山開き直後の南アルプス・北岳――、固有種キタダケソウ、大樺沢の雪渓歩きなど魅力がいっぱい
日本第2の高峰、南アルプス・北岳は、6月下旬に入山口の広河原までの道路が開通して、いよいよ登山シーズンが始まる。その瞬間は北岳が一段と輝く時期で、固有種のキタダケソウの開花をはじめ、百花繚乱の高山植物、雪渓歩きと、たくさんの山の魅力が詰まっている。
南アルプス・北岳は例年、6月下旬に玄関口となる広河原までの車道が開通し、開山を迎えます。開山の時期は、大樺沢の登山道はじめ残雪が多めですが、北岳周辺だけに咲く「キタダケソウ」の見頃と重なります。キタダケソウだけではなく、ほかの高山植物の花たちも咲き始める時期となります。
また、大樺沢の雪渓歩きと見上げる北岳バットレスの偉容も魅力で、この時期ならではの楽しみがたくさん揃っています。
残雪の具合によっては、広河原からのルート上に橋が掛けられていないこともありますが、その場合は白根御池経由で大樺澤二俣から大樺沢に入るか、草すべり経由で肩の小屋に行くこともできます。
日程に余裕があれば、間ノ岳を往復する計画を立てても良でしょう。6月の下旬~7月初旬、開山直後の北岳の魅力を紹介しましょう。
モデルコース:広河原~大樺沢~北岳~北岳肩の小屋~小太郎尾根~広河原
モデルコース行程:
【1日目】広河原・・・大樺沢二俣・・・八本歯のコル・・・北岳山荘・・・北岳・・・北岳肩ノ小屋(約8時間)
【2日目】北岳肩ノ小屋・・・小太郎尾根分岐・・・大樺沢二俣・・・広河原(約3時間30分)
【サブコース】北岳山荘~間ノ岳往復(+約3時間)
キタダケソウと百花繚乱のお花畑の北岳
2017年は、7月8日~9日に北岳に訪れました。キタダケソウを見るには少し出遅れた感がありましたが、7月初旬を過ぎてもまだ咲いていました。
入山口となる広河原へは山梨県芦安の南アルプス市営駐車場から始発のバスに乗り向かいます。到着した広河原からは梅雨の晴れ間に北岳の山頂がくっきり見えています。
広河原から大樺沢へと歩みを進めると、大樺沢二俣付近は残雪豊富で涼風が吹き渡り快適で、ミヤマハナシノブやタカネグンナイフウロが咲き出しています。
この日は、そのまま左俣ルートの雪渓上を行きました。上部二俣付近はバットレスの岩壁が頭上に迫り、迫力があります。雪渓歩きが終わり、小尾根に取り付くと木のハシゴが連続する苦しい部分ですがコイワカガミやツガザクラの花に癒されます。
この日、八本歯のコルに着く頃はガスに覆われてしまいましたが小さいお花畑があり、展望がないながらも満足出来ます。
北岳山荘へのトラバース道の残雪がある周りはまだキタダケソウが咲いていました。吊尾根分岐下ではもう種になっていましたが、代わりにミヤマオダマキ、オヤマノエンドウ、チョウノスケソウ、ハクサンイチゲ、ミヤマキンバイなどが咲き乱れていてまさに百花繚乱です。ミドリハクサンイチゲが見られるのもこの辺りです。
ここから、この日お世話になる北岳肩の小屋までは、ずっと花畑が続きます。山頂では一瞬、晴れ間が出て先ほど登ってきた大樺沢の雪渓が見下ろせましたが、その後は積乱雲が立ち上がってきて雷鳴が聞こえたので小屋へ急ぎます。しかし、夕方から夜は晴れて月光に浮かび上がる北岳を見ることが出来ました。
翌朝は文句なしの快晴で日の出も見られました。肩の小屋からは前日見えなかった仙丈ヶ岳と甲斐駒ヶ岳、そして北岳の影が伊那谷方向に伸びている様子を見る事が出来ました。
下山は小太郎尾根経由で大樺沢右股ルートを行きます。肩の小屋から分岐までの道も、ハクサンイチゲのお花畑が見事でした。分岐から右股コース上部はシナノキンバイとサンリンソウ、そしてハクサンチドリが咲いていて目を楽しませてくれました。
日程に余裕があれば間ノ岳までの往復を追加することをお勧めします。その場合は北岳山荘に泊まる計画を立てると良いでしょう。初日は八本歯のコルからキタダケソウを観察しつつ、北岳山頂を踏み北岳山荘までとなります。
2日目の朝に間ノ岳を往復します。途中の中白根付近のお花畑が見事で、足が止まります。間ノ岳山頂からは塩見岳や南アルプス南部の展望が広がります。下山は往路を戻り大樺沢を下山します。
プロフィール
増村 多賀司
長野県北安曇郡在住、山岳写真家、長野県自然保護レンジャー。数々の山岳写真と撮影する傍ら、グリーンシーズンは北アルプスを中心にトングとゴミ袋を持って山を歩き、雑誌などへの寄稿も多数。
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