高山植物の楽園、北海道・大雪山。豊かで変化の大きい自然環境に咲く花たち――

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今年は花の当たり年だったという高山植物の楽園、北海道・大雪山。夏の短い北海道にあって、8月初旬にはもう秋の足音が聞こえてきていたが、植物たちは足早に花を付け、その美しい姿を見せてくれていた。

 

大雪山は、世界的に見てもすばらしい花の名山だ。ただ花が多いだけではない。大雪山だけにしか咲かない珍しい固有種から、雪渓の融けたあとにどこまでも続く広大なチングルマのお花畑、たおやかな稜線で強風に吹かれるコマクサまで、豊かで変化の大きい自然環境が次々と現れる。

今年の大雪山の花はとてもよいと聞いて、7月末と8月上旬の2回、大雪山に登った。確かに花はたくさん咲いていた。8月になっても雪渓の近くでは初夏の花のエゾコザクラが咲いていた。

初夏の花エゾコザクラ、雪渓のそばにはまだ蕾がたくさんあった


しかし全般的にはもう秋の花が咲き始め、ミヤマアキノキリンソウ、エゾオヤマノエンドウなどの秋の花がどんどん咲いていた。8月初旬の大雪山は、初夏から夏、秋の花まで楽しめる。

大雪山で大群落になる花といえば、チングルマ。大雪山では、多くのチングルマがすでに花が終わって果実になり、長い綿毛を伸ばしていた。ふわふわ綿毛の絨毯が広がる大雪山。この状態も私の大好きな景色になる。

チングルマの綿毛の群落の中にはミヤマアキノキリンソウが咲いていた


この中に数本のミヤマアキノキリンソウが咲いていた。雪渓のそばに残っていたチングルマは、群落になっていた。花は白く、花弁の中心には黄色い部分がある。

チングルマの花。雪渓のそばでは、まだしばらく花が咲く


今回の目的のひとつが、ヨコヤマリンドウという珍しい高山植物を見ることだ。日本では大雪山の一部にだけ生えている。あまりに地味な植物なので、近くに立っていても、植物好きでもなかなか気が付かないほどだ。個体数も少ない。草丈はわずか3~12cm。しかし、モスグリーンと群青色が混じった花色はとても美しい。花の先端はわずかに開く。

大雪山だけに咲くヨコヤマリンドウ、よく見ると花の先端が開いている


もうひとつの大雪山らしい花といえば、エゾノツガザクラ。紅紫色で下向きに咲く壺型の花が大群落となり、山を紅色に染める姿ははるか遠くからでも眺められるほど。エゾノツガザクラはツツジ科の植物。小さいけれども、れっきとした木である。

エゾノツガザクラ、アオノツガザクラとノ雑種であろうか? 色が薄い


また、ユキノシタ科のチシマクモマグサは高山帯の礫地に生える。葉には毛がたくさんはえている。咲きたての子房は淡い黄色であるが、熟すと赤みを帯びて膨らんでくる。このような変化が見えるのもおもしろい。

チシマクモマグサ、葉に切れ込みがなく毛が多いのが特徴


大雪山――、すばらしい高山植物の楽園だ。この高山植物の楽園が楽しめるのはあと少し。8月中旬には紅葉が始まり、大雪山の高山帯は8月下旬には秋になり、9月になれば雪がそろそろ降るだろう。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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