冬山入門者必見! 一から学ぶ冬山グローブの選び方 第2回「山行による使い分けのコツ」

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冬山の過酷な寒さから指先を護る大切な装備、グローブ。準備しないといけないことは知っているけど、インナーグローブや一体型グローブなど種類が多くて、はじめはどれを買えばいいのか分からない・・・。そんな悩みを抱える冬山入門者のために、グローブの選び方のコツやメンテナンス方法などを、専門店のスタッフに聞いてきました!第2回は、山行による使い分けのコツについてお伝えします。

取材・文=吉澤英晃

⇒第1回「グローブの種類とオススメモデル」

 

厚手ウールグローブ+オーバーグローブは、濡れに強く、乾きやすい

ライター吉澤: 前回の続きから、厚手ウールグローブとオーバーグローブは長期山行にオススメだと教えていただきました。

篠塚さん: 厚手ウールグローブとオーバーグローブはそれぞれを単体で使うことは稀で、厚手ウールグローブにオーバーグローブを重ねたワンセットで装着します。そのため、この組み合わせには一体型グローブにはないメリットがあるんです。
 

厚手ウールグローブ。商品によって厚みが異なる

 

オーバーグローブ

 

ライター吉澤: それが長期山行にオススメする理由ですね。

篠塚さん: その通りです。厚手ウールグローブとオーバーグローブの組み合わせには、濡れても冷えを感じづらく、さらに乾かしやすい、という特徴があります。

ライター吉澤: それは逆に、一体型グローブは濡れると冷たく感じてしまい、乾かしにくい、ということでしょうか?

篠塚さん: まずは一体型グローブのメリット・デメリットから説明しましょう。一体型グローブのメリットは、文字通り表生地と保温材が一体になっているため、指先に余分な隙間が生まれない分、操作性が高いといえます。前回紹介した「ソロイスト」や「ソロイストフィンガー」のように表生地が取り外せるセパレートタイプであっても、余分なスペースが生まれないように設計されているので、操作性の高さに変わりはありません。また、厚手グローブ+オーバーグローブと比べると価格が安くなる場合があり、それも最初の購入に一体形グローブをオススメする理由のひとつです。

しかしデメリットもあります。それが濡れてしまうと冷たく感じてしまうという点です。冬山で手袋が濡れる要因は、外側の雪によるものと、内側の汗によるものがあります。保温材として化繊綿が封入されている場合は中綿まで濡れて保温力が著しく低下することはないですが、表生地や内側が水分を含むとシンシンと冷える感覚があります。それを乾燥させようとしても表生地が厚いモデルもあるため、とても乾かしにくい。特に内側は山小屋の乾燥室などを利用する以外に、山中で完全に乾かすことはほぼ不可能といえます。

ライター吉澤: 厚手ウールグローブ+オーバーグローブが乾かしやすいのはなぜですか?

篠塚さん: こちらの場合も一体型グローブと同じ要因で濡れてしまいます。ただし、外側のオーバーグローブは一枚の薄い防水透湿性生地から作られているため、一体型グローブと比較すると乾かしやすいです。さらに、内側の厚手ウールグローブは使われているウールの特性上、濡れても冷たさを感じづらいという利点があります。そのため厚手ウールグローブ+オーバーグローブの組み合わせは、濡れても冷えを感じづらく、乾かしやすい、といえるのです。

ただし、もちろんデメリットもあります。それぞれのグローブの間に無駄な隙間が生まれやすいので、一体型グローブと比べると操作性は低いです。また、ふたつのグローブを購入しないといけないため、合計金額が一体型グローブより高くなってしまう場合もあります。

オーバーグローブの内側には綿などが入っていない
 

グローブは山行日数や宿泊スタイルで使い分ける

ライター吉澤: それぞれのメリット・デメリットは分かりました。今度はどのように使い分ければいいか、詳しく知りたいです。

篠塚さん: 一体型グローブは、日帰りや1泊2日の山行、2泊以上でも山小屋に泊まる場合にオススメです。濡れるといっても水が滴るほどのことはないので、日帰りや1泊2日なら気にしなくても大丈夫。2泊以上でも山小屋で乾燥室などを利用すれば乾かせる可能性があります。

厚手ウールグローブ+オーバーグローブは、やはり長期山行にオススメ。特に2泊以上のテント泊に有効な組み合わせです。限られた環境のなかで継続して使うことを考えると、こちらの組み合わせのほうが一体型グローブよりも優れているといえるでしょう。

