膝関節を捻じって歩いていませんか? 歩行癖を直して膝痛対策

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

登山道を昇降する際、足の向き・膝の向きはどこを向いていますか? 登山中のトラブルで最も多い膝痛の原因には、歩行中の膝の向きと大いに関係があるという。今回は膝関節を捻じる歩き方について説明する。

 

こんにちは、登山ガイドの野中です。これまでは5回連続して基礎的な歩行技術についてテーマを分けて解説してきました。

★「理論がわかれば山の歩き方が変わる!」連載記事一覧

今回は登山時に起こるトラブルで、最も発生頻度が多いとも言える「膝痛」について、その原因となる「膝関節を捻じる歩き方」を解説します。

 

膝関節、正しく動かせていますか?

早速ですが、写真を見比べて頂き、間違った膝関節の曲げ方と、正しい曲げ方について、確認しましょう。以下の写真では登りでは前に踏み出した足の膝、下りでは後ろ側の足の膝で、3種類の膝の曲げ方を例示しました。

歩行時の膝の動き

ニーイン・外反膝(X脚傾向)

膝を曲げる際に膝が内側にズレる動き。
ガニ股になればなるほど、爪先と膝の向きの差が大きくなり、捻じれが強くなる


ニーアウト・内反膝(O脚傾向)

膝を曲げる際に膝が外側にズレる動き。
内股になればなるほど、爪先と膝の向きの差が大きくなり、捻じれが強くなる

ニュートラル

両足の爪先が揃って正面を向き、膝を曲げる時に真っすぐ正面に動く。
膝の動きと爪先の方向が揃っているので、膝関節に捻じれが起こらない。


人体の構造上、つま先が向いている方向と同じ方向に膝を曲げるのが正しい動かし方です。しかし人によって、膝を内側や外側に傾けて動かす癖を持つ人がいます。日常生活では何も問題を感じることがないかもしれませんが、登山は運動負荷が大きいために、疲れてきた時ほどこのような癖が強く表れることになります。

特に女性と男性では幼少期から、床の上での座り方に差があるので、女性は内股、男性はガニ股になりやすい傾向があります。ただこのような歩行癖は、必ずしも性別だけで分かれるものでなく、運動歴や日頃の姿勢などに影響されて、1人1人の体に定着しているものです。

また、登山時よりも下山時の方が、膝痛が起こりやすいですが、このような偏った歩行癖は登り下りどちらでも行っていることが多く、その場合は下りの時だけでなく、登りの時から正しい足の動かし方に矯正して歩くことで、膝痛を予防することが出来ます。

 

登山は「ガニ股」で歩くのが正しい?

私が普段行っている講習会への参加者で「登山ではガニ股で歩くものだと思っていた」という考えを持つ人は多くいます。

O脚(ニーアウト)傾向のある男性がガニ股で歩くのは、ある意味で自然なことですが、X脚(ニーイン)傾向のある女性がガニ股で歩くと、膝と爪先の向きに大きく差が生まれるので、膝関節を強く捻じる動きになってしまい不自然です。

滑りやすい路面状況に対応するために、ガニ股で歩いて靴の内足側のエッジを使って歩くと足元が滑りにくくなる効果がありますが、これは前回記事で触れた、足首を柔軟に使ってフラット歩行が出来ていれば、ガニ股歩行をする必要がなくなります。

また、ガニ股歩行で歩くことで、足首をあまり前方に倒さずとも重心移動が出来るメリットがありますが、これも本来は足首関節が柔らかく使えるのが一番です。

このように、足首関節が硬かったり、上手に使えない方にとってはメリットがあるために、ガニ股歩行に依存した歩き方になりやすいのです。

しかしながら、内股の場合は下肢の内側、ガニ股の場合は下肢の外側の筋肉に負荷が集中することになりますので、足の筋肉をバランス良く使うことが出来なくなってしまいます。特定の筋肉にだけ疲労が集中すると、筋肉痛にもなりやすくなってしまいます。

そのため、左右の爪先の向きを出来る限り正面に向けて揃えて歩き、ガニ股歩行は一時的なものに留めることが重要なのです。

 

歩行癖は体の硬さが原因、矯正のためにはストレッチを

左右の爪先の向きを正面に向けて揃えて歩くのが、人体の構造上は最善の歩き方ですが、それが出来ない人も多くいます。これは、股関節や足首関節が硬いことや、偏った体の動かし方が原因となって、「ニーイン・ニーアウト、内股・ガニ股」などの歩行癖を直しにくい状態になっているからです。

これまでの記事でも解説してきた通り、関節の硬さや、体の動かし方に癖があると、重心移動が上手く出来ないため、疲れやすい(効率の悪い)歩き方になりがちです。また、このような歩行癖は膝痛に限らず、靴底の内外のすり減り具合に偏りが出来やすく、足首を捻挫しやすくしたり、足裏にマメが出来やすい箇所があったりなど、ほかのトラブルの原因にもなります。

強い癖があると、バランスを崩して転倒の原因にもなります。ご自身の歩きに、このような癖がないかどうか、自分自身でチェックすることをオススメします。

X脚、O脚、と診断されたことが無くても、膝が少しでも内や外にズレていれば、長く山道を歩けば歩くほど、トラブルになりやすいです。人それぞれ、自覚が無くても、関節によって柔軟性が異なったり、左右の柔軟性が差があったり、足裏への体重のかけ方に多少の偏りがあったりするものです。

もちろん、人間には何らかの癖があって当たり前で、癖があること自体が悪いことではありません。しかし、登山時に膝痛などの痛みトラブルが起こりやすいのであれば、その癖を改善することで痛みトラブルを予防出来る可能性があります。

体の硬さについては日頃からストレッチを行って、少しずつ柔軟性を向上させることが大切です。姿勢が悪い方は日頃から姿勢が崩れないように心掛けましょう。

なお、体重のかけ方については靴底の上下左右(爪先・踵・内・外)に体重の掛かり方に偏りが起こらないように、前回記事で紹介したフラット歩行を日常的に練習することをオススメします。

★安定して歩くために欠かせない「フラット歩行」

分かりにくかったことやご質問がありましたら是非、メッセ―ジをお寄せ頂ければと思っています。定期開催しています「山の歩き方講習会」について、詳しくはホームページをご覧ください。

 

1 2

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方の密接に結びついている。 あるき方を頭で理解して見つめ直せば、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術に近づいていく。本連載では、写真・動画と一緒に、歩き方を論理的に解説。

編集部おすすめ記事