ザックのベルトやヒモの正しい扱い方、知ってます? ザックの選び方・使い方を基本から学ぼう!

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どんなスタイルの登山でも欠かせない道具の一つ、ザック。その選び方についてカモシカスポーツ 山の店・本店の横井さんにうかがうシリーズの第3弾。1回目は「山行別・サイズ選択」、2回目は「中型・大型ザックのポイント」のあとの今回は、実際に使うときに覚えておきたい「正しい背負い方と、ザックに付いているパーツの役割」について。登山初心者はもちろん、山の常連でも実は知らないことがある機能について聞いた。

 

登山用ザックにあるベルトやヒモの役割

使いやすさや快適性を高める機能が詰まっている登山用ザック


ライターT: 登山用のザック選びについていろいろ伺いましたが、実際に購入したとして、きちんと使いこなせているかという不安が・・・。

横井さん: 特に30L以上の中型・大型ザックになると、何だかよく分からないヒモなどが多いですよね(笑)。それらの役割を理解していないと、背負ったときの体感や疲れ方がずいぶんと変わります。
登山靴のように、明確に「痛い」とまでなりにくいから「まぁ、いいか」で適当に背負ってしまう人もいますが、せっかくなので各パーツの機能を覚えてくださいね。

ライターT: 背負うときに最初にフィットさせるのが、ウエストでしょうか。ウエストベルトの存在は知っていても、きちんと調節できていない気がします。

横井さん: まずは、重い荷物を背負ったときに、腰に荷重をかけるためにもウエストベルト(ヒップベルト、ウエストハーネス)はしっかり安定するように調節しましょう。腰骨あたりでベルトを締めるのですが、そのとき強く締めすぎると体を圧迫したりスレたりするので、ザックがブレない程度に調節してください。

ザックの重さを腰でも支えられるように背負うのがコツ


ライターT: 腰の位置を合わせたら、次は肩の調節ですね。

横井さん: ショルダーハーネス下部に付いているストラップを引いて、肩部分が浮かないように調節します。
ひとつアドバイスすると――、意外と知らない方が多いのですが、ストラップを調節するときはバックル(留め具)を手前(外側)にポンと引くと、ストラップがスルスルと動く構造になっています。さらにバックルを元の位置に戻すと固定されます。ストラップの長さ調節は、ワンタッチでスムーズにできるんですよ!

バックルを外側に引くだけでストラップを緩められることを知らない人は意外と多い!?


ライターT: 背負い心地に関わるのが、ショルダーストラップとザック本体の接合部あたりにある、このヒモですね?

横井さん: これは「スタビライザー」と言います。長さを調節することにより、ザックが後ろ(外側)に引っ張られるのを防ぎます。ザックを体側に引き寄せることで背負いやすくなります。
この調整の意味は、例えるなら、「誰かをおんぶしたときに手を後ろにされるか、前にまわしてもらえるのか」の違いです。前にまわしてもらうと前方に進む力が生まれますよね? スタビライザーを使ってザックを体側に引き寄せるのは、それと同じ役割です。

ライターT: スタビライザーを締め込む、ベストなバランスは?

横井さん: 締めすぎても、肩への擦れがあったり可動域を減らしたりするのでダメです。ショルダーストラップの上部がヨレずに、肩に沿うくらいに調節してください。

スタビライザーは、ショルダーストラップが折れ曲がらない程度に締めて


ライターT: 使い方が難解なヒモ関係だと、胸あたりにあるチェストストラップも使いこなせていない人が多そうです。

横井さん: これは左右のショルダーハーネスの幅を調節し、ザックのブレを軽減させるためにあるものです。チェストストラップが上下に動くことを知らない人が多い。体型によっては、チェストストラップの位置で心臓を締めつけてしまう結果になるので、調整には注意が必要です。

ライターT: 実際には、どの位置にするのが正解なのでしょう?

横井さん: 高さは脇の付け根の少し上あたりで、心臓を圧迫しない位置となります。横位置につては、自分が苦しくない位置にショルダーストラップがくるようにしてください。

 

「ヒモ」は、山で使いやすい工夫の宝庫!

ライターT: 登山用ザックで謎のヒモは、まだまだあります!

