着地と姿勢を変えると膝の負担が変わる――、姿勢を直して膝痛対策

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登山者の身体の悩みで最も多いのが膝痛。その要因の1つに「姿勢」がある。今回は、着地時の方法と上半身の姿勢に着目して、膝痛になりにくい歩き方について説明する。

 

前回の記事で、猫背や巻き肩などの姿勢の崩れが前屈み姿勢につながり、下りの着地時の衝撃が強くなり、膝関節への負担が大きくなることについて触れました。

★前回記事:登山者の最大の身体トラブル「膝痛」は、大腿四頭筋の負荷軽減で改善できる!

今回は、そうした膝痛の要因となる、下山時にスピードを制御しにくい歩き方、特に着地のしかた、上半身の姿勢について解説したいと思います。

 

どのような着地をしていますか?

現代生活では靴を履いて歩く機会が多く、そのため靴底のクッションが利用できるため踵着地・踵重心で歩く人が多い傾向があります。

これに対して、草履や下駄で舗装路を歩くことをイメージしてみてください。靴底が薄くクッション性が低い分だけ、足裏全体で「フラット着地」することになります。靴を履いている時のように踵着地が出来なくなって、必然的に歩幅を小さくする様子をイメージできるでしょうか? これは裸足で歩く場合も同じになります。

このように、靴中心の生活を送る分、現代人はフラット着地で歩く機会が少ないうえに、慣れていないので踵着地になりやすいのです。近年は、ウォーキングでも「踵着地はNG」と指導されるようになっていますが、踵着地は効率の悪い歩き方で、トラブルの原因になります。

市街地を短時間歩くだけならトラブルは起こり難いですが、下山時の着地衝撃は大きいため、どんなに登山靴のクッション性が向上しても靴の能力だけで着地衝撃を吸収することは不可能です。

踵着地と比較すると、フラット着地は足関節(足首)を大きく使うため、衝撃がダイレクトに膝関節に伝わることを防ぐことが出来ます。自分自身の足が持っている衝撃吸収能力を発揮させるためにも、踵着地ではなく足底全体でのフラット着地が必要になるのです。また、大きな段差を下る際には、誰もが爪先から着地を行って衝撃を吸収させて歩いた経験があると思います。

足関節の角度が30~40度異なる。足関節が動いた分、膝関節への負担は減る


このように、足裏のどの部分から着地するかで、着地衝撃の受け止め方が変わってきます。

下山時に膝関節に負荷が集中しないためにも、日頃からフラット着地で歩いたり、階段を爪先着地で下りる練習をしたりしておくと、登山のトレーニングになります。

 

どんな姿勢で歩いていますか?

次に姿勢に着目してみましょう。ふだんの生活では長時間デスクワークをする方が多いため、肩が前に出る「巻き肩」や頸椎の湾曲が無くなる「ストレートネック」になる方が増えています。このように身体重心よりも、肩や頭部が前方に出ていると、その代償として背中が丸くなる「猫背」や「骨盤後傾」の姿勢になりやすくなってしまいます。

ザックを背負うため登山では前屈み姿勢になりやすい。写真左では猫背・骨盤後傾だけでなく、肩が前に出る「巻き肩」にもなっている


皆さんはこのような姿勢で歩いていませんか?

 

歩行姿勢チェックポイント1(日常編)

街や家の中でも構いません、肘を出来るだけ曲げないように腕を振りながら平坦地を5mほど歩いてみて下さい。前後均等に振り子運動をしていれば問題ありません。前方の動きが大きく、後方への動きが小さい方は、肩や背中などどこかで姿勢の崩れがありませんか? 

 

そして、この腕の振りの前後差と同じことが脚の振りでも起こっています。前方への脚の動きが大きければ大きいほど、フラット着地をしたくても、踵着地になりやすくなってしまいます。

歩行時は身体重心よりも後方で脚を動かすのが理想的な歩き方です。それが出来ていなくても、登りや平坦地では推進効率が悪くなるだけでトラブルにはつながりにくいですが、下りではスピードが制御しにくい歩き方であるため、膝関節などへの負担が避けられなくなるのです。

思い当たる姿勢の崩れがある場合、姿勢を矯正することで歩き方を改善することが出来ます。

 

歩行姿勢チェックポイント(登山編)

次に、山でザックを背負っている時、皆さんはどのような姿勢になっているでしょうか? 次回山に行った際には、ウエストベルトを締めた状態でザックを背負い、その上で背中とザックの間の隙間の幅を確認してみてください。

背中とザックの間の隙間の幅を確認してみよう!


背中が丸まって背筋が曲がっていると、その分重心が前方にズレます。登りでは特に問題はなくても、後ろ足で荷重を支えて下ることが出来ず、スピードを制御出来ず、着地衝撃が大きい歩き方になってしまいます。また、骨盤後傾していると股関節の動きも悪くなるため、段差を下りる際に重心が安定せず、バランスを崩しやすくなる原因になります。

背筋が曲がる癖がある方は、日常の座り姿勢や立ち姿勢を見直すことで、歩き方を改善することが出来ます。

 

今回説明した巻き肩、猫背、骨盤後傾、踵着地は、相関関係があるため、どれか一つ症状があると他の症状も繋がりやすくなります。特に、こうした姿勢の癖は登山時だけでなく、日常生活の中で見についている可能性が高いですので、日頃から姿勢を見直すことが歩き方の改善に繋がるのです。

膝痛や大腿四頭筋への過度な負荷が起こる原因は、1つとは限りませんし、人それぞれです。原因が複数ある場合もありますので、膝痛に悩んでいる方は、まずはこれらの原因を1つずつクリアにしていきましょう。今現在、膝痛は起こっていない方でも、今回指摘したような姿勢の癖がある場合は、安定した歩行を実現するために、姿勢矯正をすることで安全で安定した歩行につながります。

次回は、歩行姿勢を崩さないトレッキングポールの使い方について解説します。

なお「山の歩き方講習会」を定期的に開催しています。詳しくはホームページをご覧ください。

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方の密接に結びついている。 あるき方を頭で理解して見つめ直せば、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術に近づいていく。本連載では、写真・動画と一緒に、歩き方を論理的に解説。

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