中型・大型ザックを選ぶポイントは? 容量が大きくなれば、機能も選ぶポイントも増えてくる

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登山の必需品であるザック。登山用品店にはさまざまなサイズやデザインがずらりと並び、初心者はどれを手に取っていいか迷うところ。そこで、カモシカスポーツ 山の店・本店の横井さんに基本の選び方として前回、「山行別・サイズ選択」について教わった。2回目は、登山での汎用性が高い中型ザックと、テント泊にも挑める大型ザックの特徴や機能について聞いた。

文・取材=辻 歌

 

中型・大型のザックは男女別、洋服のように体型に合わせよう

さまざまなサイズのザックが揃うカモシカスポーツ 山の店・本店


ライターT: 前回は、「山行スタイル別・おすすめのサイズ」と「日帰り登山向けの小型ザック」について伺いました。今回は、「日帰り」はもちろん「小屋泊」や「テント泊」といった泊り山行にも対応できるザックについて教えてください!

横井さん: 30~40L程度の中型ザックが最も汎用性が高いという話を、前回しました。そこで、登山用の中型ザックの特徴をより具体的にお伝えしたいと思います。

★前回記事:山行スタイル別に適したザックを選ぼう!

ライターT: 小型ザックは街用と大きくは変わらず、代用もできるとのことでしたが、中型ザックになると登山用の仕様がたくさんありそうですね。

横井さん: まず、お客様には「ザックは洋服と一緒ですよ」という話を必ずします。中型以上のサイズは男性用・女性用モデルに分かれていて、それぞれの体型に合わせた設計になっています。
分かりやすいのが、背面長(背中部分の長さ)の違いです。中に入れる荷物が重くなる中型以上だと、肩だけでなく腰にも荷重をかけてザックを持ちます。そのときに、背面長が合っていなければ腰にしっかり負荷がかからなくなります。だから男性・女性できちんと分けられているのです。

登山用ザックの男性用モデル(左)と女性用モデル(右)


ライターT: 男女では平均的な身長も違うし、体の形の特徴も異なりますよね。

横井さん: 一般的に女性のほうが肩まわりの幅が狭いので、ショルダーハーネスはストラップ自体の幅や左右2本の間隔も狭くなっています。また、女性は胸のふくらみがあるので、胸あたりをカーブのある形状にしてフィット感を高めているモデルもあります。
このように微妙に大きさやシルエットを変えているので、女性が男性用を背負うとショルダーハーネスの肩部分が浮いてきたり、男性が女性用を背負うとウエストベルトがフィットしにくく腰に荷重がかけにくくなったりします。

ライターT: 中型サイズ以上は、きちんと性別モデルを意識して買うことが大切ですね。

 

中型ザックには登山用の機能が豊富

ライターT: 中型サイズだと、肩や腰にあるベルトがしっかりしてきますね。

中型ザックのショルダーストラップには、厚めのパッドが採用されることが多い


横井さん: たとえば30Lのザックであれば、ザック本体と中の荷物を合わせると、8kgくらいになると想定できます。その重量の荷重を肩と腰に分散させることが大切になるので、フィット感がとても重要なのです。

ライターT: 肩と腰に分散させる重要性は、容量が大きくなればなるほど高まるんですね。

横井さん: 肩だけでザックを背負っていると、ショルダーハーネスが肩に食い込んで肩こりを起こすことがあります。一方、ウエストハーネスをきちんと使って腰にも荷重を分散できれば、肩はずいぶんラクになるはずです。中型サイズ以上は重い荷物を腰でも支えるぶん、ウエストベルトはしっかりとパッドが入ったものが多いです。

ライターT: ほかに、登山に適した特徴はありますか?

横井さん: 小型ザックのところでも話しましたが、登山中は背中がすごくムレる。だから、よりシビアな状況もありうる中型ザックだと、さらにムレにくい工夫がされています。
背面部分が立体的になっているものや、背中に直接あたるメッシュパネルとザック本体の中にスペースを設けるデザインにして、できるだけ通気性をよくしているのが特徴です。
あとは、中型以上になると大半がレインカバー付きのものになります。ウエアと同様に、ザックも雨で濡れると大変なことになるので、別で購入しなくていいのはうれしいことだと思います。

背面にメッシュパネルを配して、背中がムレにくい設計に

 

背負い心地をより重視する大型ザック

ライターT: 大型ザックになると、どんな仕様が違ってきますか?

