極寒地で使われている防寒システム「VBL」は冬山での悩みを解決するか

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冬季登山で汗の処理は命にかかわる問題だ。汗などで濡れた衣類を着たまま寒さにさらされると体温が奪われ、最悪の場合、死につながることも。特に体の末端である手足は冷えやすく凍傷にかかりやすいため、早めに対策をしなければならない。この問題を解決すべく開発されたのが、防寒システム「VBL」だ。なるほど、たしかに保温はされるが、逆にデメリットも・・・。今回はそんなVBL製品をご紹介。

 

 

長年抱えていた冬山での悩み・・・

私は足に多くの汗をかきます。そのため、汗によって靴下が濡れてしまうのが冬山での悩みの種でした。濡れた靴下は保温力を失い、逆に足先の体温を奪い続けます。

さらに悪いことに、濡れた靴下によって登山靴の内部も湿ってしまい、それが一晩立つと凍りついてしまうこともあったのです。

濡れる靴下に頭を抱えながら、しかし解決策が見つからないまま冬山登山を続けていたとき、この悩みを解決してくれる画期的なシステムを知人に教えてもらいました。

 

極寒地で採用される防寒システム「VBL」

突然ですが、皆さんは「VBL」という言葉をご存知でしょうか? アラスカなどの極寒地で採用されている防寒システムの略語で、正確には「Vapor Barrier Liner」と言います。これが、知人が教えてくれたシステムなのです。

では、どのようなものなのか。VBL製品を扱うラボラトリズムのオフィシャルサイトを見てみると「人間の皮膚は100%湿度が飽和して蒸れている状態では、それ以上汗をかくことがなく、かつそれがもっとも体温低下を抑えることになる」という理論にもとづき“湿気をあえて逃さずにムレる状態を作り出す”というシステムだそうです。

つまり、VBLを採用した靴下を使えば、湿気(汗)を外側に逃さないから靴下が表面まで濡れることはなくなり、さらに靴の内側が湿る心配もないということ。これは試してみたい! ということでさっそくインターネットで調べてみると、まさにこのシステムを採用した靴下を見つけました!

その履き心地は・・・とても不快

VBLを採用したその靴下の名は「アルパインクライマーソックス」。ザ・ノース・フェイスと著名なアルパインクライマーである馬目弘仁氏との共同開発によって誕生したアイテムです。

使われている素材は3.0mmのネオプレン。縫い目が指先に当たることがないように特殊な編み方で作られています。ネオプレンには透湿性がないので、靴下の内部が湿度100%の飽和状態になり、結果としてVBLとして機能するのです。

実際に履いてみた

さっそく購入して冬山で試してみたところ、まずはネオプレン素材の抜群の保温性を実感することができました。そして靴下は表面まで濡れなくなったので、その保温性が低下することはありません。さらに靴の中は常にドライな状態に保たれたのです。知人が教えてくれた通り、長年の悩みを一気に解決してくれました。

しかし、新たな悩みの種も・・・。履き心地がとても不快なのです。

たしかに保温性はあるのだが・・・

VBLは、湿度が100%飽和している状況下では汗をかくことがなくなるという理屈なのですが、実際には湿度が100%にならないためか汗をかき続けることになります。

そして、その汗が外に出ていかずに靴下の内側に溜まりムレるので、足はつねにグチョグチョの状態に。表地は乾いた状態なので、靴下の保温力は低下することなく足先が冷えることはないのですが、内側がムレムレで不快感は拭えません。

特殊なアイテムだから、万人にはおすすめできない

ラボラトリズム「VBLグローブ ver.2」

VBLを採用した製品は靴下だけでなく、手袋もあります。それが、山岳スキーヤーの故・新井裕己氏とダイヤゴム株式会社との協同開発により誕生したラボラトリズム「VBLグローブ」(ver.2が2011年に発売)。

これは、透湿性のないゴム製のインナーグローブの上に保温性のあるフリースの手袋、最後に-60℃でも硬化しない特殊なゴム製のオーバーグローブを装着するという、3枚1組で機能するアイテムです。

私はVBLの効果を体感しましたが、この個性の強いアイテムを登山用品店はどう紹介しているのでしょうか。アルパインクライマーソックスとラボラトリズム VBLグローブ ver.2、どちらも扱っている、さかいやスポーツ シューズ館 斎藤さんに話を聞いてみました。

斎藤さんは以前「くつした先生」としてVBLを紹介してくれたことも

「メリット・デメリットを理解したうえで使うことが前提なので、お店としては積極的におすすめしていません。使う人を選ぶ特殊なアイテムなので、実際に買う人は少ないですね」とのこと。たしかに、アルパインクライマーソックスを履いた感想からしても、万人におすすめできるアイテムとは言えません。

そんなニッチな商品だからか、アルパインクライマーソックスは2019年の春で製造が終了してしまいました。本当に残念です。今後の販売についてメーカーに問い合わせてみたところ「多くのアルパインクライマーから販売を再開してほしいという声が届いているので、製造再開を視野に入れて検討しています」とのこと。やはり私のように、求めている人はいるのです。

「濡れる靴下」問題は解決される、しかし

濡れないメリット、ムレるデメリット

そういった特性から、声を大にしておすすめできないVBL製品。しかし、興味を持っている人の声はインターネットでも見受けられ、ブログでVBLをシュラフに取り入れて実験をしているツワモノもいました。寝袋が湿気によって濡れてしまう悩みも、このVBLシステムなら防げるかもしれませんね。

しかし、ムレムレ状態になるデメリットは常につきまといます。ムレるデメリットに耐えて濡れないメリットを享受するか、いっそ濡れてしまうことを受け入れるか・・・。悩ましいところです。

 

プロフィール

吉澤 英晃

1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出会い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンを約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。

斎藤 勇一(さかいやスポーツシューズ館)

アウトドア、ヤマの業界で25年超の経験を持つ長老的存在(笑)。
シューズ系の売り場に長く在籍し、さまざまな登山者の足元を見続けたせいで、その人の姿勢や歩き方から身体のクセなどを見抜くイヤらしいヤツ。
アウトドアスポーツ全般をこなすが、最近はイマドキ流行りの軽量装備で一人テント泊登山を楽しむ。

さかいやスポーツ

創業以来、約60年にわたり神田神保町で全国の登山家やアウトドアマンに愛されている登山用品店。ウェア、シューズ、ギアなど品目別の専門館を6店舗展開。ウェアや道具に詳しいスタッフが丁寧に解説してくれるので、ビギナーでも安心。

住所/東京都千代田区神田神保町2-48
TEL/03-3262-0432
営業時間/11:00~20:00
アクセス/神保町駅A4出口より徒歩6分、JR中央・総武線水道橋駅東口より徒歩8分

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