冬山入門者必見! 一から学ぶ冬山グローブの選び方 第1回「グローブの種類とオススメモデル」

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冬山の過酷な寒さから指先を護る大切な装備、グローブ。準備しないといけないことは知っているけど、インナーグローブや一体型グローブなど種類が多くて、はじめはどれを買えばいいのか分からない・・・。そんな悩みを抱える冬山入門者のために、グローブの選び方のコツやメンテナンス方法などを、カモシカスポーツ横浜店の篠塚さんに聞いてきました! 全3回でお届けする第1回目は、グローブの種類とオススメモデルについて紹介します。

 

取材・文=吉澤英晃

 

冬山用のグローブは5つの種類に分けられる

ライター吉澤: 一言にグローブといってもいろいろな形のものがありますね。まずは種類から教えてください。

篠塚さん:冬山で使われる手袋には様々な呼び方があります。ここでは仮に、インナーグローブサーマルグローブ厚手ウールグローブオーバーグローブ一体型グローブと名付けて、5種類に分けて説明しましょう。

インナーグローブはウールや化学繊維で作られた薄手の手袋。単体で使うほか、保温性があるグローブを上に重ねることが多いです。慣れないうちは困難に感じる分厚い手袋をつけたままの細かな作業も、インナーグローブだけになれば素手に近い感覚で行うことができます。

サーマルグローブは主に単体で使う中厚手のグローブ。厚手ウールグローブはそのままの意味で、ウールで作られた生地が厚いグローブです。

オーバーグローブは防水性や防風性があり、インナーグローブやサーマルグローブ、厚手ウールグローブの外側に装着します。保温性はなく一枚の防水透湿性生地から作られることが多いです。

一体型グローブは、厚手ウールグローブとオーバーグローブがひとつになったものと考えてください。防水性や防風性に保温性がセットなった手袋です。一体型グローブのなかには表生地が取り外せるセパレートタイプもあります。

一体型グローブのセパレートタイプ。シェルから保温グローブを取り外した状態

 

ライター吉澤: 指の本数にも種類がありますね。

篠塚さん:指のタイプは3種類あります。5本指タイプミトンタイプ、ミトンタイプから人差し指を独立させた3本指タイプです。保温性は、5本指、3本指、ミトンタイプの順に高くなります。

ライター吉澤: できれば、より温かいグローブが欲しいですが、3本指タイプやミトンタイプは使いづらそうです。

篠塚さん:多くの方が5本指タイプを選びがちですが、登攀が伴わない一般的な冬山登山なら、3本指タイプがオススメです。ピッケルを持つときも3本指で問題ありません。慣れてしまえばバックパックのバックルを取り外したり、アイゼンを装着したり、細かな作業もストレスなく行えます。逆に、岩や梯子、鎖などをつかむ必要がある登攀的なルートには5本指タイプを選ぶといいでしょう。ミトンタイプは、主にトレッキングポールを使うシーンにオススメです。

 

最初の購入には一体型グローブがオススメ

ライター吉澤: 最初に購入するなら、どの種類がオススメですか?

篠塚さん:一体型グローブがオススメです。ただし商品によって対応温度域が異なるので、選ぶ前に目的の山域と計画を立てる時期を明確にしましょう。目的山域の積雪の有無と、12月〜2月までの厳冬期と呼ばれるシーズンか、3月以降の残雪期と呼ばれるシーズンかによって、購入すべきモデルが変わってきます。

ライター吉澤: アプローチが容易で冬山初心者に人気が高い北八ヶ岳を想定して、計画を立てやすいと言われている3月以降の残雪期にオススメのグローブを教えてください。

篠塚さん:北八ヶ岳は雪が積もる山域なので、まずは防水性があるグローブに的を絞ります。3月以降の残雪期は天候が安定して日増しに気温も高くなる期間なので、よほど天候が荒れない限りは、対応温度域が極端に低いグローブを選ぶ必要もありません。

このようなシーンには、ブラックダイヤモンドの「グリセード」をオススメしています。防水透湿素材の表生地に中綿が入った一体型グローブで、メーカーが公表している対応温度域は−17度/−1度。アクティビティーを選ばないオールラウンドモデルです。

ブラックダイヤモンド/グリセード
問い合わせ:ロストアロー https://www.lostarrow.co.jp/

 

ライター吉澤: −17度まで対応できれば、厳冬期にも使えそうですね。

篠塚さん:もちろん厳冬期の北八ヶ岳にグリセードで行ける人もいるでしょう。ただし厳冬期は冬山のシーズンのなかでももっとも寒い期間になります。手袋が温かくても困ることはないので、残雪期に選ぶグローブよりも保温性が高いものを選びましょう。

オススメは、ブラックダイヤモンドの「ソロイスト」と「ソロイストフィンガー」。グリセードのワンランク上の保温力があるモデルです。5本指タイプのソロイストの対応温度域は−26度/−9度。3本指タイプのソロイストフィンガーのほうが保温性に優れており、対応温度域は−29度/−12度になります。いずれも外側のシェルから中綿が入った内側の防水グローブが取り外せるセパレートタイプです。

ブラックダイヤモンド/ソロイスト

 

ブラックダイヤモンド/ソロイストフィンガー

 

ライター吉澤: 厳冬期と残雪期の両方で計画を立てる場合、手袋はふたつ購入するべきでしょうか?

