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オープン目前の「みちのく潮風トレイル」を歩く。連載第1回「故・加藤則芳さんがつないだ奇跡」

みちのく潮風トレイルを歩く LONGTRAIL HIKER 齋藤正史
ガイド・記録 2019年04月20日

東日本大震災から8年を経た今年、被災した沿岸部をつないだ「みちのく潮風トレイル」がオープンする。 国内のロングトレイルの提唱者として活躍された、作家の故・加藤則芳さんだが、三陸海岸をつなぐ長大なトレイルは、震災前から加藤さんが夢見ていたトレイルだったのだ。

生前の加藤さんと親交があり、自らも各地のロングトレイルを歩き、その普及に努める齋藤正史さんが、オープン前のみちのく潮風トレイルを歩き、関係者の話を聞いた。その様子を3回に分けてレポートする。

 

福島県相馬市松川浦環境公園にあるトレイルの南の起点

日本で、アジアでも例のない約1,000kmにも及ぶ長距離トレイルの全線オープンが、環境省から発表された。震災から9年目の今年、福島県相馬市松川浦、青森県八戸市蕪島を起点とし、東日本大震災の沿岸部を通過する「みちのく潮風トレイル」だ。

実は、みちのく潮風トレイルの構想に強く関わられた方がいる。日本のロングトレイルの第一人者、作家でバックパッカーの故・加藤則芳さんだ。

オープン直前のタイミングで、私の友人であり、加藤則芳さんの想いを継ぐ同志でもある、カナダのガイド会社ヤムナスカマウンテンツアーズの石塚体一さんが、偶然にも帰国していた。僕は、石塚さんを誘った。

宮城県名取市閖上地区にある名取トレイルセンター。4月19日にオープンする

これからオープンするみちのく潮風トレイルを彼に見てほしかった。そして、加藤さんの想いを知る同志として、海外に住む彼の目に、完成を間近のトレイルがどう映るのかを知りたかったのだ。彼もきっと加藤さんの想いの詰まったトレイルが、どのような道を辿るか知りたかったに違いない。こうして、僕らはオープン直前のみちのく潮風トレイルを巡る旅に出ることになった。

トレイルセンター内部には、全線を把握できる大きな地図が掲示されている

もちろん、1,000kmにもおよぶ道のりをすべて歩く訳にもいかず、むやみやたらにまわる時間もない。そこで完成したばかりのみちのく潮風トレイルの拠点、名取トレイルセンターに行き、事務局の板橋さんに見どころのアドバイスを受けてから、青森県八戸市蕪島にあるトレイルの北の起点を目指し出発することにした。名取トレイルセンターでは、トレイル全線の情報が手に入るようになっている。

みちのくトレイルクラブ事務局の板橋さん

北を目指す車内で、久々に石塚さんと話をしていてふと感じた。それぞれが、断片的に加藤さんから聞いていた話が、繋がっていく感覚があったのだった。そして、この旅の中で、偶然にもみちのく潮風トレイルの背景に強くかかわる方々とお話しする機会を得ていた。

トレイルとはいったい何なのかといった疑問は、いつかお話させていただくとして、なぜ被災地にトレイルができたのか。まずは、みちのく潮風トレイルのバックボーンに迫りたいと思う。

宮城県亘理町・四方山からの夕景

 

加藤則芳さんがつないだ、みちのく潮風トレイルの関係者たち

加藤さんを語るうえで、一番のキーパーソンが岡野治さんだ。加藤さんとは小学校からの同級生で、加藤さんが山を始めたのも岡野さんの影響が大きかった。以降、大学時代までの時間を一緒に過ごされた。その後、岡野さんは岩手県庁にお勤めになられたが、加藤さんは国立公園の取材などをしていたこともあり、東北に行くことも多く、岡野さんとの共通の知人やレンジャーも多かったそうだ。僕自身、加藤さんから同級生が岩手にいるとは聞いており、八幡平を一緒に歩いたなどといった話は聞いていたのだが、それが岡野さんだったのだ。

加藤則芳さんの幼馴染、岡野治さんにお会いした

「加藤とは、岩手の三陸の海岸に魅力的な歩道があるという話はしていた」という。岩手県の宮古市浄土ヶ浜から北部方面を岡野さんにご案内していただいた。

ダイナミックな北山崎エリアのルートは、震災の影響で、一部が歩けなくなっている。「加藤が気に入っていたのは、この北山崎のエリアだった」。震災後にも加藤さんはこの北山崎を訪れているが、すでに病気は進行し、車イスだったため、トレイルの入口までしか来ることが出来なかったそうだ。

みちのく潮風トレイルの北山崎ルートは、震災で地盤が沈下したエリアを迂回するルートで構成されている。一部手掘りのトンネルもあり、非常にワイルドな道のりになっている。

作家でバックパッカーの故・加藤則芳さん

実は、国立公園の取材をしていたころ、加藤さんは環境省の神田修二さん(現在OB)とも出会っていた。そして三陸にトレイルを作る構想は、2006年頃の加藤さんと神田さんとのメールでのやり取りで始まった。三陸にトレイルを作りたい。そんな想いから、加藤さんは海外に視察にも行っている。カナダのバンクーバー島にあるウエスト・コースト・トレイル(WCT)だ。