ライター吉澤: なんだか、厚手ウールグローブ+オーバーグローブのセットは出番が少なそうですね。

篠塚さん: そうともいえるのですが、メリットはほかにもあります。例えば耐久性。一体形グローブは表生地がダメージを受けると、まるまるひとつを買い換える必要があります。しかし、厚手ウールグローブ+オーバーグローブの組み合わせなら、外側のオーバーグローブを交換するだけでOKです。

もうひとつ、汎用性も高いといえるでしょう。厚手ウールグローブのスペアとして厚さ違いのウールグローブやサーマルグローブを持っていれば、一体型グローブ単体よりも様々な気温に対応することができます。

 

不測の事態に備えて予備グローブを持つ

ライター吉澤: 篠塚さんは普段、どちらのタイプのグローブを持っていますか?

篠塚さん: 私の場合、サーマルグローブに加えて、ひとつは一体型グローブであるブラックダイヤモンドの「グリセード」を持ち、予備として厚手ウールグローブ+オーバーグローブのセットを準備しています。さらに厚手ウールグローブは、厚さが違うものを2種類持っているので、時期に合わせてどちらかを用意するのがいつものラインナップです。

冬山登山においてグローブは必須アイテム。風で飛ばされて紛失してしまったときなど、使えなくなる状況は非常に危険です。山行を中止せざるを得ないどころか、身体がダメージを受けてしまう可能性も高い。そのため、予備は必ず持つようにしています。一体型グローブと厚手ウールグローブ+オーバーグローブの両方を準備しているのは、様々な気温や状況に対応するためです。

具体的な使用方法を紹介すると、例えば2月中旬の天気が良い日に北八ヶ岳の渋の湯から天狗岳を目指す場合、中山峠までの樹林帯はサーマルグローブだけで出発して、冷えてきたらグリセードに変更します。そして、中山峠から天狗岳までの森林限界を越えた稜線上では、風が強い場合はラインナップ中もっとも保温性が高い厚手ウールグローブ+オーバーグローブの組み合わせを装着する、といった具合です。

ルートの状況によっても使う手袋を変えていて、操作性に優れる一体型グローブは、例えば南八ヶ岳の赤岳のような岩や梯子をつかみたい場面が出てくる行程でメインに使い、厚手ウールグローブ+オーバーグローブは、一体型グローブが濡れてしまったときや、ラッセルを強いられて必然的に手袋が濡れてしまうような場面で活用しています。

ライター吉澤: 予算があれば種類が異なるグローブを予備として用意することがベストなんですね。そういえば、手袋が風で飛ばされることも考えられると言っていましたが、これはよくあることなのでしょうか?

篠塚さん: 特に冬山の稜線上は風が強いことがあります。気を抜くと手袋以外に帽子なども飛ばされる可能性が高いので、注意が必要です。ただし、そんな強風時の紛失を防ぐアイテムも市販されています。次回はメンテナンス方法やサイズの選び方なども含めて、さらに細く話しましょう。

 

●次回は2020年1月24日公開!

プロフィール

篠塚 優

カモシカスポーツ 山の店・横浜店勤務。ウェア&グローブ担当。高校時代から山を登りはじめ、大学時代にはワンダーフォーゲル部に所属。当時は年間100日以上山に向かい、連続して10日以上の計画に参加した経験もあり。卒業後も登山を続け、クライミングや沢登りの技術を習得。縦走、沢登り、クライミング、雪山と、四季を通して山を楽しんでいる。

カモシカスポーツ 山の店・横浜店

神奈川県下随一の品揃えを誇る登山用品専門店。登山入門者向けのウェアやバックパックを豊富に取り揃える一方で、店内にはクライミングウォールがそそり立ち、クライミングシューズやクライミングギアなど専門的な道具も充実。書籍コーナーも広く、一般書店に負けないほどのラインナップで古今東西の山の本が並んでいる。
住所:神奈川県横浜市西区高島2−6−32 横浜東口・ウィスポートビル1F
TEL:045-440-0711
営業時間:11:00〜20:00、土日祝日11:00〜19:00
アクセス:JR東海道本線ほか横浜駅東口から徒歩5分
https://kamoshika.co.jp/stores/yokohama

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