「自分に何かできることはないか」という想いから発足。栃木県鹿沼市・岩山の安全を守る「機動パトロール隊」の若者たち

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栃木県鹿沼市にある岩山は標高328mながら、豊かな自然と本格的な岩峰歩きが楽しめる人気の山だ。今回は、2018年に日本山岳遺産に認定された岩山で活動する「機動パトロール隊」を紹介する。2008年、当時中学一年生だったひとりの学生が立ち上げた本団体。その設立の経緯、活動の中身は、実にユニークで興味深い。

★過去記事:登山地の昨日・今日・明日と日本山岳遺産基金の役割

山の魅力は山の大きさとは必ずしも比例しないものだ。そしてそれは危険性もまた同じ、身近な山にも危険は潜んでいる。栃木県鹿沼市の市街地に隣接してそびえる岩山も、そんな場所だ。

標高328mと低く、交通の便がよいため、市民のハイキングコースとして利用されている。一方で、鎖やハシゴを利用する難所が点在し、初級~上級のコースが入り組んでいたり、岩質が滑りやすい凝灰岩だったりするため、降雨後は非常に滑りやすい。山頂近くには、「猿岩下り」と呼ばれる、70mほどの一枚岩を鎖で降りる、技術も体力も必要とするコースが存在する。事実、年に2、3件の滑落事故や遭難事故が発生しているという。

岩山の高台より市街地を望む。おやジンさんの登山記録より

登山口から30分も経たず出会う「三番岩」と呼ばれる岩場

 

この岩山の安全を支えているのが「機動パトロール隊」だ。2008年に設立され、現在、隊員数は新人隊員含め53名。11歳から24歳の若きメンバーで成り立っている。

山での主な活動は、自治体と連携した山間部でのレスキュー活動、定期巡回による事故防止活動、地域の小中学生に向けた自然体験学習など。2013年には栃木県知事から、2016年には鹿沼警察署長から、それぞれ感謝状を授与されているほど、その活動は地元から高く評価されている。

 

発足とあゆみ

2008年、まだ中学一年生だった隊長の茂木和樹さんは、5人の仲間と自警団を結成した。 

「近所で火災が起き、身近な交通事故や事件が立て続いて、『これで良いのだろうか。自分に何かできることはないのだろうか』と思うようになり、仲間たちと機動パトロール隊を結成しました」

当初は「護身術教室の開催」「市街地の防犯パトロール」「イベントの警備」など、非常時から自分たちの安全を守るため、文字通り自警団として活動していた。

その活動はやがて、登山にも広がった。冒頭でも述べたように、鹿沼市街地に隣接してそびえる岩山は、アクセスの良さも手伝って気軽に入れる山だ。しかし、様子を知らずに上級コースに入り込むと、その険しさに進退窮まって動けなくなってしまう、事故を起こす、そんな登山者が絶えない場所となっていた。 鹿沼市は山岳地ではないので、本格的な山岳救助隊は置かれているわけではない。そこで機動パトロール隊のメンバーは、山岳レスキューの訓練を行い、その役割も担うようになったのだった。

 

最大の難所「猿岩下り」。動けなくなった登山者を背負って下ろすことも(写真下段)

 

岩山になくてはならない「機動パトロール隊」

こうした活動を維持していくために、機動パトロール隊は、2018年に日本山岳遺産に申請した。

実際に事故が多発しているエリアなので、早急な対策が求められること。小中学生を対象とした安全登山講習は、次世代登山者の育成にもつながる点が評価され、岩山は日本山岳遺産に認定され、機動パトロール隊には助成金が拠出された。この助成金は、壊れて使えなくなっていた登山届提出箱の設置や安全登山啓発ガイドブックの作成などの実費に活用される予定だ。

2015年の豪雨で浸水被害にあった際、機動パトロール隊に助けられたと語る地元の方と

 

いまや岩山になくてはならない機動パトロール隊だが、登山のサポートは、あくまでも市民の安全を守る自警団としての活動の一環という立場だという。「イベントの警備・準備のお手伝い」「電子機器の取り扱いの相談」「盗難自転車の捜索」「迷子のペットの捜索」「防犯診断&アドバイス 」「川での安全な遊び方」など、地域社会の安全サポートには昔と変わりなく力を注いでいるところが実に独特だ。

いずれにしても、我々が何気なく親しんでいる地域の低山で、安全に快適に登山が楽しめるよう、機動パトロール隊という若者たちの熱心な活動があるということを知っておきたい。

★日本山岳遺産認定地 詳細:鹿沼市 岩山[ 栃木県 ]機動パトロール隊(2018年)

日本山岳遺産候補地および助成団体を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体。
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体。
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体。

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費。
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費等の経費。
  • 資料の翻訳、印刷、出版等に係る経費。

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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