正しい姿勢で歩くために――。腰が引け、前屈み姿勢になる原因と対処法

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正しい姿勢で歩くことの大切さは理解できていても、そのとおりに歩くのは簡単ではない。今回は、正しい姿勢で歩けない原因と、その修正方法について言及する。

 

下山時は、腰がひけないように正しい姿勢で歩くのがいいと言われます。しかし、いくら気をつけていても、原因が解消されない限り実際には腰がひけてしまうものです。

「姿勢よく歩こう」という意識だけで、歩き方を修正することはほぼ不可能です。姿勢が崩れてしまう理由の多くは、体の使い方の癖が原因です。偏った体の使い方の癖を直し、特定の筋肉の筋力不足や柔軟性不足を解消することでのみ、姿勢を直すことができます。

特に、下山時に腰が引けて前屈みになる姿勢は、着地時の衝撃が大きくなり膝痛になりやすくなるうえに、スリップ転倒やバランスを崩しての転滑落につながる危険性が高いです。

これまでの記事(例:山を効率よく登れる「重心移動」のコツ下りで膝を痛めない重心移動のポイント)でも姿勢について解説してきましたが、今回はその内容を踏まえて、さらに詳しく姿勢改善のポイントをご紹介したいと思います。

 

そもそもなぜ、腰が引ける動きになってしまうのか?

登りでも下りでも、姿勢が崩れやすいのは、斜度が急な場面や段差のせいで一歩が大きくなる場所になります。
まずは、大きな段差を下る場面を元に、写真と合わせて解説していきます。

段差では、まず支持脚となる後ろ足を使って「しゃがみ動作」を行い、自分自身の体の位置を下げることで、一段下の地面に着地足(前足)を延ばします。この時に、支持脚が大きく動けば、着地足が地面により近づくことになり、着地衝撃を低減することができます。

下山時は、これらの動きを誰しもが行っていますが、この「しゃがみ動作」には大きく分けて2つのパターンがあります。それは①腰が踵側に下りていく「踵しゃがみ」と、②腰が爪先側に下りていく「爪先しゃがみ」です。

  踵しゃがみ(左写真) 爪先しゃがみ(右写真)
1.姿勢の状態 腰が引けた前屈み姿勢 ほぼ直立姿勢
2.足関節の動き 小さい 大きい
3.前頸骨筋への負荷 小さい 大きい
4.腓腹筋の柔軟性 必要ない 必要
5.加重ポイント 踵加重 爪先加重
6.足指の踏ん張る力 弱い 強い
特徴 ・踵着地になりやすい
・スリップ転倒しやすい
・前のめり転倒しやすい
腓腹筋の柔軟性と前頸骨筋の筋力がないと爪先しゃがみは出来ない

 

皆さん、一人一人のしゃがみ動作には違いがあって、腓腹筋の柔軟性と前頸骨筋の筋力が弱い方ほど足関節を使ったしゃがみ動作が出来ず、上写真(左)のような踵しゃがみになってしまうのです。

踵しゃがみと爪先しゃがみの違いを確認


踵しゃがみになる人は、登りの時から足関節をあまり使っておらず、また日常生活でも踵加重(踵重心)での立ち姿勢や歩き方が定着しています。特に極端に踵加重・踵重心の場合は「浮き指」などの症状があり、足指で踏ん張る力が弱い傾向もあります。

裸足で立った時に、指が地面に触れていないと、紙が入る隙間がある


このように姿勢が崩れる人が多い背景には、現代人が日常的に靴を履いて生活をするようになり、裸足や下駄・草履で歩く機会がなくなり、足指を使う機会が少なくなっていることがあるのです。

 

腰が引けた前屈み姿勢の対策法は?

登山のためのトレーニングとして、ふだんからランニングを行っている人は足指で踏ん張る力を自然に鍛えることが出来ます。ただし、走る際には踵着地にならないように注意が必要です。

それ以外にも、まず日常生活から足指を使って踏ん張り、爪先側に加重して立つ習慣をつけることが重要です。
また、隙間時間に爪先立ちをしたり、足指を動かすことを習慣にするといいでしょう。

こうして、爪先加重がしやすい状態を日常的に作った上で、登山中にも爪先側に加重をし、足関節を大きく動かしながら登り・下りする練習を重ねることで、長時間姿勢を崩さずに歩くことが出来るようになっていきます。

 

「下山は前屈み姿勢の方がいい」という解説も・・・

歩き方の指導の中には、「下山は前屈み姿勢で歩いた方がいい」という人もいます。そのような解説を見聞きしたことがある場合、私の解説を読むと混乱してしまうかもしれません。

確かに、尻もち転倒(スリップ)をしやすい人は踵加重である方が多いので、積極的に前屈み姿勢になることで爪先着地・爪先加重になり、短期的にはスリップを防ぎやすくなります。

しかし、反対に衝撃の大きな着地になりやすくなり、膝痛などのトラブルを改善することは難しく、長期的に考えると推奨できません。前のめり転倒を防ぐためには腹筋・背筋などの体幹の筋力で姿勢を前屈みになりすぎないように維持する必要があるため、テント泊登山やクライミングなどで既に体幹の筋力が備わっているバランス感覚の優れた登山者向けの歩き方です。

登山初心者の方がいきなり、強力な筋力を獲得することは難しいですので、偏った体の使い方の癖を減らし、バランス良く体を使えるように心掛けましょう。

なお「山の歩き方講習会」を定期的に開催しています。詳しくはホームページをご覧ください。

 

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方の密接に結びついている。 あるき方を頭で理解して見つめ直せば、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術に近づいていく。本連載では、写真・動画と一緒に、歩き方を論理的に解説。

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