ついに日本一の富士山へ! さらに秩父山地の山々を縦走し、208座まで到達。~田中陽希さん旅先インタビュー第19弾~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

南アルプスの縦走を成し遂げた田中陽希さんは、早川沿いを南下し、次の山、七面山、毛無山へと向かっていた。その先に待っているのは、日本一の富士山だ。富士山の後は、2000m級の山々が連なる秩父山地を駆け抜けていった。9月上旬までの旅のお話を伺った。

POINT
  • 天候不安定の8月後半、日本一の富士山へ
  • 稜線が気持ち良い大菩薩。さらに北上して、秩父山地へ
  • 甲武信ヶ岳から瑞牆山。行く先々で見る、山の景色に感動の連続

 

天候が不安定だった8月後半、富士山へ

8月17日、二百名山の七面山には4年ぶりに登りました。4年前は9月に登り、年に一度の大祭の日で、信者の方で賑わっていましたが、今回は静かな山でした。コースは東側の表参道から登り、北東の北参道を下るルートを取りました。

196座目であっても初心は忘れずに


敬慎院は随身門が真東を向いていて、春分、秋分の日には本堂まで日の出の光が入るという山上の寺院です。入口の門の手前で富士山が見えるはずなのですが、ちらっと見えただけ。七面山の山頂はさらに先に登ったところにあります。

山頂ではご夫婦で登ってこられた方に会って、しばし談笑しました。奥様は中学生の時以来、60年ぶりに登ったとかで、昔のままのところもあると話していました。敬慎院に戻って、登拝者にふるまう味噌汁をいただき、裏参道を下山しました。

下部温泉の食堂にて。4年前も食べたカツ丼に再会


8月19日は、本栖湖に向けての移動でしたが、近道で峠越えのルートを選びました。地図に載ってる登山道がなく、地図に載っていない道がでてきたりして、地形を読みながら進みました。とても蒸し暑い日で、雷雨に遭い、ズブ濡れで本栖湖畔まで進みました。

この道は正しいのだろうか? 地形を見ながら峠を越え、ズブ濡れで本栖湖に着いた


翌日は、静岡・山梨県境の毛無山に登りました。4年前は富士山が見えなかったので、今回こそ富士山が見たいと思っていました。ところが、晴れ予報だったのに、天候が不安定・・・。

前日のズブ濡れよりはマシ・・・。富士山間近の毛無山も濃霧で視界不良


濃霧の中の登山となり、富士山を間近に臨める位置にありながら、その姿を見ることができませんでした。

梅雨の長期停滞も過ごした静岡県とは、ここでお別れ


次は、いよいよ日本一の富士山へ。初めて精進口ルートから登りました。精進口ルートは、山頂まで約30kmあり、最初は樹海の中を歩きます。樹海を進むうちは全く人に会うことなく、樹海の神秘的な光景を独り占めでした。

樹海から富士山へ。風穴は樹海ならではの景色


五合目の奥庭に来て、ようやく人に会いました。奥庭で昼食を食べ、御中道を歩いて吉田口五合目に着くと、外国からの登山者や観光客が大勢いて、全く別の世界に出た感覚でした。この日は五合目の佐藤小屋まで進んで宿泊しました。

それまで誰にも会わなかったのに、吉田口五合目に来ると、登山者と観光客でごった返していた


お盆を過ぎた平日だったとはいえ、天気が不安定だったのと、「山頂ご来光」の登山者の登山時間と違ったというのもあって、早朝の登山道はガラガラでした。

夏の富士山とは思えないほどのガラガラの登山道を登っていった


予定では2時間半くらいで登るつもりだったのですが、途中、お腹の調子が悪く、トイレで30分格闘してしまい、3時間半で吉田口の山頂へ立ちました。

吉田口山頂に到着! お鉢めぐりで剣ヶ峰へ


そこから初めてのお鉢めぐりへ向かったのですが・・・。吉田口山頂では見えていた剣ヶ峰が、富士宮口頂上の浅間神社の奥宮あたりで雲が出始めてしまいました。剣ヶ峰では雲に覆われてしまい、2時間待ったのですが、剣ヶ峰からの展望は残念ながら見られませんでした。

富士宮口頂上にある浅間大社奥宮へ着いたところで雲が・・・。剣ヶ峰では2時間待つも雲が動かず


山頂からの展望が見られず、残念だったのですが、お鉢めぐりの後半に向かいました。吉田口の下山ルートを六合目まで1時間で下山し、この日も佐藤小屋に泊まりました。

翌日は雨。先のことを考えると、天候を待って登り直すことまでは考えられず、佐藤小屋から、吉田登山道を北口本宮浅間大社へ向けて下山しました。

雨の中、五合目の佐藤小屋から下山


昨年11月、富士山の外輪山にあたる黒岳や三ツ峠山を歩いたときは、富士山がよく見えていました。しかし、天候が不安定な8月で、残念ながら、毛無山からの富士山も、富士山頂からの展望も得られませんでした。

日記には「富士山は、三百名山が終わったら、最初に登りたい山になった」と記した

 