篠塚さん:不測の事態に備えて、雪山では同程度の保温性を備える予備グローブを必ず用意したほうがいいです。そういった意味でも、ふたつ所持するのが好ましいと思います。ただしどうしてもという場合は、計画する期間のなかでもっとも低い気温を想定してひとつ購入しましょう。

また、予備としてではなく、使い分けとしてはサーマルグローブがあると便利です。例えば、気温が低いときや山頂へのアタック時には一体型グローブを装着し、気温が高いときや標高が低い場所からのアプローチなどではサーマルグローブを使うなど、対応できる温度域が広がります。

インナーグローブも厚みの違いで保温性に差がある

 

グローブの対応温度域は明確に答えられない

ライター吉澤: 対応温度域について詳しく知りたいのですが、大半のメーカーは対応温度域を公表していません。一般ユーザーはどこを見れば分かりますか?

篠塚さん:じつは私達ショップスタッフも、そのグローブで何度まで耐えられるか、明確に答えることはできません。それは、素材の厚みや裏地の起毛の状態、一体型グローブなら中綿の種類などによって、商品の温かさが微妙に変わってしまうからです。では、どのように接客しているのかというと、実際に冬山に登った経験則から、その場で使用したグローブの素材やボリューム、起毛の具合などを店頭にある商品と比較して、これなら何度くらいまで耐えられるか、常に考えているのが現状です。

ライター吉澤: 重さが同じ手袋でも対応温度域は変わりますか?

篠塚さん:一体型グローブについて話をすると、対応温度域に関わるのは主に中綿の封入量です。総重量が同じでも、表生地に使われている素材、例えばナイロンなのか革なのかによって、中綿量に差が出てしまいます。封入されている中綿の重さが公表されていて、それを比べることができれば話は別ですが、総重量だけでは単純に比較することができません。カタログやインターネット上で悩むよりかは、店頭で実際に商品を試着してみて温かさを確かめたり、冬山経験が豊富なショップスタッフに相談したりしたほうが、納得できる回答を得やすいと思います。

 

雪がない山はサーマルグローブでもOK

ライター吉澤: これまでは北八ヶ岳を想定して積雪がある山の話をしてきましたが、なかには雪がない冬山もあります。その場合はどのようなグローブは選べばいいですか?

篠塚さん:そもそも雪が積もらない、雪が降っても少量だけという山に行く場合は、雪で濡れる心配がなくなるので、一体型グローブではなく、サーマルグローブを選んであげてもいいでしょう。サーマルグローブのなかでも、防風性があるものや、手のひらにグリップ力を高めるパームパッチがついているものなど、それぞれ特徴が異なります。単体での使用をメインで考えているなら防風性があるもの、トレッキングポールを頻繁に使う場合は手のひらにパームパッチが付いているモデルがオススメです。

ただし、一体型グローブやオーバーグローブと組み合わせて使うことを想定している場合は、なにもついていないシンプルなサーマルグローブかインナーグローブが使いやすいでしょう。どうしても防水性があるグローブが欲しい場合は、夏用のレイングローブが使えるかもしれません。インナーグローブ+レイングローブの組み合わせもありです。

左はパームパッチがついたサーマルグローブ。グリップ力に優れる

 

ライター吉澤: はじめに紹介していただいた5つの種類のうち、厚手ウールグローブとオーバーグローブが登場しませんでした。このふたつはいつ使うのでしょうか?

篠塚さん:厚手ウールグローブとオーバーグローブは、どちらかというと長期山行にオススメしたいグローブのセットです。次回、詳しく説明します。

 

●次回は2020年1月17日公開!

プロフィール

篠塚 優

カモシカスポーツ 山の店・横浜店勤務。ウェア&グローブ担当。高校時代から山を登りはじめ、大学時代にはワンダーフォーゲル部に所属。当時は年間100日以上山に向かい、連続して10日以上の計画に参加した経験もあり。卒業後も登山を続け、クライミングや沢登りの技術を習得。縦走、沢登り、クライミング、雪山と、四季を通して山を楽しんでいる。

カモシカスポーツ 山の店・横浜店

神奈川県下随一の品揃えを誇る登山用品専門店。登山入門者向けのウェアやバックパックを豊富に取り揃える一方で、店内にはクライミングウォールがそそり立ち、クライミングシューズやクライミングギアなど専門的な道具も充実。書籍コーナーも広く、一般書店に負けないほどのラインナップで古今東西の山の本が並んでいる。
住所:神奈川県横浜市西区高島2−6−32 横浜東口・ウィスポートビル1F
TEL:045-440-0711
営業時間:11:00〜20:00、土日祝日11:00〜19:00
アクセス:JR東海道本線ほか横浜駅東口から徒歩5分
https://kamoshika.co.jp/stores/yokohama

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