雷は決してゲリラではない! 雷を事前に予測して山でのリスクを最小限にしよう

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

夏山シーズンに最も気をつけたい気象の1つに雷がある。「気をつける」といっても、どのように気をつけたら良いのだろうか。いちばんの対策法は、雷に遭わないようにすることだが、どうすれば雷の発生を予想できるのだろうか? 今回は、雷の予想法・対処法について説明する。

 

ヤマケイオンライン読者の皆様、山岳防災気象予報士の大矢です。2019年は7月31日に東北北部まで梅雨明けして、気象庁が梅雨明け発表をしている全ての地域が梅雨明けしました。

気象庁の8月1日の週間予報資料では8月7日頃まで、地上の太平洋高気圧と500hPa(上空約5800m)の亜熱帯高気圧のダブル高気圧に覆われるため、梅雨明け早々の猛暑が1週間は続く予想で、現在、その通りになりつつあります。

その後は太平洋高気圧が弱まる見込みですので台風の接近が懸念されれいたのですが、8月1日の予報資料より早く太平洋高気圧の張り出しが弱まったところに台風8号から10号まで立て続けに発生しています。8月6日に発生した台風10号は、お盆頃に日本付近に接近または上陸の可能性がありますので、今後の台風情報にご注意ください。(台風については次回以降の記事でご紹介いたします)。

今回は、夏山の天気で最も怖い雷をいかに事前に予想するか、そして現地でどう対応すめるかについてお話ししたいと思います。

 

「晴れマーク」に騙されず、予報文や天気概況も確認

まずは下の写真をご覧ください。これは、2018年8月27日の東京での落雷の瞬間を捉えたものです。右側にある積乱雲からいったん横に稲妻が走ってから、下に落雷していることにご注目ください。

Facebook友人の柳田文華さんご提供


山岳地帯では、この写真のように、雷は上からだけではなく横から、そして下から飛んでくることもあります。そして、直接、自分自身には落ちなくても、高い木に落ちた雷が真横から側撃となって飛んでくることもあります。

例えば、2012年8月18日の槍ヶ岳の落雷事故(1名死亡)と、同日の大阪・長居公園での落雷事故(2名死亡)は、まさにその事例でした。槍ヶ岳はその穂先自体が避雷針となって、登っていた登山者に頂上に落ちた雷による電撃が襲いました。一方の大阪の事例では、木の下で雨宿りした2人の女性をその木の落ちた稲妻が横から襲いました。

最近でも、関東甲信地方が平年より8日遅く梅雨明けした7月29日(月)は、湿った空気と猛暑の影響で大気の状態が非常に不安定になって雷を伴って局地的に激しい雨が降っています。

下図は2019年7月29日の6時から18時までの気象庁の降水レーダー画像を動画にしたものです。通常は気温が上がる午後から積乱雲が発達して雷雨になるケースが多いのですが、この日は朝の6時から9時の段階で、すでに北陸などが局地的に激しい雨になっていて、午後になると激しい雨になっているエリアが大きく広がっていることが分かります。

2019年7月29日、6:00~18:00までの降水レーダー画像(気象庁ホームページより)


このように朝から雷雨になる場合は、

  • ①非常に湿った空気が入っている
  • ②強い上空寒気が入っている
  • ③低気圧や寒冷前線が通過した

の3つのケースが考えられます。この時は、下にある15時の地上天気図からも分かるように、日本付近への太平洋高気圧の張り出しが弱いために、太平洋高気圧の縁を時計回りに熱帯からの非常に湿った空気が入って大気の状態が非常に不安定になっていました。

2019年7月29日15時の天気図


「早立早着」は夕立を避けるための夏山の鉄則ですが、必ずしも当てはまらない場合があることを知っておいてください。

実は、当日の朝5時の気象庁の天気予報では、この天気はしっかりと予想されていました。下は中部山岳がある長野県の天気予報ですが、まず左下の予報文と降水確率にご注目下さい。

2019年7月29日の長野県の天気予報(気象庁ホームページより)


長野県北部は「くもり 昼過ぎまで時々晴れ」ですが、6時から12時までの降水確率は40%です。午前中には雨の記載はありませんが、40%の確率で雨が降ると言っています。さらに天気概況を見ると、「曇り、昼過ぎまで時々晴れで、雨や雷雨となる所がある」と明記されている点です。5時の天気予報でここまで読んでいれば、中部山岳北部で朝から雷雨になる可能性も読み取れたのです。

「お天気マーク」に騙されてはいけません。午後からは局地的に激しく降る雨や落雷に注意すべきであることも記載されているのです。天気予報は、普段からお天気マークだけでなく、予報文や天気概況まで目を通すようにしてください。

また、天気予報は「鮮度が命」です。毎日5時、11時、17時の3回発表されますので、常に最新の天気予報を見ましょう。最新の観測データを基にして、天気予報は刻々と変わっていきます。

 

