私たちにできることは何か――。ドローンによる山岳遭難捜索デモで感じたこと

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「どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか」。前回は忘れられないお叱りやアドバイスの言葉など、主に心の課題について書きましたが、第2回目の今回は、先日、房総半島(千葉県)で行われたドローンによる捜索デモから感じたことを綴ります。

 

「山ヤの矜持(きょうじ)を取り戻そう」。長年現場で活動され、多くの登山者を助けて来た、ある山岳救助隊OBの方が、講演会などでよく使われる言葉です。私もすごく心に響き、許可をいただいて使わせてもらっています。

「矜持=自信や誇り、プライド」。少し古い香りもしますが、「私たち自身が、事故を減らすためになにができるのだろうか」と想うとき、とても意味のある言葉だと感じるのです。

私たちを守ってくれる仕組みやシステムは日進月歩です。例えば、今やかなり以前からあったように感じてしまう携帯電話も、この普及がなければ迅速な救助要請は困難でした。

そのほか「行方不明者を探してくれる」「下山連絡がなければアラートを出してくれる」「いつどこを通過したのかがわかる」などなど。企業や行政の方々による新しい取り組みや研究、将来構想が、私たちの命を守ることに貢献してくれているのも確かです。

ややもすると「登山届を出したから、いつでも助けてもらえる」「機器を持ったからどこでも探してもらえる」といった公助に頼り過ぎてしまう気持ちにもなりがちですが、慎重な計画や行動、日ごろからの体力維持など、あわせて自分でできることはしておきたいという意味で、「矜持」という言葉を持ちだしました。

そんななか、この5月11日、「ドローンによる山岳遭難捜索デモ」に立ち会わせていただく機会がありました。山岳遭難対策制度を運営する日本山岳救助機構(jRO)の依頼により、株式会社テクノ・スクエアが行ったもので、場所は千葉県君津市と富津市の境にある高宕山(たかごやま・330m)でした。

千葉県・高宕山で行われたドローンによる山岳遭難捜索デモの様子


三機種のドローンを投入し、広いエリアでの 短時間捜索、赤外線カメラ捜索、スピーカーによる遭難者への呼びかけ、可視カメラ集中捜索などが次々と展開されました。

千葉県の山は標高は低いものの、地形的に迷いやすい箇所も多いのですが、2.5㎞の捜索範囲で、それぞれの捜索内容を速やかに実証できました。

上空を飛来するドローン。今後の山岳遭難の一助となるだろうか


私自身は山頂付近に設けられた仮の遭難地点で、ドローンの飛来と捜索の模様を見守りましたが、迅速かつ効率的な発見に驚くと同時に、スピーカーを搭載したドローンから聞こえてくる「⚪⚪さん聞こえますか~。聞こえたら手をふってくださ~い」という呼びかけに妙に心強さを感じました。最新の機器と「人の言葉」の温もりが融合した安心感なのかも知れませんね。

ドローンによる山岳遭難捜索デモに参加した皆さん

プロフィール

久保田 賢次

元『山と溪谷』編集長、ヤマケイ登山総合研究所所長。山と渓谷社在職中は雑誌、書籍、登山教室、登山白書など、さまざまな業務に従事。
現在は筑波大学山岳科学学位プログラム終了。日本山岳救助機構研究主幹、AUTHENTIC JAPAN(ココヘリ)アドバイザー、全国山の日協議会理事なども務め、各方面で安全確実登山の啓発や、登山の魅力を伝える活動を行っている。

どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか――

山岳遭難事故の発生件数は減る様子を見せない。「どうしたら事故に遭うリスクを軽減できるか」、さまざまな角度から安全登山を見てきた久保田賢次氏は、自身の反省、山で出会った危なげな人やエピソード、登山界の世相やトピックを題材に、遭難防止について呼びかける。

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