雷注意報が出たら山に行かないほうが良い? 登山中の恐ろしい雷雨。落雷被害に遭わない行動とは

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匿名希望さんからの質問!

質問:GW中、丹沢の鍋割山で、落雷が原因で登山者が亡くなる事故がありました。実は、同日、丹沢にいたのでショックを受けていると同時に怖くなってしまいました。 山での雷対策は、気象庁のホームページなどにも書いてあるので、ひととおり理解はしていますが、今回のケースでは、やはり木の下に雨宿りしたのが問題だったということでしょうか? それとも、雷注意報が出たら山に行かないほうが良いとなるのでしょうか? また、ご自身で落雷や、そういった経験がありましたら、ぜひ聞かせてほしいです。

 

恐ろしい落雷。夏だけのものではありません

耳を裂くような大音量の雷鳴、激しい降雨、時には雹が混じり周囲の様相も一変。山で雷、雷雨とであう恐ろしさは、凄まじいものがあります。このゴールデンウィークの鍋割山での雷事故は、気象遭難事故です。実は、僕の友人も同日同時刻に隣の塔ノ岳にいました。雷鳴と雹が降る事態に、山頂近くまで登っていたけれど逃げ帰ったのだと、話を聞きました。

雷は夏の自然現象と思いがちですが、大規模な上昇気流が発生しているときに、上空に寒気が入るなど一定の条件があると夏以外にも起こります。日本海側では厳冬期にも、しばしば雷はあります。5月でも冬の空気と夏の空気がぶつかり合う条件の下で、意外と雷による被害は発生しています。

 

避けたい状況や場所を知っておこう

さて、山で実際に雷に遭ってしまったときですが、残念ながら、決定的な対策方法はありません。実際には“高いものに落ちる”ケースが最も多いようです。ご質問では「木の下に雨宿りしたのが問題だったということでしょうか?」とのことですが、大木の真下で、その木に落雷した場合、仰角45度以内でその木から4m以内の範囲にいると、雷の影響を強く受けるというデータがありますが、今回事故のあった鍋割山の様に沢山の木が生えているところであれば、落雷する木を特定するのは難しいのではないでしょうか? 大草原に一本だけ生えた大木や、樹林の中でひときわ背の高い木がある場合は、わざわざ、その木の下に避難するのは危険だと思いますが、開けた場所に比べると、むしろ森の中は、落雷被害を受けにくい場所と考えた方が良いでしょう。

登山中に最も落雷被害に遭いやすい状況は、「自分が高い、むき出しの場所に居る」状態です。森林限界を越えた山頂や尾根の上にいる場合は、雷の気配を感じたら、より安全な場所にできるだけ早く移動する必要があります。差し迫った状況の場合、転落の可能性が無い限り、尾根筋から外れること、樹林の繁茂した場所まで降りることができれば、危険性は大きく下がるでしょう。最も安全なのは頑丈な建物の中、クルマの中などと言われますが、近くに山小屋があるときに雷に遭うとは限りません。

 

恐ろしい雷の破壊力

僕が最近で最も怖かった雷体験は、ゴールデンウィークの北アルプス中部で遭った長時間の雷です。稜線上で逃げようもなく、両サイドの雪壁も屹立していて尾根から外れることもできず、雷光と雪と雹が降る中、少しずつ標高を下げて樹林帯に逃げ込みました。急激に気温も下がり、雨具が鎧のように凍結して動きにくかったことを思い出します。

奥秩父・甲武信岳、甲武信小屋のご主人の山中さんは、ある初夏の雷雨の日に、厨房の窓から玉状の雷が山小屋の中を走り抜け、反対側に飛びだしていくのを体験したそうです。この時は、雷鳴も凄まじく、小屋番氏は何が起きたのか、最初は判らなかったそうです。パソコンや大型テレビなどの電化製品は全て破壊され、衛星電話も壊れて、外部との連絡は全くできなくなっていたそうです。やはり、雷の破壊力は凄まじい。

 

出会わない工夫が最も大きな雷対策

雷対策で最も大切なのは、当たり前のことですが、危険な場所で雷と遭遇しない工夫です。よく「いきなりガスに包まれて、雷が鳴りだした・・・」などの話を聞きますが、そんなケースはまず稀です。雷は、雷雲の発生の下で起こります。朝から、妙に谷間から吹き上げてくる風が強い。低山であれば、午前中から麓の里からの物音が間近に聞こえる。これらの現象は、その場所で強い上昇気流が起きている証拠です。その上空に冷たい空気が入れば大規模な積乱雲が一気に発生する可能性があります。

白く小さな積雲が、妙に上下に広がり大きく成長をはじめたり、近くで見える範囲のところで大きな積乱雲が発生したりしたら、その日の予定を調整します。早めに下山したり、予定を切り上げて手前の山小屋に宿泊先を変えたりすることも大切です。

「雷注意報がでていたら山に行かないほうが良いのでしょうか?」という質問についてですが、それが一番、落雷に遭わない確実な方法なのでしょうが、盛夏の高山では、ほぼ毎日「雷注意報」は出ます。僕は、ハナッから雷を避けるのではなく、山に入っても、周囲の状況を注意深く観察し「これは、来るな」と思ったら、前もって安全地帯に向かうことが大切に思います。

雷は、登山者の側から積極的な対策を講じることができない大きな自然現象です。出会わない工夫が最も大きな雷対策になるでしょう。

 

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プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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