ヒルは木から落ちてこない、すべて地面から登ってきたもの! ヤマビルについて正しく知ろう

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はじめまして。三重県の鈴鹿山脈の麓で、「子どもヤマビル研究会」という団体のコーディネーターをしている樋口大良です。

「子どもヤマビル研究会」は、自然や生き物が大好きな小中学生数名が集まって、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している団体で、毎週研究会を開いています。指導者はいなくて、全員が対等の研究者として活動しています。

今回、「ヤマケイオンライン」のコラムコーナーをお借りして、これまでヤマビルについて研究してきた成果を発表させていただきます。

登山者にとっては、苦手、嫌い、気持ち悪い、という「ヤマビル」ですが、生態を知ることで、苦手意識が少しでも減れば、いざという時にも、冷静に対処できるのではないかと思います。

 

「ヒルは木から落ちてくる」というウワサの真相を探る

「ヤマビルは木から落ちてこない」。この研究成果を発表したのは、2018年2月に行われた、「三重生物研究発表会」でした。この発表により、「子どもヤマビル研究会」は、三重県博物館長賞を受賞しました。

これまで「ヒルは木の上から落ちてくる」と言われていましたが、私たち「子どもヤマビル研究会」では、そのような場面には出くわしたことがないし、自然の理屈に合わないと考え、2015年以来、研究を続けてきました。

その結果「ヒルは木の上から落ちてくることはない」という結論に達しました。今回はそのウワサの真相を私たちの研究成果から紐解いてみたいと思います。

まず、「ヒルが木から落ちてくる」というウワサの根源を調べてみると、小説『高野聖』(泉鏡花著、1900年)に、「ヒルは木から雨のように降ってくる」と書かれています。

この小説は、全国で広く読まれたので、世の中でそのように信じられて行ったと思われます。最近では、山登りのガイドブックなどに、「ヒルは上から落ちてくるので首筋のガードを」と書かれているものが見られます。

「ヒルが木から落ちてくる」がどのくらい信じられているのかと思い、2017年6月に名古屋で行われた「夏山フェスタ」の来場者100人にアンケートをとったところ、「ヒルは木から落ちてくる」という回答が69%もありました。そして「それはどこから聞きましたか」という問いに対して57%の人が「他人から聞いた」と答え、「本」からは27%でした。「落ちてこない」と答えた人は、わずか3%でした。いかにうわさで広まっているのかがわかります。

 

「ヒルは木から落ちてくるか?」 ヒルの生態を調査

このように、ヒルは木の上に棲むとか、動物や人を見ると上から落ちてくる、という話となって広まっているようでした。

そこで、われわれは「ヒルが本当に木から落ちて来るのか」、実験で確かめてみることにしました。

(1)いつもヒルを採集している藤原町(三重県北部)の林道でブルーシートを敷き、周囲からヒルが入ってこないようにシートの周囲にヤマビル忌避剤を散布します。その上で3時間ほどヒルが落ちてこないかと待ちました。

シートの周囲に忌避剤を散布する


結果は、一匹も落ちてきませんでした。晴れの日と雨の日とやってみましたが、結果は同じでした。

落ちて来たのは、水滴や木の実など、ヒルと錯覚しそうなものばかりがいくつも落ちてきました。ブルーシートの外側には、たくさんヒルがいるのに、上からは全く落ちてきません。

傘を構えて3時間。シートに葉っぱは落ちてきたが、ヒルは落ちてはこなかった


(2)実験の2つ目です。雨の日にカッパを着て、足元を粘着テープですき間のないように巻いて、ヒルが侵入しないようにします。そして、ヒルがたくさんいるところを歩き回ります。10分くらいで、足を登るヒルや腰のゴムのところから体の中に入り込もうとするヒルが数匹見つかりました。これは、みな足元から登ってきたものでした。

腰の隙間から侵入しようとするヒル


(3)次に、ヒルを木に登らせる実験をしました。地上1mくらいのところにヒルを付けて観察しました。5匹中1匹のみが、木を登りましたが、ほかは全て下りて行きました。

木を濡らしても結果は変わらなかったです。唯一登っていったヒルは、周囲で見ている私たちの呼気に反応したようで、2mくらいまで登り、落ちて行きました。

ヒルを木に付けてみると…


(4)次の実験では、部屋にブルーシートを敷いて、ビニル袋に入った研究員を座らせ、周囲に数十匹のヒルを放しました。

研究員に気付いたヒルは、近づいて登り始め、数分で腕や肩などに到達しました。このことから、ヒルは下から登ることで、腕や肩まで到達することが確認できました。

ビニール袋に入っての実験。ヒルはあっという間に登ってくる

 

実際に首筋を吸血される理由は?

特に雨の日ですが、ヒルに首筋を吸血されたという話をよく聞きます。カッパの裾にくっついたヒルは、そのまま登り続け、首筋まで数分で到達します。

休憩時に地面に腰を下ろせば、腰から簡単に登ることができますし、リュックや帽子を下に置けば、それに付いてきて、簡単に首に近づくことができます。首は他と比べてガードが甘く、ヒルから見れば絶好の吸血場所となります。

首筋を吸血された人は「上からポタっと落ちてきて、手をやると丸々太ったヒルがいた」とよく言いますが、ヤマビルは、吸血して丸々太るまでに30分から1時間くらいかかります。ですから、かなり前から首筋で吸血していたのに気づかなかっただけなのです。

ヤマビルについての生態を研究し、実験してきた結論として、「ヒルが木から落ちてくる」というのは思い違いで、すべて地面から登ってきたものなのです。

ヒル研では、通常、足首に忌避剤を振りかけて活動。これで確実に防げる


次回は「ヒルは何に反応して集まってくるの?」を紹介します。

プロフィール

子どもヤマビル研究会

「子どもヤマビル研究会」は、三重県の鈴鹿山脈の麓で、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している団体です。自然や生き物が大好きな小・中学生数名が集まり、身近な自然を観察し、そのしくみを解き明かしていく中で科学する心を身に付け、将来の科学者を志す子を育てたい、身近にいるヤマビルを使って、科学の手法を会得し、自然の不思議さ、偉大さやを理解して、自然に対する畏敬の念を育んでもらいたいという、子ども主体のとてもユニークな研究団体です。

活動はブログでも公開しています ⇒子どもヤマビル研究会

活動が書籍になりました ⇒『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』

「子どもヤマビル研究会」によるヒルの生態研究

「子どもヤマビル研究会」は、自然や生き物が大好きな小中学生数名が集まって、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している。 登山者にとっては、苦手、嫌い、気持ち悪い「ヤマビル」でも、その生態を知れば、苦手意識が減り、いざという時にも冷静に対処できるのでは、という思いから、これまで研究してきた成果を伝えていく。

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