南半球のトレッキング天国ニュージーランド:トレイルトラベラーズ 「世界のトレイルを巡る旅」(18)

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旅と組み合わせて気軽に楽しめる世界のトレイルを紹介する連載「世界のトレイルを巡る旅」。トレッキングをテーマに300日間で世界一周旅行をした山野夫婦が、訪れた五大陸50超のトレイルからおすすめの場所を振り返る。第18回目は、ニュージーランド。ニュージーランド最高峰のマウントクックを望むミューラーハットルート、山岳風景と苔生すブナ林が美しいルートバーン・グリーンストーントラック、マオリ族の聖地トンガリロ・ノーザンサーキットを歩いた様子をお伝えする。

 

雲を突き抜ける山 アオラキ/マウントクック国立公園 

2017年1月3日(世界一周266日目)

南米でのトレッキングを終え、いよいよ最後の大陸オセアニアへ。星空で有名なニュージーランドのテカポ湖で新年を迎えた僕らは、マオリ語で「雲を突き抜ける山」を意味するニュージーランド最高峰アオラキ/マウントクックが望めるマウントクック国立公園へ向かった。

アオラキ/マウントクック国立公園は3000m峰が19座あるニュージーランドきっての山岳エリア。入り口となるマウントクック村は上高地のような場所で、数時間から半日程度で歩けるウォーキングトラックがいくつか整備されており、たくさんの観光客・デイハイカーが訪れる。お目当てはニュージーランド最高峰、標高3,754mのアオラキ/マウントクックの眺め。ただし、年間降水日数約150日という不安定な天候から、簡単にはその姿を見せてくれない。

ミューラーハットルートはマウントクック村からセアリーターンズトラックを経由してミューラーハットに至るルートだ。トレイルはひたすら急登。V字谷を形成する山稜をほとんど直登するような感じで登って行く。1,000メートルほどの標高差を僅かの2〜3キロの道のりで登って行くため、トレイルからの景色は面白いように変わって行く。東京タワー3個分登るのだ。麓の村はミニチュアのように小さくなり、やがて航空写真のようなサイズになる。

東京タワー3個分の高度からの眺め、V字谷に美しい虹がかかる 


稜線に出てからは谷の反対側に回り、谷に流れ落ちるミューラー氷河を真横に見ながら、雪上のトレイルを歩く。色の無い曇天の世界に、一際目立つ赤い小屋がミューラーハットだ。雪が残る岩稜の上に立つ小屋の中はハイカーで賑わい暖かく、リラックスしたムード。夕食を作ったりお茶お飲んだりしてゆっくりしながら、大きな窓から外の様子を何度もうかがう。やがて、遠くで沸き立つ雲がちぎれ始め、僅かながらマウントクックが顔を出した。アオラキの名の通り、雲を突き抜ける山の姿だ。薄紅色に染まる夕暮れの空と真っ白なマウントクック。雪を被った山はやっぱり美しい。

 

岩稜の上に立つ真っ赤な小屋、ミューラーハット

マウントクックが雲を突き抜けて顔を出した


ミューラーハットに一泊し下山。天気は今日もめまぐるしく変わり、太陽が見えたと思ったら、急に雲がかかり吹雪で窓の外が真っ白になる。一瞬広がった青空を見計らって出発。一面雪で覆われた山と対照するように空は青色を深くし、ミューラー氷河は太陽に照らされて眩しく輝く。そこから雪煙が上がり、氷河が崩壊していく。少し遅れてゴーンという低い音が響き渡る。雪山が放つ取り憑かれてしまいそうな不思議な魅力に何度もため息が出た。

束の間の青空とミューラー氷河との共演

 

雄大な山々と苔生す原生林 ルートバーン・グリーンストーントラック

2017年1月8日(世界一周271日目)

