ヤッホー!!さん

本名:芳須勲。横浜市金沢区在住。管理栄養士・健康運動指導士・登山ガイドの資格を持ち、中高年登山者の健康づくりを、栄養と運動の両面からサポート。
山ごはん・アウトドア料理を得意とし、災害時における野外炊飯法などの講習会も各地で行なっている。
著書に山登りABC「登山ボディのつくり方」(山と溪谷社)、山登りABC「もっと登れる山の食料計画」(山と溪谷社)など。
⇒ホームページInstagram

登山ボディをリセット&メンテナンス!

管理栄養士・健康運動指導士・登山ガイドの資格を持ちながら、楽しく安全な登山を案内する「いきいき登山ガイド・ヤッホー!!さん」こと芳須勲ガイドが、身体のリセット・メンテナンスの面から登山のトレーニングを指南。登山のための身体づくりを目指そう!

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