2009年、加藤さんはこのWCTを、石塚さんご夫妻とともに歩いた。WCTは全長75kmだが、レインフォレストの森と海岸線を歩くトレイルで、潮の満ち引きが関係するルートがあり、川を手動のケーブルカーで渡るような道があり、非常に変化に富んだトレイルになっている。

僕は、石塚さんご夫妻と歩かれた後の加藤さんから、熱を帯びた沿岸部のお話と丁寧な説明で、WCTの写真を見せて頂いたことを思い出した。このWCTが、当時の三陸トレイル構想の元になっている。

「もしかしたら、加藤はみちのく潮風トレイルのルートの中の種差海岸辺りから石巻か松島くらいまでをルートとして考えていて、環境省に提案していたのかもしれないね」。そう岡野さんはおっしゃっていた。

そして、ここでさらに、もう一人のキーパーソンが登場する。環境省の桜庭佑輔さんだ。桜庭さんは、長崎県五島列島に国立公園レンジャーとして赴任されていた際、五島列島への九州自然遊歩道延伸計画再整備に携われていた。赴任当初、歩いて調査したルートでないと推測される道がルーティングされており、悩んでいたそうだ。当時の桜庭さんの上司が神田さんで、その悩みを解決すべく紹介されたのが、加藤さんだったのだ。桜庭さんは、加藤さんに出会い、そしてロングトレイルに出会ったのだ。

環境省の桜庭佑輔さん。みちのく潮風トレイル開通に欠かせない存在となる

 

東日本大震災が発生。その後、たどった道のり・・・

そして、時は流れ2011年3月11日を迎えた。

環境省は、当時の陸中海岸国立公園にある優れた自然を活用し、地域資源を生かした復興を進めたいと考えていた。震災復興プロジェクトチームが立ち上がる少し前、加藤さんが環境省を訪れ、被災地にトレイルを作るアイディアが提案された。 

仙台市荒浜地区にある被災した荒浜小学校

このアイディアは、今まで主要都市のある内陸部から、沿岸部にむけた「東西間での観光導線」が主要だった太平洋沿岸部に、沿岸部と沿岸部を結ぶ「南北に人が動く導線」を作る動きを高める効果が考えられた。そして何より、被災地を見てまわり、被災の実情を知るのに効果的だと考えられた。

また、環境省の一部の職員は、加藤さんの国立公園に対する想いや期待を理解していたこともあり、「東北海岸トレイル(仮称)」の構想は震災復興のメインプロジェクトとして進められることとなったのだ。

荒浜小学校内部には、震災の記録や来訪者のメッセージ等が展示されている

前述の桜庭さんは、震災以降、三陸復興推進チームに在籍し、「トレイルを設定するからには自らの足で歩き調査しない限り、より良いトレイルはできない」という加藤さんの言葉通り、ルートの踏査を行うことになった。

それが、東北海岸トレイルとして立ち上がったみちのく潮風トレイルの母体だった。全ルートの踏査を終え、計画の概要が策定された後、桜庭さんは、岩手県宮古市浄土ヶ浜にある事務所勤務となり、前述した岩手県沿岸北部エリアのルート設定に携わることになる。

福島県新地町鹿狼山(かろうさん)から

ルートの設定は、環境省東北地方環境事務所、八戸、宮古、大船渡、石巻の各自然保護官事務所が中心となり、県・市町村の担当者、観光関係の事業者や地域住民の方との座談会や現地調査を重ね、選定に至った。

名取トレイルセンターには、加藤則芳さんの展示コーナーがある

2013年4月、トレイルカルチャーの息吹を強く感じる中、みちのく潮風トレイルの完成を誰よりも期待していた加藤則芳さんはALS(筋萎縮性側索硬化症)によって他界された。トレイルが作られた裏側には、日本におけるトレイルの第一人者である加藤則芳さんのトレイルカルチャーへの想いがあり、同級生である岡野治さんの存在が東北沿岸部でのトレイル構想を生むきっかけとなり、子弟関係にある石塚体一さんと歩いたカナダのウエスト・コースト・トレイルがイメージとなり、環境省の神田修二さん、その部下だった桜庭佑輔さんとの出会いが、みちのく潮風トレイルを作ることに繋がっていった。

さまざまな下地の中に、加藤則芳さんの思いがあり、震災がきっかけとなり、国が主導して被災地に「みちのく潮風トレイル」が作られたのだ。

荒浜小学校から見える荒浜地区

これが震災を経て9年経った今、「みちのく潮風トレイル」がオープンする背景だ。石塚さんと今回の旅をしなければ、きっとこの背景が鮮明に浮かび上がることはなかっただろうと思っている。

さまざまな出会い、偶然に奇跡を感じずにはいられない。

***

次回は、1000kmにもおよぶ「みちのく潮風トレイル」の各地にある拠点と、そこでトレイルの整備や普及に尽力する方々の思いをご紹介したい。

歴史・文化
教えてくれた人

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成た。日本国内でロングトレイル文化の普及に務め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行っている。

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