稜線が気持ち良い大菩薩! さらに北上し、秩父山地へ向かった

河口湖畔から、次の山、大菩薩嶺に向けての移動の日は、振り返ると、富士山がよく見える好天の一日でした。富士山への登山は今日だったのかな、と後ろ髪を引かれる思いがしました。

皮肉なことに、この日は富士山の姿がよく見えた


この日は、清八山を超えて、笹子に下り、新笹子トンネルを抜けて、大菩薩の麓へ進みました。新笹子トンネルは、百名山のときにも通っていて、狭い歩道の恐怖は知っていたのですが、山道では16kmのところ、トンネルは3kmなので、トンネルを使って進みました。

山を越え、恐怖のトンネルを抜けて、次の大菩薩嶺を目指した


宿で地図を眺めながら、日本一長い山名「牛奥ノ雁ヶ腹摺山(うしおくのがんがはらすりやま)」が近くにあって、そこを経由しても大菩薩嶺へ登ることができると気が付き、予定していたルートを変更しました。

日本一高い山に続いて、日本一名前の長い山にも登頂した!


そして、稜線伝いで縦走したことで、最短コースで登っていたら知ることのできなかった、大菩薩の新たな魅力を体験することができました。

笹原の気持ちの良い稜線を伝って大菩薩嶺へ


大菩薩嶺からは一度戻って、丹波山村へ尾根伝いに下っていきました。

気持ち良い稜線を戻って、丹波山方面に縦走した


村の近くで、「日本一長いローラー滑り台」というのがあり、遊びに来ていた大学生に誘われて、連結滑りなどをして楽しく下山しました。実際には、もう日本一の座は奪われてしまったようなのですが、一日に2度も「日本一」に出会うことができました。

本日2つ目の日本一(?)をゲット!


8月26日、鴨沢登山口から七ツ石山経由で、東京都で最も高い、標高2017mの雲取山へ向かいました。この日も天気が優れず、平日で静かな雲取山になりました。

いざ、東京都最高峰へ!! 七ツ石山で「七ツ石」の山名由来を知る


この雲取山で200座目になりました。昨年の10月に北アルプスの大天井岳で100座目、それから10ヶ月を経て、ようやく200座目に到達した、という感慨が大きかったです。山頂で1時間ほど待ちましたが、晴れませんでした。

「あと100座」、自分にとってはようやく現実的な数字になったと感じながら、前から泊まってみたかった三条の湯まで進みました。

晴れを待つ間、200座到達の喜びを全身で表現!


翌日は、二百名山の和名倉山でした。三条の湯から、飛龍山とトラバース道を進み、山ノ神土(やまのかんど)からは、縦走路を外れて北へ向かいます。

和名倉山は、三百名山の中でも、一、二を争うほど「山頂らしくない山頂」


「山頂らしくない山頂」としては、三百名山でも一、二を争う、和名倉山の山頂に立ちました。4年前と違い、今回は展望の良いポイントにも立ち寄り、山の良いところをたっぷり味わって下山しました。これで残りは99座になりました。

途中の稜線は展望バツグン


次は、一度奥秩父主脈縦走路を外れて南下し、乾徳山へ登りました。4年前に泊まった宿は、すでに休業してしまっていたのですが、立ち寄って、94歳になる女将さんと再会。元気をもらってから山に向かいました。

4年前、二百名山の旅では思い出深い宿の一つ/山上から。この日の展望はよかった


4年前は雨の中、急ぎ足で登ったのですが、今回は天気が良く、山頂からは富士山が見え、南アルプスもうっすら見えました。下山後に再び女将さんにあいさつして次へ向かいました。

乾徳山の奇岩をしっかり体感することができた

 

秩父山地、仕上げの縦走。甲武信ヶ岳から瑞牆山、三百名山の諏訪山へ。

天候不順で2日停滞・休養となったあと、9月1日から、再び奥秩父主脈縦走路に入りました。まずは三富から徳ちゃん新道経由での甲武信ヶ岳を目指します。このルートは初めて登りましたが、急登で一気に標高を稼げる、好みの登山道でした。初めて登るルートは新鮮で楽しかったです。この日は、甲武信小屋で泊まりました。

甲武信ヶ岳へは徳ちゃん新道経由で。山上から甲武信ヶ岳と連なる山々が見えた


翌早朝に、203座目となる甲武信ヶ岳に立ちました。山頂からはこれから進んでいく縦走路が見えました。

日本一長い信濃川の源流点に寄り道し、最初の一滴を飲んでから、再び稜線に戻りました。

早朝、甲武信ヶ岳へ登る/日本一長い川・信濃川の源流点にて


次の国師ヶ岳までは、登山者ゼロで、奥秩父山地の最高峰・北奥千丈岳(2601m)にも立ちました。その先の大弛峠は、ここまでの静かな縦走路とは大違いでした。日本最高所の車道の峠(標高2360m)で、バイクツーリング、サイクリングの人が大勢いました。そのため、ここから金峰山までは登山者も多く、賑わっていました。