美しい渓谷から始まり、湖と滝、森林限界を超えた山岳エリアまで多様な風景を楽しめるルートバーントラック。苔生すブナの原生林、谷底に広がる草原と清流、のどかな風景を楽しめるグリーンストーントラック。隣り合う二つのトレイルはそれぞれ個別にも歩けるが、僕らは四泊五日で続けて歩いた。

クイーンズタウンの街からシャトルバスでルートバーンシェルターへ移動。清流に架かる橋を渡ると、ルートバーントラックの始まり。ひんやりとして大きく深いブナの森は、たくさんのシダ植物とコケ植物に覆われ瑞々しい。やがてトレイルは川沿いを進むようになる。木々の間から見えるルートバーン川は、青く透き通り、川底までくっきり見えるほどだ。耳を澄ませば、何種類もの鳥の鳴き声が聞こえる。人懐っこいと言われるロビンという小鳥は、カメラ目線でポーズをとってくれる。

森も水も空気も全てが透明感のある世界 


ルートバーンフラッツから先はハリスサドルという峠に向けて登り坂。ルートバーンフォールズハットを過ぎると森林限界を越え、タソックという膝丈ほどの草を中心とした高山植物帯となる。マウンテンデイジーやマウントクックバターカップが美しい。さらに高度を上げていくと右手に大きな湖、ハリス湖が見えてくる。太陽の光を受けて、湖面は青や緑に色を変える。湖の奥には岩がむき出しの険しい山が迫り、ルートバーントラックらしい迫力のある山岳エリアを歩いていく。ハリスサドルから先は、眼下にホリフォード渓谷を見下ろす気持ちの良いトラバース道。高度感のある雲上トレイルを楽しめる。眼下に緑色に輝くマッケンジー湖が見えると、ここから高度を一気に下げ、森林限界から再び原生林の中へ入っていく。幻想的な苔の世界を抜けると、湖畔にあるマッケンジーハットだ。

森林限界を超え、雄大な山岳エリアを進む 

眼下に見えるのがマッケンジー湖


苔生す原生林を歩いていく。途中、落差174mのアーランド滝を通り過ぎ、ハウデンハットに到着する。ハウデンハットはルートバーントラックとグリーンストーントラックがつながるところで、僕らはここからグリーンストーントラックに入った。引き続き苔が美しい森だ。太陽の光が差し込むと、雨粒を潤沢に蓄えた苔がキラキラと輝く。グリーンストーントラックは、かつてマオリの人々がグリーンストーン(ヒスイの一種)を運ぶために利用していた古道。足元に転がる石はどれも緑がかった色をしている。マッケラーハットを越え、やがて森を抜けると、広い谷底の草原地帯に出る。山も空も草原も全てが大きく開放感がある。再びブナの樹林帯、岩がゴロゴロのガレ場、平原を抜けていく。吊り橋を渡り、森を抜けるとグリーンストーンハット。ゴールのグリーンストーンロードエンドまでは、グリーンストーン川沿いの河原から、狭い渓谷、草原地帯を越えていく。

美しい苔の森はこのルートの魅力の一つ

グリーンストーントラックでの開放感のある谷底歩き

 

マオリ族の聖地 トンガリロ・ノーザン・サーキット

2017年1月17日(世界一周280日目)

トンガリロ・ノーザン・サーキットは、ニュージーランドの雄大な景色を眺めながら歩くことができる「グレートウォーク」のひとつ。僕らは時計回りに三泊四日で歩いた。初日はマンガテポポハットまで。富士山のように美しいマウント・ナウルホエに向かって、潅木帯を歩いていく。

このルートのハイライトは2日目。溶岩流が冷え固まってできた光景から始まって、マウント・ナウルホエのそばを横切り、レッドクレーター、エメラルドレイクスという絶景ポイントを訪れる。この区間だけを日帰りトレッキングで歩くトンガリロアルパインクロッシングというコースも人気で、ハイシーズンは毎日数百人規模の人が歩くという。だんだん植物の姿がなくなり、あたり一面ゴツゴツした溶岩帯に変わる。「Devil’s Staircase(悪魔の階段)」と呼ばれる登り道を上がり切ると、サウスクレーターと呼ばれる広い平らな場所に出る。

