大きくて深い山脈――。南アルプスの特徴を知って、ちょっと“大人な”山行へ
長い長い梅雨がようやく明け、一気に夏らしくなってきました。やっぱり夏はアルプスへ!そんなことをお考えのみなさん。南アルプスの魅力を知って、より楽しい山行に出かけませんか?
南アルプス――それは、長野県・山梨県・静岡県に連なる赤石山脈一帯の総称である。特色は、なんといっても山ひとつひとつの存在感。北岳や仙丈ヶ岳、塩見岳、赤石岳――、大きな山体をもつ3000m峰が広い範囲に連なる姿は雄大そのもの。
今回はそんな南アルプスの特徴をさまざまな角度から見て、その魅力をダイジェストでお伝えしよう。
とにかく大きくて深い山脈
日本の3000m峰は、富士山を除けば、すべて北アルプス(10座)と南アルプス(9座)に存在する。その数こそ同程度だが、面白いのが各3000m峰の位置間隔だ。北アルプスは槍・穂高連峰の約8㎞に8座が集中しているに対して、南アルプスは仙丈ヶ岳から聖岳の約30㎞に9座が広範囲に連なっている。
これは、一座一座が離れていることを意味している。つまり各山への登高差が大きく、アプローチが不便で気軽には登れないともいえる。この不便さが、裏を返せば南アルプスの魅力の一つでもある。確かな体力とプランニングをもった人にしか味わえない山々・・・、そこには静かで大人な時間が流れ、登頂の感動はひとしおのはずだ。
今も活発な造山活動
南アルプスは、海洋プレートと大陸プレートの衝突によってできている山脈。なんと、現在でも一年に約4㎜ずつ高くなっており、この隆起の速度は世界のなかでも最速級だという。2014年には、間ノ岳の標高が3189mから3190mに変更され、奥穂高岳と並び日本第3位の高峰となったのは記憶に新しい。
この造山活動は、南アルプスに残された氷河地形からも見ることができる。約10万~1万年前の氷期に形成されたカール(氷河の侵食作用によってお椀状にえぐられた地形)やモレーン(氷河によって削り取られた土砂などが堆積した地形)は、現在森林限界より上部で多数認められている。
特に、荒川三山や赤石岳周辺のカールは、最終氷期に形成された日本に残存する「氷河地形の南限」と言われているので、ぜひ一度目にしておきたい。
雨が育む豊かな自然
太平洋に近い南アルプスは、海洋の湿った空気が流れ込むため、多量の雨が降るのも特徴だ。この雨は、豊かな自然を育み、特産種であるキタダケソウをはじめとする希少な高山植物たちの生息地となっていて、一面のお花畑も楽しめる。
緯度が低く森林限界点が上昇しているため、標高2700m前後まで森林が形成されているのも、南アルプスならでは。山頂付近にまで広がる色濃い緑と登りつめたあとの雄大な景色に優美なひとときを感じたい。
歴史ある登山文化
鳳凰三山・地蔵岳のオベリスクに寄りそうように安置された小石仏群や、甲斐駒ヶ岳の黒戸尾根に残る多くの石碑や石仏――。登拝の歴史の痕跡が各所に現存している南アルプスは、実は古くから信仰を集めてきたエリアである。
また、山里の文化が色濃く残るのも特徴。井川周辺や大鹿村などでは、人と自然が共存する原風景を見ることができるだけでなく、かつて中世に行き来した宗教者や隠れ潜んだ落ち武者が取り入れた、独自の芸能文化も楽しめる。登山の前後に里山の伝統文化に触れるのもおすすめだ。
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今回紹介したのは、発売中の「山と溪谷8月号」の特集・南アルプス/エリア特徴から。
本誌では、南アルプス北部、南部、深南部・安倍奥の3つのエリア別に、充実したコースガイドとその魅力を紹介している。
特に、深南部・安倍奥編ではふだんはなかなか取り上げられないコアな魅力を詰め込んでいる。
付録の南アルプス南部と北部のマップはコースタイム付きなので、山行計画にも役立つだろう。
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。
From 山と溪谷編集部
発刊から約90年、1000号を超える月刊誌『山と溪谷』。編集部から、月刊山と溪谷の紹介をはじめ、様々な情報を読者の皆さんにお送りいたします。