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北海道・大雪山国立公園の荒廃した登山道を「近自然工法」で再生へと導く「大雪山・山守隊」

日本山岳遺産基金レポート
たしなみ 2019年09月16日

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために設立された「日本山岳遺産基金」。これまで日本全国の計30箇所を日本山岳遺産として認定してきた。ここでは、認定地で活動する団体をとりあげ、活動のコンセプトや実際を紹介していく。今回は、「近自然工法」という発想をとりいれ、山の道を守る活動をしている「大雪山・山守隊」だ。

★前回記事:登山地の昨日・今日・明日と日本山岳遺産基金の役割

 

大雪山という山名は、登山をしない人にもよく知られているだろう。この山一帯は大雪山国立公園に指定され、総面積2268平方キロメートルの日本最大の国立公園となっている。ちなみに大雪山という名のピークはなく、道内最高峰の旭岳(2291m)をはじめとする多数の山の総称が大雪山だ。

北海道の屋根とも呼ばれる大雪山には総延長300kmもの登山道があり、北海道、林野庁、環境省などの行政が管理している。しかし広大ゆえ十分に管理が行き届かず、さらに近年は大雨の増加で荒廃の速度が保全よりも早く、訪れた登山者からも「整備不足」を指摘される状況になっているという。

そんな中で、熱心に山の道を守る活動をしているのが「大雪山・山守隊」だ。2011年、有志によるプロジェクトとして活動が始まった。2018年3月には一般社団法人に改組して活動の幅を広げ、現在では定期的に登山道整備イベント「たまには山に恩返し」を行っている。当初は一部の熱心な有志による活動だったものが、積極的な活動に支援の輪も広がり、現在では1つのイベントに50名を超えるボランティアが集まるほど、活動は活発化している。

 

登山道整備イベント「たまには山に恩返し」

それでは、実際に、大雪山・山守隊の「たまには山に恩返し」では、どんな活動を行っているのか、例を見てみよう。

■黒岳・雲の平での登山道の保全活動

2016年に北海道を襲った豪雨で、この一帯はかつてないほど道が削られてしまったという。そこで翌年の7月。登山道整備イベント「たまには山へ恩返し」を同エリアで開催した。

「雲の平の登山道は、多くの高山植物の咲く場所にあります。豪雨により今までにないほど道は削られ、削られた土砂が高山植物帯を埋めてしまいました。しかし、少し堀り出してみると、土砂の中で植物が青々と生きていました。

この崩れの原因は、その前年(2016年)に施工された土留めや段差処理の施工物がこの付近の地質に合わず、侵食を拡大させた可能性がありました。

植物を助けるために58名の方が参加し、みんなで崩れを止め、汗を流して作業をしました」

植物の救出作業。植物を傷つけないように、小さなクワで丁寧に堆積した土を取り除く

さらに2018年には施工後の変化を観察したうえで路床保護作業を行った。

「2018年は、路床保護が主な作業になりました。これは前年の作業に続いて必要な作業です。ヤシネットに土壌を詰め、のり巻き状にして法面や土留めの下段に設置します。上から流れてくる土砂を堰き止め、土壌を定着させることで自然の再生を促すのが目的です。施工箇所は、約50m。前日に雪の降る寒い中でしたが、抜群のチームワークで予定通りの作業が行えました」

登山道の施工前(左)後(右)の様子。ヤシネットや土嚢袋で土砂を堰き止め定着させる

 

■旭岳・裾合平での登山道の保全活動

広大なお花畑が広がる裾合平には約2kmの木道が敷かれているが、施工から20年も経っていて、その後は手が入ることなかったために現在はボロボロ。一部では転倒などしてケガ人がでる危険な場所になっていたという。

「裾合平での活動が8年目となる2018年は、危険箇所の木道の撤去と新しい木材の付け替えを行う必要がありました。木道の施設工事は資材や工具が多く必要で、参加者全員で分担し現場までの山道を運びます。資材重量は最大で一人20㎏ほどにもなりました」

裾合平まで、約3kmの荷上げ(上)、木道設置の様子。木材を切り出すところから設置まで(下)

「木道が機能するためには、上物の修繕だけでなく、基盤となる土壌自体の復元が必要です。この年は、歩行路に新素材『ジオウェブ』の埋め込みも試みました。木道そのものが壊れにくく長く利用できるように、‟現場に合わせた最低限の施工”を常に考えつつ、できるだけ景観を変えないよう努力しています」

新素材「ジオウェブ」を使った歩行路(左)、侵食原因を理解せずに設置され崩れてしまうケースも(右)

 

持続可能な登山道維持活動のために

どの整備活動においても、大雪山・山守隊が大切にしているのが、「近自然工法」の考え方だ。これまでは、登山道を直すときは「土木工事」の考え方が基になっていて、登山道はコンクリートや石畳路面など、自然界に存在しない構造物による施工となっていたという。一方で、近自然工法は、「どんなに崩れてしまった場所でも、そこにいる生態系の底辺が住める環境を復元させれば、おのずと生態系が出来上がる」という発想だ。

こういった活動を維持していくために、大雪山・山守隊は、2018年に日本山岳遺産基金に申請。営業小屋のない山域で、持続可能な登山道維持活動を模索・継続している点、行政や研究機関と協働し、一般のボランティアも巻き込みながら活動を広げていこうとしている点が評価され、大雪山は、日本山岳遺産に認定され、山守隊には助成金が拠出された。

自然は本来作られるものではなく、成り立っていくもの。構造物を作るというよりは、自然が成り立っていくためのきっかけを作っていく。生態系が復元して自然が再生していくことを目指して、大雪山・山守隊は今日も活動を続けている。

★日本山岳遺産認定地 詳細:大雪山 黒岳 [ 北海道 ]一般社団法人 大雪山・山守隊(2018年)

教えてくれた人

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行う。 https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

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