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沙羅双樹の花の色は? 野生のサラノキが咲くネパール・ヒマラヤで満開のシャクナゲと共に楽しむ

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
たしなみ 2019年05月15日

「沙羅双樹の花の色」という平家物語の冒頭の一節を、どこかで聞いたことがあるだろう。しかし、沙羅双樹はどんな木で、どんな花の色か知っているだろうか? 植物探検家の高橋修氏は、この3月~4月にネパール・ヒマラヤ山中に向かい、巨大なシャクナゲと共に、沙羅双樹の花の色を見に行ったのだった。

 

2019年の3月末~4月上旬、ネパールに巨木の花を2種撮影に行った。まずはトレッキングをし、ヒマラヤ山中でシャクナゲの巨木の巨大林を歩いた。その後ネパール南部のタライ平原に下り、野生のサラノキ純林でサラノキの一斉開花を見るという予定だ。

ヒマラヤはシャクナゲの宝庫である。日本よりも種類が多く、巨木になるものもある。最も大型になるアルボレウム・シャクナゲは高さ20mにもなる。

アルボレウム・シャクナゲは20m近い巨木になる


花も巨大である。下から見るのでは花を見ることができず、隣の山に登って、やっとシャクナゲの木の全貌を見る、そんな感じだ。ヒマラヤは山のスケールが大きいだけでなく、木のスケールも大きい。とにかくそれを見てみたい。

10年ぶりぐらいにもこのルートを歩いたが、ヒマラヤのトレッキングは快適だ。ロッジは清潔で、シャワーも浴びられる。ごはんもおいしいしゴミも減った。ネパール人は相変わらず優しく、ヒマラヤは今も美しかった。

トレッキング中に泊まった山村ガンドルンから


ただ、今年のヒマラヤは変な天気だった。4月初めというのに午後2時を過ぎると、毎日雹が降った。この雹がまた大きく、直径2cmもある。この雹に打たれて、シャクナゲの花は痛んで落ちていた。

アルボレウム・シャクナゲの花は大きい

毎日降ってきた大きな雹シャクナゲの花が混じる

昨年の秋に、知り合いにシャクナゲの花芽を撮影してもらい、花が咲くかどうかを事前調査し、今年は花の当たり年であると確認して今回の撮影旅行を計画してきたのだ。それにも関わらず、花が少なく残念であったが、自然相手の撮影だとこんなこともあるからあきらめる。

雹に打たれて落ちてしまったヒマラヤのシャクナゲ

 

サラノキが2本で沙羅双樹

次はサラノキだ。サラノキは平家物語で「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す」とうたわれた植物である。

沙羅双樹の花の色とは、仏教の伝承の故事からきている。日本では仏陀が入滅された時に、東西南北に生えていた2つずつのサラノキの花が落ち、木の皮も白く変わったという伝承による。これだと花の色は変わるわけではなかったのだが、本当のところはよくわからない。

ところで、実は沙羅双樹という木はなく、2本のサラノキなので沙羅双樹なのである。このようなことをはじめ、とにかくサラノキは日本では知られていない部分が多い。

日本からサラノキが生えているネパール、インドへは遠い。昔は正しい情報は伝わりにくかったため、できた誤解のひとつに、日本ではサラノキ(シャラノキ)がナツツバキだとされていることだ。サラノキはフタバガキ科、ナツツバキはツバキ科の植物で近縁ではない。花の形も色も、葉も、木肌も全く違う。サラノキについてよく知らなかった誰かが、イメージを膨らませて勝手にナツツバキをサラノキ(シャラノキ)と決めてしまったのだ。かわいそうなのはヒメシャラだ。ナツツバキに似ている近縁種というだけで、小さいサラノキ(シャラノキ)という意味のヒメシャラと名付けられてしまったのだ。

サラノキはネパール南部~インド北部に自生する。実は数年前の11月に一度サラノキの林に行ったことがある。この時は、花の時期ではなかったので、サラノキの巨木と深い緑の葉しか見ることができなかった。本物のサラノキは、どのようなものなのだろうか。野生状態のサラノキの花の色を知りたくなった。

野生のサラノキについて日本で調べたが、ほとんど情報がなかった。知られていないと知りたくなる。植物探検家でもある私は、サラノキの花を見てみたい思いがつのった。とにかく行ってみよう。

サラノキの林があるタライ平原は、ネパール第二の都市ポカラからバスで半日ちょっとかかる。ホテルに入ってから街に出て、ネイチャーガイドを探して、「サラノキの林を知っているか?」と聞く。「あそこと、あそこかなあ」と話をした、花にも詳しそうで真面目そうなガイドが見つかった。よいガイドを見つけるのは撮影を成功させるのに非常に大事だ。ガイドに翌日のジープチャーターとガイドを頼む。明日はうまくいくかなぁ。

翌朝、チャーターしたジープに乗って、サラノキの林に入っていく。初めて見たサラノキの花は、不思議な花だった。最初は本当に花と疑ったくらいである。花は淡い黄白色で、小さく、そして大量に集まって咲く。木全体を包む雲のようだった。5弁の花弁は先端のほうが細く、渦を巻いているようだ。花の量は非常に多く、ひとつの木に数万もの花が咲いていた。

これが“沙羅双樹の花の色”、サラノキの花


サラノキは花が咲く直前に葉を落とし、花の開花とともに葉を展開する。出たばかりの葉は、半透明。花と色が混じってより不思議な雰囲気になる。サラノキの花は、甘くよい香りがする。ひとつの木に咲く数万もの花、そしてサラノキは数万本ある。サラノキの林は甘い香りで満たされた。そして静かだった。

満開のサラノキの林。出たばかりの半透明の葉と花の色が混じり不思議な雰囲気となっていた

 

写真・映像 自然観察
教えてくれた人

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

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