長期テント泊登山では、何を食料として持っていく? サプリで補いたい栄養素は?

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犬山好人さんからの質問!

質問:夏休みに1週間程のテント泊縦走を計画しています。普段の食事ができない中で、行動に必要な栄養素を摂取するのに好都合な食糧、またはサプリなどを教えてください。

 

夜叉神峠から光岳をつなぐ 南アルプス大縦走

僕の初めての本格的な長期テント泊登山は、高校一年生(1970年)の時に、南アルプスの夜叉神峠から、延々と全山を縦走して光岳までをつなぐ、10日間に渡る単独行の大縦走でした。

テントといってもツェルト泊。当然、全行程で自炊。フリーズドライ食品は既に存在していましたが、まだまだ開発途上だったこともあり、高価で美味しくないものでした。そこで、全て生米、インスタント食品らしいものもほとんど使いませんでした。

 

 

毎夕、白米を二合炊き、夕食は、当然‟ごはん”。残った‟ごはん”の半分は雑炊にして、朝食に。あとは、梅干し、塩昆布、ふりかけでコッフェル弁当にして昼食にしました。出発した時は、一升以上の生米を持っていたはずです。

登山経験も自炊経験も少なく、食事のレパートリーもなく、‟カレー”と‟トン汁”を一日交代で作り続けました。最初の二日間は自作しておいた「ブタ肉の味噌漬け(ブタバラ肉の薄切りの両面に味噌を塗り、ビニール袋に入れた保存食)」を材料に使いましたが、その後は魚肉ソーセージ、最後の二日間は、タマネギとニンジンだけのカレーと、同じ具材の味噌汁。それにフリカケごはんだけだった記憶があります。朝の雑炊は、「ワカメ入り味噌味」「サラミ入りコンソメ味」と少し工夫しました。

大縦走最終日、光小屋前でツェルトを畳み、当時の下山ルート大井川の寸又峡へ向けての道は、とても長かったです。最後は、森林軌道の枕木が急ぎ足の歩幅に合わずイライラし、炎天下、空腹感と、疲労でヨタヨタになって下山。なかなかの大冒険でした。

 

山での食事も、普段の延長に

この山行で、食べ物をめぐる、ちょっとした良い思い出があります。

途中、北岳から同じ行程を前後して歩き、テント場もほぼ毎日一緒になっていた単独行の大学生がいました。僕と同じ光岳を目指していましたが、聖岳を越えた西沢渡分岐で志半ばで長野側に下山することになりました。

その大学生が大切に持ってきた生卵を「これは、いよいよ体力の限界が来た時に、食べようと思って持ってきた。俺は、もう、歩く気力がない。お前は、これを食って最後までガンバレ」と渡してくれました。

一人歩きに身体も心も参っていたので、この励ましは本当に嬉しくて、涙が出ました。その日、聖平で、ゆで卵にして食べました。本当においしかったです。長期縦走の食事の話をする時は、いつも、この日の‟ゆで卵”の味を思い出します。

僕は、沢登りでも、雪山でも、白米を炊き、パスタを茹でて、普段の食事と大きく変わらないものを食べています。「普段の食事ができない中で」と言うけれど、お米を炊くことは、テント生活で、そんなに大変なことではないと思っています。味噌汁やシチュー、カレーといった、単純な食事になりがちですが、お米を蒸らす間に、いずれも、そんなに苦労なく作れるはずでは?と思ってしまいます。パスタなども茹で時間の短いものを選び、水さえ豊富なら、インスタント食品と変わらない簡単さです。パスタにシチュウなどをプラスすれば、下界とあまり変わらない満足感があります。

・・・と、ここまでが、長期テント泊登山の食事について、僕なりの考えです。

 

フリーズドライ食品や乾物類の活用

ただ、日数が増えれば、その食事分の食糧で荷物が重くなるのは事実です。荷物をなるべく軽くしたいのであれば、主食をフリーズドライ食品に置き換えてはいかがでしょうか。今では「アルファ米」に代表されるフリーズドライ食品は、白米以外にも、驚くほどの選択ができます。一週間なら、ドライカレー、ピラフ、各種おこわと、毎日違う味が楽しめ、これらと、シチュー、味噌汁類を上手に組み合わせれば、そんなに悩むことなく、普段のメニューと変わらない食事ができるのでは・・・と思います。パスタも簡単に作れる物があり、また、何も高価な物に手を出さなくても、インスタントラーメンや、ヤキソバ、ウドンなどもたくさんあります。

スーパーでも簡単に手に入る「軽くて携帯に便利な長期登山向きの食材」としては、古くからある乾物類が考えられます。豚汁に高野豆腐を入れたり、ヤキソバやインスタントラーメンには切干大根が合います。マーボー春雨を使った「春雨丼」も、山ではピリカラが美味しいです。僕が高校生の頃、山岳部で流行っていたのが「切干大根とベーコンの煮物」。量はタップリなわりに軽量の食材で作れて、楽しめました。

登山用具店で、登山専門食品を吟味して選ぶのも良いのですが、スーパーで「これ、山でも美味しくないかな?」と、探すのも楽しいです。

 

サプリで補いたい3つの栄養素

ただ、いろいろメニューを工夫しても、食事からは補いづらい栄養素は、犬山好人さんが言うようにサプリメントなどを使うと良いでしょう。

連日の行動に必要な分のたんぱく質を食事から摂取するのは難しいことです。アミノ酸系のサプリメントは、次々と新製品がでています。2、3日の登山なら、気に留めない方でも長期山行の場合は、ぜひ、使ってみてほしいです。人によっては「疲労感が全然違う」と言う方もいます。

多く汗をかくような登山では、電解質などのミネラルは食事だけでは不十分なことがあります。スポーツドリンク(粉末の物が軽量で便利)にプラスして、電解質補給サポートサプリメントをとると良いでしょう。

また、山では生野菜がとりづらいので、サプリメントではありませんが、総合ビタミン剤も服用すると効果があります。炭水化物をエネルギーに変える際に必要な栄養素です。

 

最後にちょっと良い話

あの南アルプス全山縦走の時、卵をくれた人は、お互い名乗りもせずに別れましたが、廃刊になった「岳人」という山岳雑誌に、その時の思い出をエッセイで書いたら、何と、その人からハガキが来ました。

「岳人。読みました。どう見ても、あの西沢渡分岐で卵を渡したのは自分だと思います。足を引きずっていましたが、それでも最後まで縦走したのですね。お互い、若かったということでしょうか?」

山の食事は、いろんな山の思い出と共にあります。

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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