横井さん: よく聞かれるのは、ザックの下部にあるループです。これはストック(トレッキングポール)やピッケルなどをザックに装着するものです。左右の下部にループが、雨蓋の下あたりに固定できるゴム紐などが付いていて、ストックの上下をループとゴム紐に固定して外付けできるようになっています。

登山用ザックには、ストックを外付けしやすいループがあるのをご存じ?


ライターT: 私はこれを使うのが面倒で、サイドポケットに入れがちです・・・。

横井さん: まぁ、“絶対使わなくてはいけない”というルールがあるわけではないので、ザックから落ちなければどこに付けても良いでしょう。サイドポケットにもストラップが付いているので、それを締めれば固定できます。
上級者向けの機能になりますが、サイドポケットのフタ部分を覆うようにストラップが付いているます。これは、雪山登山のときにポケットへの雪の浸入を軽減するためです。最近は、ポケットの内側にストラップを配して、よりザック本体をコンプレッションしやすいようになっているモデルもあります。

最近はポケットの内側にストラップを配している。雪山を意識したモデルは、ポケットの上にストラップとなる


ライターT: ポケットまわりのストラップだけでも、いろんな工夫が施されているのですね!

横井さん: テント泊で使うような大型ザックでは、マットを外付けしやすい長めのストラップが配されていることもあります。だらんと長く垂れているように見えるストラップにも、一つひとつ意味があるんですよ。
説明しだすとキリがないので1つだけ触れておくと、両サイドに何本かあるストラップは、荷物のすき間を少なくするためのコンプレッション用です。歩いているときにザックが揺れると体に負担がかかるので、ブレを軽減できるようになります。

ライターT: 全部の機能をちゃんと知って使いこなせると、うんと背負い心地がよくなることも。ぜひ、試してほしいですね。

 

トレラン向けではザックの進化形も

ライターT: パーツの機能が分からないどころか、最近では、そもそも背負い方も分かりにくいほど進化したザックもありますね。

横井さん: トレイルランニングの流れもあって、かなり個性的なザックもでています。たとえば「パーゴワークス」のベスト型です。これは、そもそもライト&ファストの考え方で作られているので荷物も軽い想定で、腰に荷重をかけられないデザインですが、ショルダー部分がワイドなので荷重は肩まわりで分散でき、バランスよく持てるようになっています。

トレラン用に作られた「パーゴワーク」のベスト型のザック


ライターT: トレラン用のものは、独自の進化を遂げていますね。

横井さん: ここまでくると、相当な上級編です。自分がどういうシーンでどのように使いたいかを具体的にイメージして選ばないといけないし、そもそも使いこなせない(笑)。

ライターT: 初心者はまず、基本的なザックの使い方を覚えたほうがよさそうです!

横井さん: そう。繰り返しになりますが、背負い方が合っていないと、せっかく工夫が凝らされたザックの本当のよさが分からないこともあります。
よほど体型にフィットしていない限りは、最終的には好きなデザインや色で選んでも大丈夫です。ただし、きちんと正しい背負い方をすること! それだけは忘れないでください。

* * * *

ある程度は「好みのデザインで選んでもいい」という、買い手としてはうれしいコメントもでたザック選び。何を選ぶかはあなたの登山スタイル次第だが、考え抜かれた優れた機能をしっかり享受するために、背負い方やパーツの役割はしっかり覚えておこう。

 

プロフィール

横井 亮

カモシカスポーツ 山の店・本店勤務。カモシカスポーツのザック担当。オフロードバイクからアウトドア生活が始まり、いつしか山を歩くことにも目覚める。今では百名山への挑戦、縦走登山、クライミング、沢登り、スキーなどをマルチに嗜む。 ザックは15個くらいをアクティビティに合わせて使い分け、自らの体験に基づくリアルな使い心地を伝える。

カモシカスポーツ 山の店・本店

登山用のウエア、靴、ザックからクライミングや沢登りの道具まで幅広く扱う専門店。登山のベテランもうなる実用的なセレクトが多く、初心者がステップアップしても長く使えるものが豊富に。フィールドでの経験値が高いスタッフが、細やかなアドバイスをしてくれる。
住所/東京都新宿区高田馬場1-28-6
TEL/03-3232-1121
営業時間/11:00~20:00(土日祝は~19:00)
アクセス/JR山手線・西武新宿線・地下鉄東西線高田馬場駅より徒歩3分

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