秩父山地の最高峰、北奥千丈岳へも立ち寄った


この途中、防寒ジャケットを落とすミスをしてしまいました。ジャケットを脱いだときは、いつも慎重にザックにくくりつけていたのですが、この時は気が緩んでしまったのかもしれません。走って戻って、探したのですが、見つかりませんでした。

アドベンチャーレーサーとして活動を始めてから、キャプテンに繰り返し指導されていた基本的なこと。自分の落ち度を反省し、気持ちを切り替えてから205座目となる百名山の金峰山へと立ちました。5年前は見えなかった五丈岩もしっかり見えました。

この日は、一日3座の三百名山のピークに立ち、稜線から少し下がったところにある金峰山小屋に、5年ぶりに泊まりました。小規模で居心地良く、自分好みの山小屋です。

翌朝、もう一度、金峰山に登り、山上で雲海に浮かぶ富士山を見てから、次の瑞牆山への縦走へと進みました。

翌朝再び金峰山山頂へ。五丈岩、雲海と富士山


稜線伝いに下っていき、富士見小屋から分かれて、瑞牆山へ登りました。山頂で1時間ほど晴れを待ちました。瑞牆山は、岩が林立してる姿から「奥秩父のサグラダ・ファミリアだ」と勝手に思っています。

下山後に瑞牆山を見返す。「奥秩父のサグラダ・ファミリア」だ


一日移動で、9月5日には、二百名山の御座山に登りました。

4年前、八ヶ岳・天狗岳で怪我をして5日も停滞した後、最初に登ったのが御座山でした。当時は捻挫した直後で、テーピングでガチガチに固めて、おっかなびっくり登った山で、とても楽しめなかったのでした。

4年ぶりに訪ねてみると、以前にはなかった、おもしろおかしい手作りの案内看板があって、御座山の魅力がわかりやすくまとまっていました。

雲の中でしたが、前回とは違い、御座山の魅力をしっかり味わって、下山できたと思います。

御座山の「ん」の木で開運/山頂にて


長野県からぶどう峠を越えて群馬県へ移動し、9月7日は、三百名山の諏訪山に初めて登りました。台風接近で蒸し暑い一日でした。

諏訪山は、御嶽山で修行した人が開いた山で、御嶽講の方々が登りに来る山とのこと。途中の三笠山までは修験の山で、ロープ、ハシゴが続きます。岩尾根ではヘルメットを着用しました。諏訪山は三笠山の少し奥にありますが、神仏混合で、神と崇めた痕跡が随所に見られ、昔から登られてきた山なんだと感じた山でした。

諏訪山への途上、三笠山。クサリ、ハシゴが連続する


秩父山地の山々は諏訪山で最後となり、ここから群馬県内を東へ約100km横断しました。

秩父山地の山々は、アプローチがよく、縦走路は静かで、山小屋も充実して、縦走しやすい山域でした。ところどころ南アルプスのような雰囲気もありました。この先を考えると、2000mを超えるような山地を長く縦走するのはこれが最後かもしれません。

アルプスを思わせるシラビソの林


実は、梅雨の停滞後、南アルプス、富士山と登り終わって、少し燃え尽きた感じになり、気持ちの切り替えができていないところがありました。ただ、アルプスや富士山とは違うけれど、行く先々で見せられる山の景色に感動しましたし、「山域ごとにそれぞれ魅力がある」ということを再確認ができた秩父山地の縦走になりました。

行く先々で見る山の景色に感動した

 

*****

 

これで残りは92座となった。三百名山の旅はまだまだ続く!

 

取材日:2019年10月4日
協力=グレートトラバース事務局

 

関連リンク

人力10,000kmの山旅。日本3百名山ひと筆書きに挑戦中の田中陽希さんを応援しよう!
もっと知りたいという方は、ウェブサイトで。
グレートトラバース事務局ウェブサイト
http://www.greattraverse.com/

 

今回のレポートで登った山のまとめ

 

七面山 [8月17日]

毛無山 [8月20日]

富士山 [8月22日]

大菩薩嶺 [8月25日]

雲取山 [8月26日]

和名倉山(白石山) [8月27日]

乾徳山 [8月29日]

甲武信ヶ岳 [9月2日]

国師ヶ岳 [9月2日]

金峰山 [9月2日]

瑞牆山 [9月3日]

御座山 [9月5日]

諏訪山 [9月7日]

プロフィール

田中 陽希

1983年、埼玉県生まれ、北海道育ち。学生時代はクロスカントリースキー競技に取り組み、「全日本学生スキー選手権」などで入賞。2007年よりチームイーストウインドに所属する。陸上と海上を人力のみで進む「日本百名山ひと筆書き」「日本2百名山ひと筆書き」を達成。
2018年1月1日から「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦し、2021年8月に成し遂げた。

https://www.greattraverse.com/

田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き」旅先インタビュー

2018年1月1日から、日本三百名山を歩き通す人力旅「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦中、田中陽希さんを応援するコーナー。 旅先の田中陽希さんのインタビューと各地の名山を紹介!!

編集部おすすめ記事