美しい成層火山のナウルホエ


レッドクレーターと呼ばれる火口の縁を歩く箇所では、崖の下に広がる赤い色をした火口から蒸気が吹き出し、硫黄の香りが漂ってくる。レッドクレーターを過ぎると、遠くにブルーレイク、眼下にはエメラルドレイクスが見えてくる。その名の通りの鮮やかな色をした湖。クレーターに水がたまり、火山地帯のミネラル成分からこのような色となっているのだという。ザクザクと砂地のトレイルを下っていき湖に近づく。神秘的な雰囲気にたくさんのハイカーが湖のほとりで佇んでいた。ガレた岩場を下り、溶岩流が固まったトレイル、火山灰が堆積したような砂地のトレイルを進む。やがて遠くにマウント・ルアペフが見えるようになった。

エメラルドレイクスの美しい景色を目当てにたくさんのハイカーがやってくる

いつまでも見入ってしまいそうな鮮やかな湖

3日目はオトゥレレハットからワイホホヌハットまで。まずは正面に北島最高峰のマウント・ルアペフを見ながら歩く。山肌の溶岩が流れ出た跡に沿って雪が残る。マウント・ナウルホエの姿も美しかったが、ルアペフも独特の力強さを感じさせる美しい山だ。途中、樹林帯を通り抜ける。荒涼とした風景が続くノーザンサーキットのルートの中では久々の樹林帯だ。ひんやりした森を抜けるとワイホホヌハット。新しく広々として快適な小屋だ。四日目は、右手にマウント・ナウルホエ、左手にマウント・ルアペフを眺めながら歩く。タラナキフォールズまで来ると、ファカパパビレッジからのデイハイカーを見かけるようになり、間もなくゴールだ。

写溶岩から砂地のトレイルへ、遠くに見えるのがマウント・ルアペフ

 

ニュージーランドでのトレッキング

美しい大自然が広がるニュージーランドには、日帰りで気軽に歩けるルートから、3〜4日かけて数十キロを歩くルートまで様々なトレッキングルートがあります。特に人気なのが、ニュージーランドの環境省が定めた9つの「グレートウォーク」(2019年12月に10個目のグレートウォークがオープン予定)。僕らが歩いた中では、ルートバーン・トラックとトンガリロ・ノーザン・サーキットが該当します。

グレートウォークは、魅力的な大自然が楽しめることはもちろん、ルートや小屋も綺麗に整備されているため、初めてのニュージーランド・トレッキングにオススメです。グレートウォークのトレッキング自体には許可証は入りませんが、途中の小屋やキャンプサイトの利用に予約が必要です。人気のルートはかなり前から予約が埋まってしまうので、早めに手配しましょう。

マウントクック国立公園、ルートバーン・グリーンストーントラック、トンガリロ・ノーザン・サーキットでのトレッキングに関する準備やアクセス、ルート、気候や装備についてトレイルトラベラーズのブログにもまとめていますので、よろしければご覧ください。

 

★マウントクック国立公園のトレッキング情報

★ルートバーン・グリーンストーントラックでのトレッキング情報

★トンガリロ・ノーザン・サーキットでのトレッキング情報

 

マウントクックを眺める

プロフィール

Trail Travelers 山野尚大・優子

山と旅の愛好家。経営コンサルタントとして平日の激務と休日の山ごもりを両立させる日々から、結婚を機に心機一転、夫婦で絶景トレイルを巡る世界一周の旅に出発。2016年4月からの300日間で、五大陸の50超のトレイルを歩く。「Trail Travelers(トレイルトラベラーズ)」を立ち上げ、旅行と組み合わせたトレッキングの楽しみ方を発信中。
【ブログ】
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トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」

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