「雷注意報」と「高解像度ナウキャスト」も確認

雷の危険度を知るには、気象庁の雷注意報も有効な手段の一つです。この日は下図のように、北海道から奄美までの全ての地方で雷注意報が出ていました。

2019年7月29日の雷注意報の様子(気象庁ホームページより)、47都道府県すべての地域が黄色(雷注意報)になっているのが確認できる


これは結構レアなケースです(思わず会社の昼休み中にスマートフォンでスクリーンショットしました)。このように全国的に雷注意報がでたとしても、実際には先ほどの降水レーダーの動画でご紹介しましたように、激しい雷雨になるエリアは局地的です。例えば長野県であれば、雷雨にならない山域もあります。

ただ、どこかでは雷雨になっていますので天気予報は当たっています。仮にこの日に山に登っていて雷に遭遇しなかったとしても、単にラッキーだったと思うようにしてください。もし予報が当たって、落雷を受けたら取り返しがつかないことになるからです。

 

続いて現地での雷の把握について説明します。昔ながらの手段としては「観天望気」、「AMラジオの雑音」などがありましたが、今は気象庁ホームページの「高解像度ナウキャスト」で従来の降水レーダーより詳細な情報を得ることができます。スマートフォンでも確認できますので、是非ともご活用ください。

高解像度ナウキャストの使い方を簡単に説明しておきましょう。

  

高解像度ナウキャストの画像(気象庁ホームページより)


上記の画像はいずれもスマートフォンからスクリーンショットしたものです。最初の図が初期画面を中程度まで拡大したものです。

もう少し拡大すると山の形が陰影で分かる優れもので、降水レーダーより高解像度の降水分布が分かります(赤いほど強い雨)。

画面下にあるアイコンボタンでさまざまな画面へと切り替えが可能です。例えば、左から2つ目(雲+矢印)を押すと、2つ目の画像のように、実線で現在の強い雨のエリア、点線で30分後の強い雨のエリアの予想が表示されます。画面では実線と点線がほぼ一致していますので、雷雲が移動せず30分ぐらいは雷雨が続く予想であることを意味しています。

左から4つ目のアイコンボタン(雷マーク)を押すと、雷の状況が表示されます(3つ目の画面参照)。は対地放電(地面に雷が落ちる、つまり落雷のこと)、は雲放電(雲の中で雷電が走る)を示しています。

注意が必要なのは雲放電で、平地では雲放電であっても、山の中にいて雲の中にいる場合は雷電が飛んでいるかもしれないことです。

もし自分がいる山域で雷の危険が迫ってきたら、すぐに以下の行動を取りましょう。

①雷は高い所に落ちるので自分が一番高くならないようにしましょう

尾根にいたら少しでも尾根より低くなるように下る、広い平坦地だったら近くの小屋に避難、なければ姿勢を低くしてしゃがむなど。しゃがんだ時は、両足の間隔を狭くして、お尻はつけないようにします。足を広げると、両足の間で電気が流れてしまいます。

②高い木からは4m以上離れましょう

4mを超える高い木なら、4m以上離れて木のてっぺんを45度以上見上げる範囲内なら、木が避雷針となって保護範囲となります。

 

とは言っても、雷の危険がある時はできるだけ行動を控えた方が良いと思います。宝くじと違って、雷は当たったても何も良いことはありません。

1 2

プロフィール

大矢康裕

気象予報士No.6329、株式会社デンソーで山岳部、日本気象予報士会東海支部に所属し、山岳防災活動を実施している。
日本気象予報士会CPD認定第1号。1988年と2008年の二度にわたりキリマンジャロに登頂。キリマンジャロ頂上付近の氷河縮小を目の当たりにして、長期予報や気候変動にも関心を持つに至る。
2021年9月までの2年間、岐阜大学大学院工学研究科の研究生。その後も岐阜大学の吉野純教授と共同で、台風や山岳気象の研究も行っている。
2017年には日本気象予報士会の石井賞、2021年には木村賞を受賞。2022年6月と2023年7月にNHKラジオ第一の「石丸謙二郎の山カフェ」にゲスト出演。
著書に『山岳気象遭難の真実 過去と未来を繋いで遭難事故をなくす』(山と溪谷社)

 ⇒Twitter 大矢康裕@山岳防災気象予報士
 ⇒ペンギンおやじのお天気ブログ
 ⇒岐阜大学工学部自然エネルギー研究室

山岳気象遭難の真実~過去と未来を繋いで遭難事故をなくす~

登山と天気は切っても切れない関係だ。気象遭難を避けるためには、天気についてある程度の知識と理解は持ちたいもの。 ふだんから気象情報と山の天気について情報発信し続けている“山岳防災気象予報士”の大矢康裕氏が、山の天気のイロハをさまざまな角度から説明。 過去の遭難事故の貴重な教訓を掘り起こし、将来の気候変動によるリスクも踏まえて遭難事故を解説。

編集部おすすめ記事