横井さん: 背面長のフィット感をより適正にしたいので、背面長を自分で調節できるモデルが多いというのが最も違うところです。自身の背中の長さに合わせて、長くも短くもできます。50L以上のサイズになると、ザックと荷物を合わせた重さが15kgくらいになり、腰に荷重を分散させないと肩への負担が相当なものになってしまいます。だから背面長を正しく合わせて、ウエストベルトを腰にきちっとフィットさせてください。

一人ひとりに合わせて背面長をアジャストできるシステム


ライターT: ウエストベルトも、しっかりしたものになりますね。

横井さん: 荷重をかけても痛くなりにくいよう分厚いパッドが入り、安定性とクッション性がアップします。

ライターT: 大型ザックだとあとは・・・、ザック内で荷物の整理をしやすい2気室タイプや、トップ部分で容量を調整できる拡張タイプもありますね。

横井さん: まず、ザック内の上下で収納スペースを分けられる2気室タイプですが――、これを使うときに大事なのが下部スペースにきちんと荷物を詰め込むこと!
下部に空きが多いくて荷物がガサガサと動いてしまうデッドスペースができると、ザック全体のバランスが悪くなります。シュラフやレインウエア、フリース、ダウンなどをぎゅうぎゅう詰めにするのがおすすめです。
また、下部スペースには軽いものを入れることも重要です。下部に重いものを入れてしまうと、腰に余計な負担がかかりやすくなります。

ライターT: このサイズになると、パッキングの方法がとても大切になりますね。

横井さん: 荷物の詰め方ひとつで、体の感じ方が変わってきます。大型ザックだと重い荷物を背負って長時間歩くことも多いので、パッキング技術を覚えておいてくださいね。

ライターT: 拡張タイプは、どう使うのでしょうか。

横井さん: 55~65Lなど、容量を調節できるのが拡張タイプ。これは、トップ部分に絞り込みできる場所が2ヶ所あり、荷物の量に合わせて締める位置を変えるだけで簡易的にサイズ変更ができます。

コードを締める位置で容量を変えられる拡張タイプ


ライターT: 先ほど伺った「ザックのサイズが大きいけれど荷物の量がスカスカだとバランスが悪い」という言葉のとおり、荷物の量によって、できる限り調節したほうがよさそうですね。

横井さん: あとは、小物やテントマットなどを外付けするための「デイジーチェーン」やストラップも増えますね。このあたりのパーツの使い方は、改めてお話しするようにしましょう。

 

軽量ザックを使うには、注意が必要!

横井さん: もう一点、中型・大型ザックを選ぶときに知っていてほしいのが、「ザック本体の軽量化」についてです。最近の中型ザックには、1kg以下というモデルもあるほど軽量化が進んでいますが――、ザックに合わせて荷物の軽量化もできればいいのですが、それができない場合にはデメリットになってしまいます。
ザック本体が重いものは、生地に太い糸を使ったり、パッドも肉厚なものにしたりしてガッシリと作られていますが、一方の軽量化モデルは細い糸を使って、パッドも薄手に仕上げられているのです。そのため、あわせて荷物も軽くしないとショルダーハーネスが肩に食い込んで身体への負担が大きくなります。

ライターT: 軽いザックだからといって、必ずしもラクになるわけではないんですね。

横井さん: 同様に、重いザックは無駄に重いわけじゃない、ということです。支えるところの構造がしっかりしているから重くなり、重い荷物を持つなら圧倒的にバランスがいいとも言えるでしょう。
「ザックを軽くしたい!」と軽量モデルを求められる方がいらっしゃいますが、実際に店頭でオモリを入れて試してもらうと諦める人も多い。背負ってみると体感する重量が分かるので、ぜひ購入前に店で試してみてください。

ライターT: ザック選びで、背負ったときの体感は本当に大切。次回は、正しく背負うためのパーツの機能説明などもお願いします!

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次回の「背負い方と機能を知る」では、覚えておくとザック本来の実力をしっかりと感じられる、背負い方とパーツの役割について紹介します。

プロフィール

横井 亮

カモシカスポーツ 山の店・本店勤務。カモシカスポーツのザック担当。オフロードバイクからアウトドア生活が始まり、いつしか山を歩くことにも目覚める。今では百名山への挑戦、縦走登山、クライミング、沢登り、スキーなどをマルチに嗜む。 ザックは15個くらいをアクティビティに合わせて使い分け、自らの体験に基づくリアルな使い心地を伝える。

カモシカスポーツ 山の店・本店

登山用のウエア、靴、ザックからクライミングや沢登りの道具まで幅広く扱う専門店。登山のベテランもうなる実用的なセレクトが多く、初心者がステップアップしても長く使えるものが豊富に。フィールドでの経験値が高いスタッフが、細やかなアドバイスをしてくれる。
住所/東京都新宿区高田馬場1-28-6
TEL/03-3232-1121
営業時間/11:00~20:00(土日祝は~19:00)
アクセス/JR山手線・西武新宿線・地下鉄東西線高田馬場駅より徒歩3分

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